第50話 見ていただこうかと思いまして
ダリア。
マガツヒ教のシスターにして、幹部。
マガツヒ様がつけた、恥ずかしくないの? と思ってしまう十天鬼衆とやらの第4位らしい。
あのやばい女神が気に入った10人が選抜されている。
判断基準はよくわからないが、気に入られている時点でろくでもない奴らしかいないのは分かっている。
このダリアを筆頭に、シーサイスやアバドンも選ばれているし、やっぱりろくでもない。
まともじゃない人間であると知らしめてくれるから、十天鬼衆とかで集まってくれているのは助かる。
俺の方からは絶対に近づかないし。
しかし、ダリアも見た目だけなら普通に温厚そうなシスターなんだけどなあ……。
銀色の長い髪と肌の露出がほとんどないシスター服が特徴的な女。
いつもニコニコ笑っているから糸目だ。
たまに目が開くと怖い時である。俺にとっていいことが何もない時だ。
しかも、普段している仕事は、孤児院の運営である。
そんな女が、まさかクーデターを企てた首班だと、誰が気づけるだろうか。
つらい……。
そんなやばい女に誘われて断れるはずもなく、俺とユーリエは彼女に連れられてサボり場……もとい教会から移動していた。
移動した先は……。
「本当に申し訳ありません。教祖様も聖女様も、とてもお忙しいのにお時間をいただいてしまって……」
「いえいえ、気にしないでください。こういうお仕事なら、喜んでお手伝いしますよ」
「ええ、そうですね。普段は何の役にも立てませんが、こういうことなら頑張れます」
ダリアの申し訳なさそうな言葉に、俺とユーリエはニコニコ笑いながら否定する。
いや、仕事だから全然喜べないんだけどね。
ただ、絶対に嫌かと言われると、そうでもないことをお願いされていた。
それは、今のいる場所……孤児院での、鼻たれガキどものお守りである。
どいつもこいつもキャッキャと騒ぎやがっている。うるせえ。
「そんな、とんでもありません。聖女様の御威光のおかげで、私たちが存在することが許されるのですから。まさに、私たちにとっての光そのものなんですよ」
「あ、ありがとうございます……」
うっすらと糸目を開いて祈りを捧げ始めるダリアに、ユーリエの頬が引きつる。
俺は、そんなユーリエを呆然と見つめた。
「光……?」
どこに光の要素が……?
ただの暗黒化身だろ、こいつ。
「なにか?」
「いいえ」
笑顔なのに笑っていない顔を向けてくるな。
というか、自然に俺の思考を読むな。
「それにしても、孤児院も随分とにぎやかですね。子供たちが元気なのは素晴らしいですが、孤児院が繁盛するような世の中にはなってほしくはないですけれど……」
「そうですね。ですが、マガツヒ教の孤児院はお二人とマガツヒ様のおかげで、とても充実しています。少なくとも、天使教の孤児院よりもはるかに。だから、子供たちが多く集まってくるんですよ」
「へー……」
『興味なさすぎ』
ほーん。耳障りのいいことを言って甘い汁を啜ろうとするやつは、こういう慈善活動をよくやるものだもんな。
『偏見すごくない?』
すごくないです。
天使教のことを言っていたが、実際に運営まではしなくとも、パトロンのように資金を拠出するのは、貴族や王族、豪商がよくする。
弱者にやさしくしていると、社会的評判も上がりやすいしな。
私腹を肥やしているだけだったら、敵視されやすいし。
ただ、その資金量が少なかったり、口では言っていても大して支援していないパターンもあるだろうが。
『なんでそこまで分かるの?』
俺ならそうするから。
『ああ……。嫌な説得力だ……』
天使教も運営しているけど、割と雑にしているんだな。
まあ、すでに頂点にある宗教だから、必死に評判を上げようとしなくともいいからか。
正面から批判してくるような奴、そうはいないだろうし。
「しかし、子供の相手をするのはいやされますね。汚れた自分が洗われていくようです」
『えっ。ライアーにそんな殊勝な気持ちが残っているの?』
ポツリと呟いた言葉に、俺とユーリエ以外の前では姿を現さない引きこもりコミュ障女神様が驚きの声を漏らす。
いや、別に俺は汚れていないけど?
