第46話 こちらこそ望むところなんだから!
葬式真っただ中のような空気の中で、俺とユーリエは頭を抱えながらひざを突き合わせていた。
場所は教会の狭い小部屋。
大部屋なんかにいたらほかの奴らが突撃してくるかもしれないので、俺たちしか知らないサボり部屋である。
「第158回緊急この先どうすればいいのか会議を開催します……」
「うおおおお……」
「全然元気ないし、そもそも158回も緊急会議を開いていたら緊急って何っていう話だし、色々とツッコミするの大変なんだけど」
狭い部屋だっていうのに、マガツヒ様も顕現しているから狭い。
お互いの肩が触れ合うレベルである。邪魔。
マガツヒ様の人肌が気持ち悪い……。
ユーリエは慣れているから今更だけど……。
「じゃあ、黙っていてください……。マガツヒ様のキンキンとした声音が不快です……」
「言動が不快です……」
「おっかしいなあ。この二人って僕の信者じゃないのかなぁ!?」
信者(笑)。
最大宗派に戦争仕掛けようとする神(笑)をどうやって信仰しろと?
そんな奴いるわけな……いたわ。うちの狂信者たちだわ。
何なら、街を一つ落とすとかいうクーデターもどきもしているわ。
「だいたい、元気がないのはマガツヒ様のせいでしょ。あんたの力を使ったら、身体がめちゃくちゃ重たくなるんですよ……」
「重度の二日酔いの気分だわ……。それか、生理前……」
「分かんねえよ、そのたとえ」
おい、こっちにもたれかかってくるなうっとうしい。
俺も調子悪いって言っているだろ!
そんな俺たちをじっと見ていたマガツヒ様が、ぼそりと。
「……僕を信仰してくれていたら、デメリットなんてないんだけど? 今まで僕を信仰してくれていた子たちに渡していた時は、何もなかったんだけど?」
「よし、じゃあ会議をしようかユーリエ」
「そうね、ライアー」
「無視? 神を? マジ?」
マガツヒ様のことよりも重要なことが、今の俺たちの状況だ。
まずは、そちらの解決策を見出さなくてはならない。
「まずは、今回起きたことの整理をしよう」
「えーと……」
ユーリエが唇に手を当てながら、つらつらと話し始めた。
一つ、天使教の教会を焼き討ちにし、顔面に唾を吐きかけるようなことをした。
二つ、うっかり街を守っていた貴族の私兵団を壊滅させ、街を乗っ取った。
三つ、街を支配していた国から信託を受けた貴族を殺した。
四つ、今は外でマガツヒ教の祝日だと大騒ぎし、サバトのような悍ましい光景を作り出していた。
ふーん、なるほどなるほど。
にっこりと笑って言った。
「何これ? 地獄?」
地獄という表現すら生ぬるいかもしれない何かだ。
これらがすべて、俺たちがまったく望んでいないということもすごい。
「わたしたちが何も望んでいない方向に全力疾走しているのはどういうこと? 誰が望んでいることなの?」
「どうすんだよ……。カルトだろ、マジで……。知らない間に街一つが落ちているし、領民の大半もマガツヒ教信徒になっていたとか、冗談にしてもひどいわ……。どこに惹かれる要素があるんだよ」
「僕」
「黙っていてください」
ウキウキで手を挙げているバカ女神を無視する。
こんなカルトに短時間で入信するとか、この街の人間はバカしかいないのか?
バカはバカに惹かれるということか?
ふざけんなよマジで……。
「もともと、領主アリドーラの気質もあって、宗教に対してはそれほど興味のない人が多かったみたいだけどね。その隙を突かれたと言っても過言ではないわ」
猛烈な天使教信者を鞍替えさせようとしたら、それこそ大きな時間がかかるだろう。
普通に信仰している程度でも大変なはずだ。
さすがにこれほどの短期間ではできないはずだが……。
貴族くんが天使教を快く思っていなかったみたいだから、この街ではあまり浸透していなかったらしい。
確かに、領主が積極的に布教していたら、そっちの方が住民に信仰が広まりそうだが……。
「隙があったにせよ、この短期間で狂信者に大勢仕立て上げる手練手管は何なの? 俺、そんなの全然知らなかったんだけど。誰だよ、こんなマニュアル構築した奴は」
「……考えれば考えるほど候補者が出てくるわね」
ダリアとか、ダリアとか、ダリアとか、あとハメルくらいか。
怖いんだよ、あのシスター。
「で、もっとやばいのが、貴族くんが首刈られていることだよ。何しちゃってんの?」
「思い出させないで……。トラウマなんだから……。二日間、お肉食べられなかったのよ……?」
「ほぼノーダメじゃねえか」
凄惨な生首を見せられて二日程度のダメージで収まるとか、こいつの内面化け物か?
