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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第2章 

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第39話 化け物! 化け物よ!











「望むところだわ。そもそも、最初からこうすれば話は早かったのよ」


 スラリと剣を抜くシーサイス。

 天幕の中にぞろぞろと入ってくる刺客をにらみつける。

 会話なんて、対等な相手以外とする必要なんてないのだ。

 相手は明らかに下。ライアーやユーリエが膝を折って目線を合わせてやる必要なんてないのだから。


「珍しく意見が合うナ。珍しくだガ」


 それには、シーサイスと折り合いが恐ろしいほどに悪いアバドンも納得できるものがあった。

 ライアーとユーリエにばれないように、ちょくちょく殺し合いをしている仲である。

 お互い、大きな傷を負うこともなく普通に生活していることから、二人の実力の高さが分かる。

 そんな片割れのアバドンは、シーサイスをじっと見る。


「勝負するゾ、シーサイス」

「は? いきなり何を言っているのかしら? 私には、聖女様をお守りするという崇高な任務があるのよ。あなたの遊びに付き合ってあげられないわ」


 ため息をつくシーサイス。

 ダリアが自分を信頼して送り出してくれたのだ。その期待を裏切るわけにはいかない。

 ……ついでに、ついでにではあるが、ライアーのことも守ってやらんこともない。


「逃げるのカ?」

「……は?」


 ピクリと反応するシーサイス。

 眼鏡越しにぎろりとにらみつける。

 ライアーならビビッて震え上がるレベルである。

 しかし、アバドンはそれに対して顔布越しに嘲笑う。


「まあ、それならいいゾ。二人を守りながら勝負をする自信がないんだナ。私から逃げるんだったラ、別に止めなイ。たダ、二度とマスターに近づくナ。不快ダ」


 ペッと唾を吐く勢いのアバドン。

 口ではグチグチライアーに物を言っているが、完全に構ってほしくて悪戯を仕掛けている犬にしか見えない。

 おそらく、ライアーでさえも気づいているからこそ、優しく対応しているのではないだろうか(気づいていない)。

 それを受けたシーサイスも、一歩も引かずににらみつける。


「別にこっちから近づいているわけじゃないけど。それに、あなたなんかに言われる筋合いはないわ」


 もはや、アリドーラの暗殺部隊なんて蚊帳の外である。

 じりじりとにじり寄ってくる敵を見据え、シーサイスはアバドンを見ずに口を開く。


「……勝負、いいわよ。敵を殺した数でいいわね。じゃあ、私が勝ったらその気持ち悪い身体でライアーにすり寄るのは止めなさい。不愉快だわ」

「いいゾ。負けるはずないから……ナッ!」


 天幕の中は戦いづらい。

 二人はライアーとユーリエを抱えて飛び出した。

 アリドーラたちも追いかけてくる。


「外には人員を詰めていなかったようね」

「本当ならそうしたいところだがな。ただ、少数に対して圧倒的な多数で襲い掛かると、逆に戦いづらい。それに……俺の力は、あまり他人に見せられるものじゃないからな」

「力……?」

「まあ、それは使うまでもないだろうさ。その前に終わる」


 アリドーラは質問に答えてやるつもりは毛頭なかった。

 合図をし、暗殺部隊に襲い掛からせる。

 彼らは、アリドーラの私兵団の中でも最精鋭。

 しかも、自分に忠実で汚い仕事もこなしてきた。

 今回のような暗殺だって、これが初めてのことではない。

 主の命令に従い、無機質に命を奪うために行動する。

 相手は4人。全員年若く見える。

 それでも、彼らの腕を鈍らせることはない。

 素早い動きで、まずは頭であるライアーとユーリエを狙う。


「(ぎゃあああああああああああ!? こっちきたあああああ!?)」

「(ら、ライアーガード! ライアーガードよ!!)」

『うーん、この二人は……』


 命を狙われているというのに、その二人は余裕の表情を崩さない。

 舐めているのか?