そんなの、心にも思っていない適当を言っているだけに決まっているだろ。
建前ですよ、建前。
『確かに。君って子供とか嫌いそうだもんね』
とんでもない偏見を持ってくれてんな、こいつ。
一度でも、俺がガキを嫌いだと言ったことがあったか?
『ガキって言っている時点で嫌いでしょ』
いや? 別に嫌いじゃないですけど?
というか、むしろ好きなくらいだ。
『えぇっ!? 復活してから最大の驚きなんだけど!!』
本当、復活しなかったらよかったのに……。
めちゃくちゃ失礼ですね、クソ女神様。
『だって、普段の君の性格なら、小さくて目障りだから潰したいとか、ぎゃあぎゃあうるせえから踏みたいとか言いそうじゃん!』
俺をなんだと思っているんだ、この馬鹿。
まあ、確かに騒がしいガキとかは嫌いですけど、一般的には好きですよ。
『へー。ライアーにそんなまともな感性があっただなんて……。ちょっと安心したよ。確かに、子供はいいよね。敬虔な信徒になってくれるし!』
……おかしいな。
普通の人が子供のことを好きだと言っていたら、全然いいことのはずなのに……。
この女神が言っていると、どうしても引っかかる。
洗脳のこと言っています?
『ち、違うよ! じゃあ、君はどうして子供が好きなの? 理由があるでしょ?』
それはまあ……。
別に特別な理由とかないですけどね。
おそらく、他の子供好きと同じような理由だと思いますけど。
『へー。そんな一般的なんだ?』
力にしても知性にしても、絶対に大人より劣るから。
『そんな発想で子供が好きと宣うお前の品性がやばい』
お、お前……?
マガツヒ様からそうは言われない二人称に驚きを覚えていると、軽く身体に衝撃が走る。
ガキの一人が、俺の腰に抱き着いていた。
おいおい、人肌気持ち悪いから接触は止めてくれ。
蹴りたくなるだろ。
そう思っていると、ガキが顔を上げてにこっと笑った。
……鼻水、俺の服についてんだけど?
「きょうそさまー。鼻出ちゃったぁ」
「……そうですか」
『そ、その固く握りしめた拳を何に使う気だ!? や、やめろぉ!』
こ、このガキ……!
他人の体液なんて最も汚いものの一つなのに、それを俺につけやがって……!
しかも、なんでまだ抱き着いてきてんだ!
いいから離れろや!
そんな様子に気づいたダリアが、パタパタと近づいてくる。
「こらこら。教祖様のお召し物を汚してはいけませんよ。怒っちゃいますよ?」
「ごめんなさーい。シスターの情夫にわたしの体液をつけちゃって」
「じょ、情夫!?」
「おい、本当にこいつガキか? 言葉の使い方おかしいだろ」
『で、出てる! 人間嫌いが出てるよ!』
人間嫌いとかじゃないでしょ!
絶対に普通のガキじゃねえだろこいつ!
情夫とかいう言葉をガキが知っていたらおかしいわ!
ダリアもはわはわと顔を赤くして慌てている場合じゃねえぞ。
てめえ、普段どんな教育してんだ。
いつも怖いくせに、なんで急にかわい子ぶってんだこいつ。
「も、申し訳ありません、教祖様。私がしっかりと教育して、敬虔なマガツヒ教徒に育てますので……」
「気にしないでください。服は洗えばいいですし、そんなことしなくていいですよ」
「怒気がこもっているわね」
俺の背後でせせら笑っていたユーリエがぼそりと呟く。
分かっているんだったら代われや。
「子供たちの相手をしてくださって、ありがとうございました。ここにいてはいつまでもお手を煩わせることになると思うので、外に出ませんか?」
まだ顔がほんのり赤いダリアが、そんな提案をしてくる。
騙されんぞ……。
「外? そこで何を?」
俺が問いかければ、ダリアはにっこりと笑った。
「この生まれ変わった街を、見ていただこうかと思いまして」
えぇ……嫌だぁ……。
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第11話
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第15話
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