第52話 断れ
クラウディア。
マガツヒ教の孤児院出身のガキである。
まあ、孤児院から出る程度には年齢を経ているが、俺からするとガキだ。ガキ。
ダリアに孤児院での仕事を押し付けられた時からちょくちょく顔を合わせているため、付き合いは長い。
そんな彼女は、割と俺のお気に入りであった。
「…………」
「いたぁい!?」
ユーリエに足を踏まれる。
な、なんで!?
ジトっとした目を向けてくる。
「……節操なし」
「何が!?」
意味の分からない糾弾に、俺も呆然とする。
だいたい、俺が女に手を出そうとするわけないだろ!
楽してプチ贅沢がしたいって言ってんのに、なんで責任を増やすようなことをするんだよ! バカかよ!
だいたい、クラウディアは子供なのに、なおさら手を出すはずがない。
茶色の髪は長いポニーテールにまとめており、動きに合わせてぴょこぴょことせわしなく暴れる。
目はクリクリとしていて大きく、はっきり言って童顔だ。
体躯も小さく、本当に子供のように見える。
まあ、胸は大きく盛り上がっているが、乳一つで興奮できるほど俺も単純じゃないし、何とも思わん。
『それは生物としてどうなの……?』
別に変でもないでしょ。
「お久しぶりですー! もっとお会いしたかったんですけど、マガツヒ教のためのお仕事が忙しくて、時間が取れず……。とても悔しいです!」
そう言って嬉しそうに笑うクラウディア。
いいね、バカっぽくて。
自分よりも劣っていることが伝わってきて、とても優越感に浸れていい。
だからガキは好きだし、その中でもバカっぽいクラウディアは特にお気に入りだ。
「マガツヒ教のためにそこまで頑張らなくてもいいんですよ。クラウディアはクラウディアのために、やりたいことをやればいいんです。そういうのは、大人の仕事ですからね」
マガツヒ教のためとか、誰も喜ばないから。
少なくとも、俺はまったく嬉しくないから。
『子供も労働力だよ!』
ガキを働かせようとか、マジでえぐいですよ、マガツヒ様。
嫌われる理由が分かりました。
『……え? 僕嫌われているの?』
普段の言動を信者に知らしめたら、多少はまともな感覚を取り戻してくれそうに思う。
……暴露するか?
『そうなったら完璧に取り繕うから無駄だよ』
こ、この女神……!
俺とユーリエのことを揶揄するくせに、自分も演技する気満々じゃねえか……!
「でも、僕もマガツヒ教のために頑張りたくて……。僕が救ってもらえたのは、ライアー様とユーリエ様、そしてマガツヒ教があったからですから!」
救った……?
全然そんな覚えないんだけど……。
……まあ、勝手に恩を感じてくれているんだったらいいか! 得した気分だ!
バカだから使い道は限られているが、いざという時の生贄にできるし。1
「んー、本当に気にしなくていいですよ。とくに宗教の方は」
「ええ、本当に。わたしに恩返ししてくれたら、それでいいですよ」
にっこりと聖女スマイルを披露するユーリエ。
【私たち】にしろよ。なんでお前個人なんだよ。
「分かりました! 全力でお二人の力になれるよう、僕頑張るですよー!」
両手を上げて、うおー! と気勢を上げるクラウディア。
うーん、本当にバカみたいだなあ。
いいぞぉ、これ。最近、ダリアみたいに怖い奴いっぱいだから、こういうバカは安心する。
下を見て安心するのが、俺クォリティ。
「じゃあ、僕は監督に戻ります。今度時間を作るので、いっぱいかまってくださいね!」
「ええ、そんなに頑張らなくていいですよ」
「さようなら、クラウディア」
そして、無駄に滞在することもない。
素晴らしい……。
……というか、こんなバカなのに城塞化の監督をしているの? マジ? 大丈夫?
おそらく大丈夫ではないだろう。すぐに崩されるような城塞都市になっていそう。
まあ、それはそれでいいか。
俺は別に天使教や国と喧嘩したいと思っているわけでもないんだし。
クラウディアは俺たちにニコニコと笑みを振りまいた後、わざわざダリアの傍に寄ってから去って行った。
「――――――またお二人に危険が及ぶような最悪なことは起こさないように、しっかり注意してくださいね」
「言われずともわかっています」
ぼそりと何かを言って、クラウディアは飛んでいった。
……あれ? 人間って飛べたっけ?
それもそうだし、ダリアに何か言っていた時、ピリッとしていなかった?
バカなガキが発する空気ではないのを、一瞬感じ取ったんだけど?
「……何か話していましたか?」
「いえ、大した話ではありません」
にっこりと笑うダリア。
ほんとぉ?
お前の言うこと、あんまり信用できないんだけどぉ……。
『誰か信用している人いたっけ?』
いないですけど?
『えぇ……?』
「今日はお二人のおかげでこの街が活気を取り戻し、またマガツヒ教の一大拠点になったことを報告したくてお付き合いいただきました。ありがとうございました」
ダリアはそう言って頭を下げてきた。
そうか。俺は嫌な現実を突きつけられて、気分がげんなりとしているわ。
どうしてくれるの? この罪。
「いえ、勉強になりましたよ。もう大丈夫ですけど」
「ええ。皆さんの頑張りが伝わってきてよかったです。もう大丈夫ですけど」
『嫌がってるじゃん』
もう次からはユーリエだけ呼んでほしい。
とりあえず、ダリアに付き合うのも終わりだろう。
またスラムの教会に戻って、ゴロゴロサボろう。
そんなことを考えていると、突如として現れたのはシーサイスだった。
……あれ? こいつどこから出てきた?
長い黒髪をたなびかせ、眼鏡越しに鋭い目が光る。
見た目がいいから、普通にしていても怖いわ、こいつの顔。
あと、やけに俺に対してあたりが強いから好きじゃない。
「ライアー、聖女様」
なんで俺だけ呼び捨てなの、こいつ?
不敬じゃない?
「シーサイス、どうかしましたか?」
「報告を」
報告?
なにそれ。嫌な予感がする。
何も言わないでいいぞ。
俺の祈りも届かず、シーサイスは口を開いた。
「天使教が、会談を申し込んできました」
断れ。
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第11話
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第15話
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