 私兵の一人がそう思ったが、それはすぐに間違いであることを思い知らされる。


「そう来るだろうなと思っていタ」

「ッ!?」


 当たり前のように立ちはだかったのは、アバドンだ。

 顔布のせいで目元しか見えないが、その眼は驚きや焦燥は感じられず、事前に分かっていたように安定していた。

 しかし、かまうことはない。

 この女を殺し、そのまま……。


「ぎゃっ!?」


 しかし、その思惑は一瞬のうちに終わった。

 アバドンと打ち合えたのは、たった一合だった。

 打ち払われ、そのまま首を掻き切られた。

 バッと飛び散る血しぶき。

 仲間が一瞬で殺され、動揺して足を止めてしまう。

 そんな暗殺者たちの身体に、ちくりと痛みが走る。


「そんなにのんきに立っていたら、格好の的になるわよ」

「ッ!」


 バッとシーサイスから飛びずさる。

 彼女の持つ剣の切っ先には、少しだけ血が付着している。

 私兵たちの皮膚を割いたものだろう。

 だが、決して致命傷ではない。

 また、身体を動かすことを忌避するような痛みもない。

 手心を加えたのか? それとも、実力が伴っていないのか?

 なんにせよ、シーサイスの攻撃は無意味なもの……のはずだった。


「不愉快なことを考えているみたいだけど、私にとってはそれで致命傷になるのよ」

「ごっ、がはっ……!?」


 血を吐いて地面に突っ伏す私兵たち。

 シーサイスの毒である。

 即効性、そして微量でも死に至る悍ましい毒を、何の躊躇もなく人間の体内に送り込んだのだ。

 もだえ苦しんで倒れた私兵たちは、すぐに動かなくなった。


「(ひ、ひぇぇぇ。人が目の前で死ぬの、やっぱ怖いんですけど……。ちゃんと管理しておきなさいよ、ライアー。あれがこっちに向いたら、大変なことになるわよ)」

「(管理とか言われても……。もう俺逃げるから知らんし……)」

「(はぁっ!? わたしは聞いていないわよ! ちゃんと説明しなさい! 世話させてあげるから!)」

「(来んな!)」

「さて、勝負は私の勝ちでいいのよね。自分の言ったこと、ちゃんとやりなさいよ」


 鼻でアバドンを嘲笑うシーサイス。

 しかし、アバドンは悔しさをあらわにすることはなく、地面を強く蹴りだした。


「まだダ。相手の頭をつぶした方が勝ちダ」

「はあ?」


 その先にいるのは、呆然と立ち尽くすアリドーラ。

 剣を構えようとするが、遅すぎる。


「がっ……!?」


 胸を貫くアバドンの剣。

 生命維持に必要不可欠な臓器を傷つけられたことにより、口から血を吐き出すアリドーラ。

 それが顔布に少しかかり、気持ち悪そうに眉をひそめた。


「はイ、これで私の勝ちだナ。二度とマスターに近づくナ」

「後だしで好き勝手言って何を言っているのかしら? そんなバカな話、あるわけないでしょ。それなら、私がそいつを殺していたわ」

「言い訳だナ」

「(こいつら、人を殺した後でどうしてこんなのんきな会話ができるんだよ……。というか、ただの信者じゃないの? 怖いよぉ。殺人鬼が平然といるよぉ)」

「(しかも、そんな奴らのいる組織のトップなのよ、あなた。最高に笑えるわね)」

「(だから、それはお前もだぞ)」


 色々と想定外のことは起きたが、結果は望んでいたものが手に入った。

 貴族アリドーラの死。

 これで、あの街は完全にライアーとユーリエのものとなる。

 最終的な目的……すなわち、マガツヒ教が世界中に席巻し、世界を支配する頂点にこの二人を戴く。

 その第一歩が進んだのだ。


「あー……俺を殺す、ねえ」

「ッ!?」


 だから、アバドンはアリドーラの声がまだ聞こえてきたことに呆然とした。

 口元から血を流している男は、ギラギラと目を光らせ、自分に刺さる剣を思い切り握りしめていた。


「できるもんなら、やってみてくれよ」


 アリドーラはそういうと、アバドンを斬りつけた。


「(ぎゃああああああああああ!? 胸刺されて生きてるううううううう!?)」

「(化け物! 化け物よ! 逃げるわよ、ライアー!)」

『愉快だなあ、この二人はいつも……』



過去作のコミカライズ最新話が公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第14話

https://magcomi.com/episode/12207421983858902427


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第10話

https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1088163

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