第44話 ぐぉっ!? またかよ!?
「ぐぉっ!? またかよ!?」
ゴウッ! と暴風が吹き荒れたことにより、とっさにアリドーラは顔を覆った。
先ほどはユーリエから発せられた強い光から目を背けるためだったが、視界という意味だけでいうと、ライアーのそれはまさに真逆だった。
天使をも連想させるユーリエと違い、ライアーの身体から噴き出したのは、真っ黒や闇。
すべてを飲み込み、何もその場に残すことを許さない、絶対的な無の暗闇だった。
まさに、ユーリエの力とは正反対のそれ。
ようやく暴風が消え、顔の前から腕を下ろしたアリドーラが見たものは……。
「お前、先ほどの教祖か……?」
困惑や畏怖もあるが、一番色が濃いのは本当に単純な疑問だった。
そう質問をしなければならないほど、ライアーの見た目は変わっていた。
真っ黒だった。
それは、人の形をしているものの、闇に包まれていて黒く染まっていた。
ただ、目の位置だけが赤く煌々と光っている。
それがあまりにも特徴的で、何よりも恐ろしかった。
「なんだ、お前……。その姿は……」
「私もここまでやりたくはなかった……。この姿になると、どうしても誰かを傷つけてしまうことになるから……(何より俺が傷つくんだよ。ああああああああああっ! マジでいてえええええ!!)」
表情が見えないことをいいことに、全力で顔を歪ませるライアー。
地面をどったんばったんとのたうちまわりたい気持ちだが、それはプライドが許さないので我慢する。
しかし、本当に痛い。洒落にならないくらい痛い。
ユーリエの場合は、人体から翼が飛び出してくるという激痛。
そして、ライアーの場合は全身に訳の分からない黒い力が張り巡らされ、まる皮膚を剥がれているかのような激痛。
つまり、この二人、ろくにマガツヒのことを信仰していなかった。
「聞こえなかったか? 俺は、その姿は何だと聞いたんだよ」
「…………(は? なんでお前に命令されて俺が応えないといけないの? 死ね。絶対に何も答えねえからな)」
敵に答えるわけもない、ということだとアリドーラは認識した。
実際は子供のようなすね方をしているだけだったが。
『なんであんなに意固地になっているの、あの子……?』
「(苦痛を味わってイライラしているところに上から目線で命令されて、ただでさえ短い怒りの導火線が着火。一瞬で爆発に至ったんですよ)」
『その爆発の仕方が無視って子供すぎない?』
嫌々ではあるが、腐れ縁で物心がついていた時から当たり前のように一緒にいた二人だ。
完全に思考を理解していた。
ライアーはまったくアリドーラに答える様子を見せないので、代わりに天使のごとく優しい笑顔を浮かべたユーリエが答えてやることにした。
もっと具体的に言うと、こちらをきらきらとした目で見つめるシーサイスとアバドンのために。
狂信度を上げさせて、逃がさないようにするつもりである。
「これは、ライアーの真の姿。神の力を身にまとい、神敵を討ち滅ぼす神聖な姿です」
「やめろ」
「凄い……すごすぎる……」
「格好いイ……」
神敵なんて討ち滅ぼすつもりは毛頭ない。
というか、マガツヒにとっての敵とは天使教である。
世界最大勢力の宗教に喧嘩を売るつもりなんて毛頭ないし、そもそも喧嘩を売ったら一瞬でひき殺される。
マガツヒ教聖女という立場上、ユーリエは自分の首も全力で絞めているようなものなのだが、ひどく焦っているライアーを見てキャッキャしているので気づけていなかった。
なお、マガツヒはこっそり狂喜乱舞している。
「……ふんっ。見た目が変わっただけだろ。俺の私兵たちはいまだに存在するし、何なら俺は不死のままだ。それに、事ここに至ってはほかの事情を知らない兵たちも動かす。お前らに勝ち目なんてないんだよ」
多少強がりはあるが、それでもアリドーラの自信は確かなものだった。
不死。死なないということは、それだけで絶大なアドバンテージを与える。
「行け!」
アリドーラの命令に従い、私兵たちが襲い掛かる。
それに対して、ライアーは……。
◆
「あ……?」
目を覚ましたアリドーラ。
……というより、その状況が理解できなかった。
目を覚ますということはどういうことだ?
寝ていたわけではないし、そもそもあんな状況で寝られるはずもない。
つい先ほど、自分は異形に染まったライアーに対して攻撃を仕掛けたはずだ。
だというのに、自分はどうして地面に寝転がっている?
「ぐっ、が……っ!」
身体を起こそうとするだけでも激痛が走る。
それでも、今どうなっているのか知るために何とか身体を起こし、周りを見渡して……絶句した。
「なんだ、これは……」
広がっていたのは、まるで隕石でも落ちた後のような、そんな惨状だった。
立っている者の方が少ない。
大勢が倒れている。
建てられた天幕なんて、もはや影も形もない。
地面はえぐれ、土色がむき出しになっている。
自慢の不死の軍団も、死屍累々だ。
ユーリエの力によって不死性を消されていた彼らだ。
もはや傷さえ自動的に治ることはないので、もう立ち上がることはできないだろう。
それだけでなく、少し遠ざけていた他の一般私兵も倒れていた。
彼らからすると、余計に何が起きたのか理解できないだろう。
突如として災害のような攻撃を受け、大部分が再起不能になったのだから。
「こ、こんな……こんなことが、あってたまるか……!」
立ち尽くすライアーを、呆然と見る。
あの男が、たった一人の人間が、一瞬でこれだけの被害をもたらした。
なんだそれは。もはや災害じゃないか。
先ほどは、天使教の神聖騎士のことを想起させていた。
あんな化け物連中よりはマシだと思っていた。
それは、大きな間違いだ。
神聖騎士も確かに化け物ぞろいだ。悍ましい連中だ。
だが、何よりも……目の前の黒い男が、最も恐ろしい。
すなわち、最恐なのだと理解してしまった。
「…………」
「ひっ……!?」
赤い目がアリドーラを捉える。
明確な脅威が目の前にあって、彼は貴族としての矜持を保ち続けることができなかった。
「ひいいいいいいいいいいいいっ!!」
生き残った部下たちを置いて、悲鳴を上げて逃げ出す。
脚が向かう先は、彼の城である街の中だった。
「…………人殺し」
「っ!?」
ユーリエの言葉にひどく衝撃を受けるライアーであった。
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『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第10話
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