第37話 俺、やっぱり関係なくね?
「奴らは会談に来るでしょうか……?」
豪奢な天幕の中で、アリドーラに声をかける部下の一人。
そんな彼をちらりと見て、すぐに剣の手入れに戻る。
「さあな。俺としては、どちらに転がっても構わん。来なければこのまま軍事力で押しつぶすだけだ」
すでに、いつでも街を攻撃する準備は整っている。
にもかかわらず会談の場を整えたのは、街に余計な被害を出したくないためだ。
今は乗っ取られているとはいえ、そもそもあれは自分のものだ。
取り返したとしても、街が傷つけば、その修繕にも金がかかる。
そんなのはばかばかしい。
それに、万が一街の住民に被害が出れば、なおさら国からの処罰は重くなるだろう。
大事な税を納める住民たちなのだ。国からすると、保護しないはずがないのだから。
それを避けるために、こうして会談の場を整え、無血開城を要求。
当然、マガツヒ教の連中の多くは処刑するが、そのことを馬鹿正直に話すつもりはない。
そんなことをすれば、徹底抗戦を選びかねない。
「ただ、メンツのある奴らは、こういう場に出てこないと、下に示しがつかないからな。嫌でも出てこざるを得ないと思うが……。まあ、明らかに罠みたいなところもあるからな。俺のいない間に街を占領する卑怯者が、出てこられるとは思えないが」
罠、というのは、当然のことながら暗殺のことである。
アリドーラも逆の立場なら、真っ先にそれを心配していた。
条件という条件はすべてそろっているため、気にしない方がおかしいだろう。
少なくとも、アリドーラなら会談に向かうことはない。
まあ、来ないなら来ないで、それを喧伝して相手の評判を下げるだけだ。
街を攻撃しなければならなくなるが、相手はしょせんカルト一派である。
大きな損害が出る前に叩き潰せるだろう。
「念のため、人員は準備させています」
「ああ、当然だ。あいつらだけでいいぞ。むしろ、邪魔な数を揃えたら、暗殺もやりづらくなるからな」
「はっ」
頭を下げる部下。
ふうっと息を吐く。ちょうど剣の手入れも終わった。
ギラリと光る刃を見て、この剣で不遜な敵を切り殺すことができればどれほど爽快だろうと思う。
「まあ、そういうことにならず、自分から首を差し出してくれたらそれが一番だが……」
「アリドーラ様!」
別の部下が天幕に飛び込んできた。
「なんだ? 会談拒否の連絡でも来たか?」
想定していたことだ。
だが、それにしては部下のあわただしい表情が不思議だ。
首を傾げていると……。
「い、いえ。マガツヒ教の連中が、会談の場にやってきました」
「……なに?」
◆
天幕の中に入ってきたのは、4人のマガツヒ教信徒たちだった。
二人は武装していることから、護衛だろう。
ということは、交渉する者としてこちらにやってきたのは、非常に見た目の整った二人の男女。
とくに、女の方は衣装も優れたもので、見た目の良さも相まって輝いているかのようだった。
アリドーラですら気圧されるほどだった。
そんな二人は、穏やかにほほ笑みながら柔らかく頭を下げた。
「はじめまして。私はマガツヒ教で(嫌々だけど)教祖を拝命しております、ライアーと申します」
「わたしはマガツヒ教で恐れ多くも(嫌々だけど)聖女を務めさせていただいております、ユーリエです。よろしくお願いします」
「……この一帯の領地を治めているアリドーラだ。まあ、座ってくれ」
場の雰囲気がマガツヒ教側に傾きそうになるのを感じ取り、内心で舌打ちをするアリドーラ。
そんな内心に気づかず、能天気にもライアーとユーリエはニコニコと笑っていた。
「今回はこのような場を設けていただき、ありがとうございます。人は言葉を操ることができます。やはり、言葉で平和的に問題を解決しなければなりませんから(だから暗殺は止めてくださいお願いします)」
「くくっ、平和的、ねぇ。どの口が言っているんだと言いたい気分だが、まあいい。それで、代表はどちらだ?」
この時、二人に電流走る。
この瞬間だけは負けられない。誰よりも早く動く!
