↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第2章 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/48

第45話 ひぇっ……











「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」


 息が絶え絶えになるほど走っているが、決して足を緩めることはない。

 こんなにも全力で、しかも死にそうになるほど走るのなんていつ以来だろうと、どうでもいいことを考えてしまう。

 それでも、アリドーラは走り続ける。

 恐怖だ。


「傷が……傷が、治らない……!」


 ライアーの攻撃を受けたものだろう。

 それが、治っていない。

 ユーリエは、アリドーラの不死性を消せなかったと言っていた。

 だが、弱めることはできていたのかもしれない。

 それに加えて、ライアーの神の力による圧倒的な火力の攻撃。

 そのダメージは、不死性を超えて回復させることを許さなかった。

 ライアーとユーリエ。二人の神の力によって、アリドーラは確かに死ぬ存在へと書き換えられてしまっていた。

 それが分かるからこそ、今まで感じたことのないほどの恐怖を覚えた。


「死にたい、死にたいと思っていたくせに……!」


 自嘲してしまうほどばかばかしい考えだった。

 不死ということで、死ぬことに対する憧憬が生まれてしまった。

 いつかは死にたいと思っていたのに、それが目前に迫ると死にたくないと思う。

 人間……というより、アリドーラの考えが甘いものだと痛感させられていた。


「はぁっ、はぁっ……! つ、ついた……!」


 ついに、傷だらけの身体を引きずって、アリドーラは自分の治める街に戻ってくることができた。

 街はマガツヒ教に堕とされているということは知っているが、もはや逃げられる場所なんてここ以外にはない。

 それに、そもそもマガツヒ教は今まで把握していないほどの小さな土着宗教組織だった。

 街全体を完全に支配下におさめることなんてできるはずもない。

 実際、街の周りには複数人の警備兵は見られたが、それだけだ。

 止められることもなかったし、街の中には生き残っている私兵団もいるだろう。

 まずは、態勢を立て直す。

 自分の館に籠城すると同時に、国にも支援を求める。

 自分も強烈な罰を与えられるだろうが、死ぬよりはましだ。


「……いや、国よりもまずは、辺境伯にご報告をするか」


 自分が親しくしている辺境伯。

 今回街を出ていたのも、その人物に会いに行くためだった。

 派閥にいれば、美味しい思いをできる。

 その分、貢献しなければ厳しく切り落とされるが……。

 自分はかなり忠実に尽くしてきたこともあり、有用だと思われているはずだ。

 ならば、見捨てられることはないだろう。

 国に助けを求めれば重い処罰は免れないが、辺境伯に間に入ってもらえば、その罰も緩和されるかもしれない。


「アリドーラ様! よくぞご無事で!」


 駆け寄ってきたのは、街に残しておいた側近の一人であるシーレスだった。

 信じて任せていたはずなのに街を落とされた側近に対して怒鳴りつけたかったが、今は命からがら逃げている途中だ。

 何とかこらえる。


「シーレス……。お前なら大丈夫だと任せていたんだけどな」

「申し訳ありません……」

「まあ、今こうやって出迎えたから、そのことも後で考慮してやる。街の中はどうだ?」

「はっ。マガツヒ教の連中がほとんど外に出向いたおかげで、再度この街を取り戻すことができました。市民も喜んでいます」

「そうか!」


 市民が喜んでいる、というところはどうでもいいが、悍ましいマガツヒ教の連中がほとんどいないというのは朗報だった。

 おそらく、あのとてつもない攻撃にいきり立ってその場に向かったのだろう。

 ちょうどすれ違ったようだ。

 笑みを浮かべながら、シーレスに支えられ街の中に入る。

 すると、アリドーラを出迎えたのは大きな歓声だった。


「アリドーラ様! アリドーラ様!」

「お待ちしていました!」


 ぽかんと口を開けるアリドーラ。

 自覚していたことだが、少なくともこのように領民たちから大歓迎されるような感情を向けられてはいなかった。


「……おい。俺はこんなに市民から歓迎されるような貴族だったか?」

「え、ええ、それはもちろん……」


 言いづらそうに口ごもるシーレス。

 きっと、もともとはそんな歓迎されるようなことはなかった。

 ならば、よほどマガツヒ教の連中が傲慢だったのだろう。

 不正すら働いていた貴族を求めるほどに。

 まあ、不正をしていたことはさすがにばれていないだろうが。

 領民たちなんて私腹を肥やすための存在としか思っていなかったが、ここまで求められて悪い気はしない。


「……ふん、まあいい。すぐに体制を立て直せ。それと、オルグランド辺境伯に援軍の要請を出せ。俺たちは館に戻り、籠城するぞ」


 大歓声の中、ゆっくりと歩き始めるアリドーラ。

 色々と道筋は見えた。あとは、実行するだけだ。

 ライアーの凶悪さを目の当たりにしていたが、それも熱が冷える。

 何も根拠のない自信を持って、胸を張るアリドーラであったが……。


「いえ、それには及びません」

「は? お前、何を言って――――――」


 今まで唯々諾々と従ってきていた側近のシーレス。

 そんな彼の言葉とは思えず、振り返って真意を問いただそうとして……。


「あ?」


 自分の腹部に突き刺さる剣を見た。


「がっ、あああああああああああ!?」


 激痛が襲い来ると同時に、地面をのたうち回るアリドーラ。

 今までならここまでうろたえることはなかっただろう。

 なにせ、死なないのだ。苦痛を我慢するのは耐え難いことだが、それさえ乗り越えれば問題なかった。

