第43話 嫌だあああああああもおおおおおおおおおお!!
「ぐぉっ!? 目がっ!?」
ユーリエから発せられる巨大な光に、アリドーラは目を覆う。
痛みや熱さが来るかと思えば、それが襲ってくることはなかった。
ただ、身体を覆うあたたかな光は、心地よさすら感じてしまうものだった。
「な、なんだったんだ、今のは……?」
自分の身体を見下ろすが、異常は見受けられない。
ただ光っただけ?
それにしては、翼まで生えて仰々しい。
その姿は、まるで天使のように見えている。
そこまで身体を変えておいて、何も意味のないことをするとは思えなかった。
「おい、異常は……」
自身の私兵たちの様子を見ようとして……アリドーラは息をのんだ。
「あ、アリドーラ、様……。き、傷が、治らな……!」
「ッ!?」
致命傷を負っていた私兵たちが、数人倒れる。
その傷が治ることはない。
本来であれば普通のことだが、彼らにとっては異常なことだ。
「な、なんだこれは……。何をした!?」
「わたしに与えられたマガツヒ様の力です。不死というのは、一種の呪いのような側面もあります。それを解除させていただきました(わたしのせいじゃないわよ。全部マガツヒ様のせいだから。わたしに復讐とかは止めてよね)」
「解除、だと……!?」
愕然とする。
呪い、と自分の力を称されるのは何とも言えない気分だが、死ねないということは確かに呪いと取られても不思議ではない。
自分だって、不死ということに対して思わないことがないわけではなかったのだ。
だが、呪いの解呪なんて高度なことを、目の前の女ができたことに驚いた。
それこそ、敬虔で何十年も修業を積み、もともと才能があった天使教の回復魔法使いでしかできないことだろう。
だというのに、これだけ若い女が、いとも簡単に……。
「ならば、今の俺も……」
「はい。あの光を受けたのですから、あなたも解除しています。ですが、あなたは分け与えられたのではなく、力の持ち主。そのこともあって、まだ不死性は残っているようです。自動的に回復をすることはできなくなっているようですが」
「そう、か……」
心のどこかにがっかりした気持ちがあるのは、自分もほかの人間と同じように死にたいという気持ちが、かすかに残っていたからかもしれない。
だが、今はそれでいい。
目の前の敵を殺さなければならないのだから。
「ああ、もちろん、シーサイスさんとアバドンさんの傷は治していますよ。痛いのは嫌ですものね」
「……なんて慈悲深い」
「これガ、うちの聖女様ダ。羨ましいだロ」
感涙するシーサイスと、胸を張るアバドン。
解呪と同時に、仲間の回復までする。
決して浅くはない傷を負っていた二人だが、すでに完全に回復されている。
傷跡もなければ、後遺症の痛みもない。
一瞬でこれほど完璧な回復なんて、優れた回復魔法使いでもできない。
ユーリエが神の力を使っているということを、アリドーラは強く認識させられる。
「だが、俺に不死性が残っているのであれば、負けることはない。お前の解除だって、何度も使えるものでもないだろ。なら、俺はそのたびに不死性を与えて、軍団をさらに作っていく!」
自分の不死が消えていない以上、何度でも不死の軍団を作り出すことができる。
むろん、自分もそう頻繁に力を分け与えることはできないが、それは決して表に出さない。
我慢比べだ。
そう宣言したが、ユーリエはなぜか満面の笑みを浮かべて、ぼーっと突っ立っていたライアーを見た。
「なら、ライアーの出番ですね」
「おっと。聖女ユーリエは疲れのあまり妄言を吐いてしまっておられますね。もう能力を解除したらどうですか?」
◆
おい、あの浮いているバカを誰か引きずり落してくれ。
二度と舐めた口がきけないように、ほっぺたを引っ張り続けるから。
「わたしたちの力は、マガツヒ様よりお借りしたもの。そして、わたしの力が回復という後方支援の系統なら、ライアーのそれは近接戦闘を行える、ゴリゴリ身体を張るものです!!」
「果たしてそうかな?」
『なにその返事。切り抜けられないよ?』
ダメですか? 何とかなりませんか?
勝ち誇ったような笑顔で俺を見下ろすクソ女に、俺は怒りを爆発させた。
「(貴様ああああああああ! どうして俺を売ったああああ!? 裏切るのか女あ!?)」
「(女って言い方やめなさいよ! というか、そもそも裏切るもなにもないでしょ)」
信じていたのにいいいいい!!
