第38話 もともと!?
「街の人間を救うためだと? これが? 俺にはさっぱり分からんな。むしろ、俺の私兵団とお前らの激突によって、犠牲になる民が増えるだろ。間違いなくいいことではないと思うんだが、俺の勘違いか?」
嘲笑うように口角を上げるアリドーラ。
じっと二人を見る。
「ふっ……」
そんな鋭い目を向けられても、ユーリエは余裕の表情だ。
むしろ、不敵な笑みを浮かべてアリドーラの警戒心をはね上げさせる。
そして、その表情のまま、ライアーを見た。
「(さて、ここからどうやって言い訳したらいいか、早く教えなさい)」
『えぇっ!? 何も考えないで言ったの!?』
「(耳障りが良さそうなことを言っただけですよ。なに? 町の人々を救うためって。一度もそんな気持ち抱いたことないわ)」
堂々とない胸を張るユーリエに唖然とするマガツヒ。
天使教さえ絡まなければ、比較的常識を持ち合わせている女神である。
どうしてこんなスカスカな中身なのに、あんなにも虚勢を張っていられるのかと、激しく困惑していた。
そして、そんなユーリエのSOSを受け取ったライアーは、むしろ小ばかにしたような目を向けていた。
「(俺に聞くな。俺が他人のために行動しようと考えたことがあると思うのか?)」
「(そうね。期待する相手を間違えたわ)」
「(なんだと?)」
『それはそれでブチギレるんだね……』
自分でいうのはいいけど、他人から言われるのは何か違う……。
それも、自分と似たような性格をしているユーリエに言われると、余計に腹が立つ。
ということで、無駄に短い導火線に火が付いたライアーは、怒りのままアリドーラと相対してやることにした。
「どうした? どういう意味で民を救うと言っているんだ?」
「それは、あなたが不正をしているからです(知らんけど)」
「ほう……?」
ピクリ、と眉をはねさせるアリドーラ。
ハッタリかと思ったが、ライアーの堂々とした姿勢からは偽りは感じ取れない。
だが、アリドーラの反応と言える反応はその程度だった。
バカみたいに取り乱すことはない。
そんな彼に、ライアーはさらに続ける。
「具体的な内容については差し控えます。私たちは、あなたを糾弾したいわけではない。ただ、正常な状態に戻してほしいだけです。そうすれば、民たちも救われることでしょう」
「(具体的な内容は知らないから話せないだけなのに、こういうだけで恩着せがましさも与えられるわね。さすがライアー。クズだわ)」
『褒めてるの、それ? というか、あてずっぽうでそんなことを言っても、アリドーラはダメージなんてないんじゃ……』
真摯な色すら感じられるライアーの諭すような言葉。
当然、アリドーラがそれで心に響くというものがあるわけではない。
だが、否定しがたいものは感じられてしまう。
「ちっ……」
『不正しているのかよ!!』
忌々しそうに舌打ちをするアリドーラ。
肯定はしない。しかし、否定もしない。
「(何を言っているんですか、マガツヒ様。貴族は不正をするものですよ)」
『えぇ……? そんなあやふやな奴が刺さっちゃったの……? アリドーラも何しているんだよ……』
当たり前だと言わんばかりの顔をするユーリエ。
貴族は悪。固定観念は非常に強かった。
「なるほどな。どこから漏れたのかは知らんが……。いや、ゴールか? あいつに話していたわけじゃないが、情報をとることはできたかもしれないな」
どこから情報をとったのかと考えたが、そういえば異質な悪党官憲であるゴールが殺されていたことを思い出す。
おそらく、それもマガツヒ教の仕業だったのだろう。
その際に、ゴールから情報を抜き出したのであれば、そういった情報を手に入れている理由も分かる。
むろん、すべてのことをゴールが知っていたわけではないが、その実力からかなり中枢に入り込んでいた男だ。
何らかの情報を持っていても不思議ではない。
アリドーラの確かめるような目を向けられ、ライアーはふっと不敵に笑った。
「(ゴール……? 誰……?)」
「(え、知らない……。あなたの友達じゃないの……?)」
「(俺友達いないんだけど)」
「(あっ……)」
『悲しい会話をしないでくれる……?』
ユーリエと目と目で通じ合っている。
随分と信頼し合っているようだ。
教祖と聖女。同じく高い地位にいれば、権力争いなどが起きそうなものだが、この二人に限ってはないらしい。
「そうかそうか。お前らも知ってしまったわけだな」
「ええ。ですが、もちろん言いふらすつもりはありません。あなたがちゃんと悔い改めて、今後はしっかりと領地を治めてくれるのであれば、私たちは――――――(これで、なんかいい感じに収まるだろ。そして、俺の処刑回避。ヨシ!)」
「そうね。あなたはさっさとこの場所から去ればいいわ。あの街は、聖女様とダリア様が治めてくださるから。……まあ、ライアーもあなたよりはマシだし」
「今更心を入れ替えるとか言っても無駄ダ。邪魔だから失せロ」
「「ッ!?」」
今まで黙っていた二人の護衛。
シーサイスとアバドンが、鋭くアリドーラをにらみつける。
ただの女であるはずなのに、その眼には強烈な殺意と敵意が含まれていた。
様々な修羅場を潜り抜けてきたアリドーラでさえも気圧されてしまうほどの迫力があった。
「(ちょおおおおおおおお!? こいつら勝手に何言ってんの!? ふざけんなよ、クソカルト狂信者が! 今までいい感じに階段を積み上げていたのが台無しじゃねえか!)」
「(女の信者はそっちの管轄でしょ! 手綱をちゃんと握っておきなさいよ! 責任取ってあなただけ死になさい!)」
『でも、街の私兵団を壊滅させたのって、割合でいうと男の信者の方が多かったよ』
「(余計なこと言わないでください!)」
二人のにらみにごくりと喉を鳴らすアリドーラ。
しかし、ここで引くわけにもいかない。
彼女らの言う通りにすれば、今度は国から自分の命を狙われる。
街を乗っ取られ逃げ出した貴族なんて、国が守るはずもないからだ。
それに、こういう話にいくのであれば、都合がいいこともある。
そもそも、暗殺を考えていたのだから。
とはいえ、相手側からそんな虚仮にしたような言動をとられるのは、アリドーラ個人としては断じて認めがたい。
はっきりと怒りをあらわにする。
「……そうか。はっ、最初からそう言うつもりだったんだな、マガツヒ教……!」
「えぇっ!? い、いやいや、そんなことないっすよ!」
「本当本当! 別にそんなつもりじゃ……!」
ごちゃごちゃと教祖と聖女が言っているが、どうせろくでもないことだ。
アリドーラは聞き流すし、敵意を向けてきたことに対して備えをしているシーサイスとアバドンも話を聞いていない。
椅子から乱暴に腰を上げたアリドーラは、スラリと剣を抜く。
「もともと、こっちも暗殺するつもりだったんだ。これで、罪悪感なんて捨てて遠慮なく殺しにいける」
「「もともと!?」」
「行け」
カツン、と剣をたたいて音を鳴らす。
それを合図に、控えていたアリドーラの暗殺部隊が姿を現し、マガツヒ教に向かって襲い掛かったのであった。
「「(ぎゃああああああああああ!?)」」
『意地でも悲鳴を表に出さないことは評価したい』
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第14話
https://magcomi.com/episode/12207421983858902427
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第10話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1088163