自分以外どうでもいいと思っているのだろうが、そのレベルが半端ではない。
やっぱり、これからのマガツヒ教を背負っていく女は格が違った。
「というか、小さい領地とはいえ、治めていた貴族を殺しているんだぞ? これ、国に対する反逆だろ。絶対に討伐軍送られるじゃん。どうすんの? もう逃げるどころの話じゃなくなってんだけど!」
恐ろしいほどに困る結末だ。
貴族の私兵団は、正直これも分からないが、百歩譲って壊滅させたことを納得できないこともない。
練度にも差があるだろうし、そもそもこの領地は賊もあまり出ないし、他国と戦争しているわけでもないので、割と平和だった。
倒せないということもないのかもしれない。
しかし、国軍となると話は別だ。
この国は現状戦争をしているわけではないが、他国の軍事力と戦うために鍛えられた軍隊である。
数だって、私兵団とは比べものにならないほど多いだろう。
それと激突して勝てるとは、いくら何でも思えなかった。
頭を抱える俺たちに、マガツヒ様が首を傾げる。
「あー、それはどうだろうか。僕も人間の営みにあまり詳しいわけじゃないんだけど……」
「どういうことですか?」
「たぶんだけど、アリドーラの治めている領地は非常に小さかった。この街が一番大きな街で、後は小さな村がいくつかある程度じゃないかな? 普通ならどれほど小さくても貴族が殺されたら、王が信託した人間を殺したということだから、相応の罰が下されるだろうけど……」
「相応の罰って?」
「死刑だろ」
ぼそぼそとユーリエと話す。
貴族を殺して普通に余生を過ごしました、なんて奴の事例、俺は知らない。
まあ、勉強していないだけかもしれないがな!
「ただ、それも余裕があれば、という話じゃないかな。正直、天使教が巣食っているこの国に、そこまで迅速に動くことができる余裕はないと思うよ。お金も、大部分が天使教に吸い取られているだろうし」
つまり、国軍を動かす資金に余裕がないということか?
確かに、軍隊を動かすというのは、かなりお金がかかることらしいが……。
「お布施も強制らしいわよ、天使教」
「マジかよ。こっちなんて自発的意思に任せているのにな。とんでもない額を寄付してくる奴もいるけど」
自発的に大金を突っ込んでくるというのも怖い。
どうしよう……。あなたたちの信仰は本当のものではない、とか言って襲い掛かられたら。
カルトの狂信者なんて、皆そんな感じだろうし……。
「自発的意思に任せるというのも、なかなかやばいわよね」
「えぇっ!? そんなことないよ! それくらい、マガツヒ教のことを愛してくれているという証拠だよ! 嬉しいなあ……」
自分で考えて行動してください。あ、君はそのくらいしか寄付しないんだねぇ……とか言われたらねぇ……。
いや、さすがにそんなことは言っていないだろうが、信者同士でそんな煽り合いがあるのかもしれないし。
喜んでいるの、マガツヒ様だけですよ。
「しかし、この馬鹿……じゃなくて女神さまの仰る通りなら、国からいきなり軍を送られるようなことはないわけか。なら、今のうちにさっさとごめんなさいしてしまえばいいんだな!」
「そうね! スケープゴートは用意しましょう!」
そのスケープゴートの最大の候補はお前だがな、ユーリエ。
俺はそう思っていることを決して表に出さず、笑顔を向けた。
……たぶん、こいつも俺に対して同じことを思っているな。何となくわかるぞ。
「言っていることがゴミなのはもういいんだけど、国が動かない代わりに動きそうな組織があるんだよねぇ……」
「え、なにそれ知らない。言わなくていいですよ、女神様」
「何言っているんだ! こちらこそ望むところなんだから!」
この馬鹿が好戦的なのは、もう一つしかないだろう。
せっかく国から狙われないかもしれないとホッとしたのに、また別のいらない脅威を教えてくるな!
しかし、俺のそんな求めに応じるはずもなく、マガツヒ様は鼻息を荒くした。
「動くであろう組織は、クソ天使教だね!」
「「…………」」
終わった……。
◆
アリドーラが戦死した現場。
いまだに巨大なクレーターができている場所を、一人の女が訪れていた。
「マガツヒ教、ですか」
ポツリと呟かれる言葉に、あまり感情は込められていなかった。
ただ、少なくとも好意的なものは微塵も存在していなかった。
風が吹き、彼女の衣装……シスター服が揺れた。
「ダリア。そんなところにいるなんて……。またお話しないといけませんね」
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第10話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1119120
https://kimicomi.com/series/eb41931417e85