『本当?』
いや、嘘ですけど。
ユーリエは俺のことを怒りのこもった目でにらみつけてきた。
「(わたしだけ痛い目を見るのはおかしい。必ずあなたも道連れよ)」
『なに、この聖女と教祖……』
ぐっと強く歯嚙みする。
怒りはまるで収まる気配を見せないが、ユーリエの動機も十分に理解できるのである。
俺も逆の立場だったら、絶対にこいつを見逃さない。
何が何でも道連れにするし、何なら俺よりも少し不幸になってほしい。
そのために足を引っ張ることなんて、遠慮なくすることができる。
ユーリエも俺に対して思っている気持ちは同じなのだろう。だるい。
『と言っても、あながちユーリエの言っていることが間違いでもないと思うよ。実際、アリドーラの不死性は消えていないし。君の高い火力の攻撃で何とかしないと、じり貧だ』
「(カルトの女神は黙っていてください。意見は聞いていませんから)」
『冷たい! というか、カルトってなに!? すごく普通の宗教じゃん!』
どの口が言ってんの?
街でクーデターを起こして貴族を締め出ししているんだぞ?
これのどこを見て普通の宗教だと言えるんだよ。
もういらないんですよ、あんたの力……。
せめて苦痛をどうにかしてくれませんかね?
内部から異物が飛び出すユーリエもかなり苦痛だろうが、俺のやつも相当しんどいんだよ……。
そんな俺を、貴族が驚いたように見た。見るな。
「なんだと? まさか、この男も神の力を……!?」
「いいえ、使えません」
「その通り、使えます。しかも、あなたたちを一瞬のうちに倒すことができるほどの、強大な力を」
「ふん、そこまで言うなら見せてみろ!」
冷や汗を垂らしながらも、俺に向かって怒鳴り声をあげる貴族。
はああああああああああああ!?
今すぐ負けそうなくせになんで強がってバカなことを言ってんだお前はああああああああああ!!
マジでだるいわこいつ! みんなで無視しよ!
『子供かな?』
正直、こんなバカみたいな挑発に乗る意味もない。
俺はスマートな大人だからな。
これくらいの挑発は微塵も効かない。
マガツヒ様、あいつにこれからずっと不幸になる呪いをかけておいてくださいね。
「ライアーの力……」
「マスターの格好いいとこロ……!」
きらきらとした目を向けてくるシーサイスとアバドン。
ふざけんな。そんなガキみたいな目で見てくるな。
だからガキは……嫌いというわけではないけど、お前らは嫌いだ!
『君の性格で子供が嫌いじゃないという言葉が出てきたことに驚きだよ。でも、やっぱり子供はいいものだよね! 世界の宝だし!』
え? いや、そういう意味じゃなくて……。
俺が子供が嫌いじゃない理由は、俺よりも絶対に劣っているからだ。
見下せて楽しい。
『子供を見下して喜ぶ大人が、子供に勝っているわけないだろ』
というか、そんなことはどうでもいいんだ。
今は、このキラキラ期待した目を向けてくるバカ二人をどうにかすることが先決だ。
戦うのは、い、嫌です……。
というか、お前ら護衛だろ! 全然護衛できてねえじゃん! この無能!
「はっ。何もできないんだったら、こっちから仕掛けるぞ。何もしないまま死ね!」
そういうと、貴族の命令を受けて不死(元)の私兵団が襲い掛かってくる。
や、やめろぉ! 死ぬようになったとはいえ、私兵は百戦錬磨。
それこそ、自分が何度も死ぬような危険な戦いに身を投じ続けてきた猛者だ。
俺が勝てるわけないだろ! いい加減にしろ!
バカな護衛は勝手に期待していたせいでちょっと離れた場所にいるから、助けは間に合わない。
ユーリエを肉盾にしようにも、そうされることが分かっているように宙に浮いて逃げている。
逃げるなああああああ! 逃げるな卑怯者おおおおお!
そんなことを考えている間にも、私兵たちがすでに目の前に迫ってきており……。
この状況を打破するためには、マガツヒ様の力を使うほかなく……。
「あああああああああああああああああああああ!!」
嫌だあああああああもおおおおおおおおおお!!
俺は絶叫しながら、マガツヒ様の力を使うのであった。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第10話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1119120
https://kimicomi.com/series/eb41931417e85