 だが、今はだめだ。ユーリエとライアーのせいで、彼の不死性は完全に壊れている。

 今死んだら、文字通りの意味で死ぬのだ。


「お、お前え! いったい何を……!? 頭がおかしくなったのか!?」


 突如とした裏切り。

 まさか、マガツヒ教と取引でもして、自分の首を取れば命だけは見逃すとか、そんなバカげた約束をしたのかもしれない。

 そういった取引がまともに守られることなんて、ほとんどないというのに。

 バカなシーレスの目を覚まそうと、血を吐き出しながら声を張り上げる。

 怒りで痛みを一瞬忘れていたが……すぐに冷や水を浴びせられたようになった。

 それは、自分を恐ろしいほどの無表情で見つめる、シーレスの顔を見てしまったからだ。

 彼は、むしろ何を言っているのかわからないと、本当に不思議そうに首を傾げていた。


「おかしいのはあなたですよ、アリドーラ様。どうしてこんな素晴らしい宗教を信仰しないのですか?」

「…………は?」


 アリドーラは、シーレスが自分の身可愛さにマガツヒ教と取引をし、自分を攻撃したのだと思った。

 だが、それは大きな間違いだ。

 シーレスは、何も取引なんてしていない。

 ただ単純に、自分の信仰する宗教と敵対する男を、誅そうとしただけである。


「マガツヒ様はこの世を救うべく降臨なされた尊き神。そして、そんな神の御意思を我らに伝えてくださる、ライアー教祖とユーリエ聖女。あのお方々が我らを支配し、導いてくださるというのに、どうして抵抗するのですか? 私には理解できません」

「お、お前、この短期間で……? い、いや、もとからマガツヒ教と通じていたのか!?」


 愕然とするアリドーラ。

 どちらにしても、彼にとっては悍ましいことだった。

 この短期間でマガツヒ教の狂信者になったのであれば、それはマガツヒ教の信者獲得方法があまりにも効率的で洗脳的だということだ。

 それは、天使教のそれよりひどい。

 人間の考えを変えたり誘導することはできるが、根底から覆すことを短時間でできるなんて、想像もできない。

 そして、後者でも恐ろしかった。

 今まで側近として扱ってきた男が、最初からマガツヒ教の人間でスパイをしていた。

 信頼を根底から覆されることになる。

 はたして、シーレスの場合は前者であった。


「私がマガツヒ教のすばらしさに気づいたのは、最近のことですよ。しかし、とても素晴らしいものですから、短期間でも信仰するのには十分です。その証明に……」


 大きく腕を広げるシーレス。

 それに応えるように、空気がびりびりと悲鳴を上げるほどの声が上がった。


「「「「――――――!!」」」」

「あ、が……?」


 それは、どういった感情のものか。

 呆然と、ただ怒りも何もなく、領民たちを見た。

 彼らは、全員が怒りを向けていた。

 先ほどまでの歓迎なんて夢だったかのように、ただひたすらに怒りをぶつけていた。


「私だけではなく、この街の住民のすべてが、マガツヒ教を信仰するようになりました」


 嬉しそうに笑うシーレスに、なんといえばいいのか分からなかった。

 たった一人なら、まだ理解できる。

 集中的に洗脳をすることは、不可能ではないかもしれない。

 だが、これだけの人数を、この短期間で?

 背筋が凍り付く。

 それが、どれだけのことか。

 どれほど効率的に人間を洗脳することを考えて、その方法を作り出したのか。

 そして、人間を作り替えるということに、何の忌避感も抱いていない所業が恐ろしかった。


「ご覧ください。不遜にも突っ立っていた汚らしい天使教の教会は、あのように破壊せしめています」


 すでに燃え朽ちた天使教の教会。

 瓦礫が残るのみで、もはや跡形もない。

 その近くで倒れているのは、天使教の人間だろうか?

 それが、普通の領民たちによる私刑だとしたら、なおさら恐ろしかった。

 人間を傷つけることに、何ら躊躇しなくなったということなのだから。


「ば、バカが……! 天使教に正面から喧嘩を売るような真似を……! こんな小さい宗教、神聖騎士どもにつぶされて終わりだ……!」

「どうでしょうか? そうならないように、頑張ります」


 悪態をつくも、シーレスはろくに聞いた様子を見せなかった。

 剣を振り上げて構える。

 そのあとに起きることなんて、アリドーラも簡単に理解できた。


「それでは、アリドーラ様。この街をくださり、ありがとうございました。さようなら」

「ま、待て、俺は……俺は……っ! こんなところで……死にたく……っ!!」











 俺とユーリエの前……というより、どっちかというとユーリエだな。

 信者らしいシーレスという男が、満面の笑みでドカッと布に包まれたブツを置いた。

 うーん、布から血のようなものがにじみ出ていますが、これは?


「ユーリエ様! こちら、お持ちしました! アリドーラの首です!!」

「ひぇっ……」


 鼠を捕ってきた猫のようにウキウキな様子のシーレス。

 そして、ユーリエは顔を真っ青にするのであった。



過去作のコミカライズ最新話が公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。


『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第10話

https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1119120

https://kimicomi.com/series/eb41931417e85

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やっぱり邪教じゃないですか、ヤダー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。