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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第3章 

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第51話 バカそうなガキ











 現在、俺たちがいる街は、もともとは貴族のなんちゃら君が統治していた、普通の街だった。

 マガツヒ教はそんな街で小さく活動している、土着宗教である。

 ……という、俺が認識していた実情が大きく変容したのは、少し前のことである。

 すなわち、マガツヒ教のクーデターである。

 教祖である俺がまったく関知しないうちにとんでもない戦力をかき集めていたマガツヒ教が、領主である貴族を殺して街を乗っ取ったのである。

 理解できる? 俺はできていない。

 いまだに夢なんじゃないかと思っているんだけど。


『夢じゃないよ。素晴らしい現実だよ』


 この女神、常識人ぶっているくせに、宗教が絡むと化け物みたいな考え方になるんだよなあ……。

 クーデターが素晴らしい現実なわけねえだろ。

 さて、そういった現状であるこの街だが、国から討伐軍が送り込まれていることはなかった。

 いつかは来そうなものだが、すぐに動けるほど国も軽くないらしい。

 だから、俺のやるべきことは、その間に逃げる場所と持って行くものを確保すること。

 そして、誰にもばれずにこっそり夜逃げすることだ。

 もちろん、ユーリエは置いていく。

 貴重な生贄なのだから。


「ライアー。わたしはずっと一緒ですよ」

「……ははっ」


 がっしりと腕を掴んでくるユーリエ。

 お互いに笑いあう。

 ……こいつ、なに自然と俺の考えを読んでんだ?

 食い込む爪が、俺を逃がさないと如実に語っていた。痛い。


「教祖様と聖女様は、いつも仲良しでとても羨ましいです。お二人の関係が良好だからこそ、マガツヒ教は安定しているのでしょうね。まさに、大黒柱が二つ立っている感じです」


 今の俺たちの様子を見て仲良しとか、ダリアの目は節穴か?

 しかも、マガツヒ教の大黒柱とか……。

 最大級の侮辱だぞ、それは。


『そんなわけないでしょ! 誉だよ、誉!』


 うるせえ。


「いえいえ、私の力なんて微々たるものですよ。大黒柱はユーリエ一人です。その彼女を、ダリアたちが支えてくれているんです」

「っ!?」


 ぎょっとするユーリエ。

 沈みゆくのはお前ひとりで充分だろ。俺は逃げる。


「私の力こそ微々たるものです、教祖様。お二人がいなければ……」


 そう言って、ようやく高台に上る。

 ダリアはそこで、誇らしげに胸を張り、成果物を見せびらかす子供のように腕を広げた。


「こんな素晴らしい街を作ることも、できませんでしたから」


 眼下に広がる街並み。

 もともと、それなりの規模で、それなりの活気があった街だ。

 それは、さらに活気を増している。

 行きかう人々はみんな笑顔だ。むかつく。

 ちょっとは不幸な感じになっていてくれないかな。

 それだと、俺も笑顔になれるのに……。

 まあ、それくらいだったら別にどうでもよかったのだが……。

 問題は、以前までは存在しなかったものが、いくつも点在していることである。


「すばら……素晴らしい……?」


 あれが……素晴らしい……?

 俺の考えにはない発想で、思わず目を見張る。


「あの銅像は……?」

「もちろん、お二人のものです。この世界で最も尊いものを銅像にして崇めるのは当然のことですので」

『あれ……? 僕は……?』


 そびえたつ銅像。

 明らかに俺とユーリエだった。

 ……いつの間にあんなの作っているの? 悪趣味にもほどがある。

 あと、マガツヒ様がさみしそうに声を出しているが、確かにマガツヒ教なら信仰対象を銅像にするべきなんじゃないの?

 なんで俺とユーリエなんだよ!

 さらに、異常はそこだけではない。

 露店で売られている品物にも、違和感があった。


「あ、あそこで売っている絵は……?」

「お二人の肖像です。家に飾っていると、いつでもお二人に見守られていることが実感できるということで、大人気です。私も超巨大肖像を飾っています」

『僕は……?』


 またもやさみしそうに声を漏らすマガツヒ様。

 売られていたのは、俺とユーリエの絵である。

 しかも、割と似ているのがむかつく。

 いつの間に? モデルになった記憶なんてないんだけど!?

 というか、マガツヒ様の絵を作ってやれよ!

 信仰対象が落ち込みまくっているぞ!

 面白いからいいけど!

 そして、次に目を引くのは武装した男女の集団。


「あちらの人たちは……?」

「これから練兵場に向かう人々でしょう。自発的にマガツヒ教を外敵から守るために志願してきた兵たちです。その分、士気も高く、教えられたこともすぐに吸収すると報告が上がっています。頼もしい限りですね」


 ぞろぞろと移動していく物騒な連中。

 ……なにあれ? 軍隊みたいに見えるんだけど。

 私兵とかとはまた違うレベルに見える。

 戦力を整えて何をする気だお前らぁ!


「あちらは……?」

「城塞化の工事ですね。これからさらに世界に打って出ますが、拠点は必須です。難攻不落の街にするように、指導しております」

「そう、ですか……」


 工事の音が大きく響き渡る外壁。

 もともとあったものだが、それは大したものではなかった。

 戦争が起きているわけではなかったし、そもそも国境に近い場所でもないしな、この街。

 だというのに、今では城塞と言えるレベルに壁は高くなっているし、何やら武装まで見える。

 いざというとき、籠城する気満々に見えるんだが?

 ……これ、国からの討伐軍対策じゃない?


「ああ、そういえば指揮している者がお二人にお会いしたがっていましたが……」

「いえ、邪魔になるのでやめておきましょう」

「そうですね。わたしたちは邪魔になると思うので」


 速攻で断る方向に向かう俺とユーリエ。

 ふざけるなよ。これ以上狂信者と顔合わせなんてしたくないに決まっているだろ。

 ダリア、シーサイス、アバドン、ハメル……。

 もうお腹いっぱいなんだよ!

 すぐにでも去ろうとしていたが……。


「ライアー様ぁ! ユーリエ様ぁ!」


 元気な声が響き渡る。

 一瞬びくっと肩をはねさせるが、ホッと胸をなでおろした。

 なぜなら、こいつは俺が下に見ている(好きな)、ほとんど子供みたいなやつだからだ。

 小さな身体をぴょんぴょんさせているガキを見て、俺はにっこりと笑った。


「ああ、クラウディア。お久しぶりですね。最近は会いに来てくれなくて、さみしかったですよ」

「僕もですよー!」


 俺の目の前に文字通り飛んできて、嬉しそうに跳ね回るバカそうなガキ。

 それが、クラウディアだった。



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