ユーリエの決意に満ちた動きは、まさに神速。
誰にも止められることなく、口を開くことができる。
そのはずだった。
「ラ――――――」
「ユーリエです!!!!」
「ッ!?」
ガッ! とユーリエの口を手で覆われる。
塞ぐ、ではない。わしづかみである。
白い頬にがっつりライアーの指が食い込むレベルで力が込められていた。
そして、ライアーの自信満々な大声。
ユーリエは目を血走らせて睨みつけるが、ライアーは完全無視である。
「ほう?」
「ユーリエはマガツヒ教の聖女。すなわち、私たちの象徴です。女神マガツヒ様の神託を受けることもできるので、彼女こそ頂点にふさわしい」
「ッ!?!?!?」
めちゃくちゃジタバタ暴れているが、ライアー渾身の拘束で言いたい放題やる。
もう全部ユーリエのせいである。
だから、処刑はユーリエだけにしてくださいお願いします。
そんな言外のライアーの懇願が届いたのか、アリドーラの目が彼女を捉える。
「ふん。確かに、見た目は随分と整っているな。聖女と呼ばれるにふさわしいものがあるのは認めよう」
「はい、それは知っています。言われなくとも」
「う、うん……」
何を当たり前なことを? と言わんばかりのユーリエ。
あ、謙遜しないんだ、と思ったのはアリドーラ。
そして、拘束してた手に思い切りかみつかれ、ちょっと血が出るレベルで噛まれたせいで半泣きになっているのがライアーである。
「それで、せっかく会談に来てくれたんだ。なら、建設的な話をしようじゃないか」
場がピリッと引き締まる。
アリドーラの雰囲気や姿勢は、まさしく一つの領地を治める貴族にふさわしいものがあった。
一般人なら気圧されて当然だが、ライアーとユーリエは泰然としている。
その姿に、彼らの護衛は改めて畏敬の念を強くするのであった。
「なぜ、俺の街を乗っ取った? 確かに、俺はスラムを救おうとはしなかった。だが、積極的に害そうともしていなかったはずだ。今までの、お互い不可侵ではだめだったのか? 俺としては、まさに寝耳に水でね。かなり驚かされたんだよ、今回の出来事は」
「(こっちもだよ)」
憮然とするライアーとユーリエ。
誰も望んでいなかったことが起きたのだ。
気を取り直し、とりあえず耳障りのいいことを言っておこうとユーリエが口を開いた。
「わたしたちは決して自分たちのためだけに行動することはしません。今回も、まさにそうです」
「(嘘つけ)」
「(なんで身内から突っ込まれないといけないのよ……!)」
へっと見えないように小ばかにした顔を浮かべるライアーに怒りをあらわにするユーリエ。
とはいえ、この二人は他人のために行動することなんてありえず、今まで完全に自分のためだけに行動してきたので、まったく見当違いではなかった。
「本当か? シルヴィエを排し、スラムを支配したことは知っている。勢力を大きくしようとしたから、今回のことを引き起こしたんじゃないのか?」
「いいえ。今回の出来事は、街の人々を救うために行ったことです」
「ほお……」
アリドーラと互角に渡り合うユーリエを、ぼーっとライアーが見る。
天幕の中なので、空も見えない。つまらない。
「(俺、やっぱり関係なくね? 帰っていいかな?)」
『たぶんだけど、鬼のように恨まれると思うよ』
何となく思考を察知したユーリエが、ありえないくらい恐ろしい顔を向けてきていたので、浮かせようとしていた腰をまた落としたライアーであった。
会談は、まだ続く。
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第14話
https://magcomi.com/episode/12207421983858902427




