第36話 仲良しだなぁ
「うわぁ、えっぐい……」
外壁を背中に座り込み、しっかり姿が見えないように隠れる。
身体をさらしていたら、弓矢やら魔法やらが飛んできそうな気がした。
というか、あれは確実に飛んでくるわ。
凄いもん、やってやる感が。
やってやる、が殺って殺るという言葉になるほどに殺意が高い。
「わたし、あんな集団に殺意を向けられたの、生まれて初めてかもしれないわ……。不敬じゃない?」
「お前、自分がどの立場で言ってんだ」
威勢のいいことを言ってはいるが怖かったのか、顔を青ざめさせプルプル小刻みに震えながら、俺の腕に抱き着いてきた。
おい、お前だけがヘイトを受けているんだから離れろや。
俺にも向いたらどうしてくれんだ。
「こりゃ、ごめんなさいしても許してもらえそうにないな。……もううちのカルト連中を突っ込ませて、その時の混乱で何とか逃げるしかねえぞ」
熱心な信者はどれほどいるだろうか?
まあ、スラムを支配したり私兵団を壊滅させたりしているから、少なくとも数百はいるだろう。
そいつらに爆弾でも持たせて、領主の私兵軍に突っ込ませよう。
人間爆弾とか怖すぎるだろ。
絶対に大混乱になるから、その間に逃げよう。
「僕の大切な信徒を殺す前提で動かすのやめてくれる!?」
「その大切な信徒が勝手に暴走してやらかした結果がこれですよ。ちゃんと責任取ってもらわないとダメですから」
「やだー!」
ジタバタと駄々をこね始めるマガツヒ様。
止めてください、みっともない。
いい年して何してんですか。
……この姿を他の信者に見られたら、ちょっとはカルト具合が薄まるだろうか?
誰かー! 誰かこのみっともない女神の姿を見に来てくれー!
「教祖様、聖女様」
「「ひぃっ」」
背中からかけられた声に、俺とユーリエは震えあがる。
いつの間にか女神は消えていたし、そもそも誰か来てくれとは言ったがお前に来てほしいとは微塵も思っていなかった。
シスター服を着た超危険人物。
十天鬼衆とかいう苦笑いを禁じ得ない集団の第4位である、ダリアだった。
ふふっ、怖い。
「だ、ダリア。どうかしましたか?」
「はい。我らマガツヒ信徒、すでに戦闘準備が整いました」
ひぃっ!?
全然求めていない答えが返ってきてしまった!
なんだ、戦闘準備って! なんで貴族の軍隊と真正面から殴り合うつもりなんだ!
というか、できる自信を持つな! 止めろ!
「あとは、お二人の号令をいただきたいと思っていたのですが……」
「な、なにか?」
少し困ったように頬に手を当てるダリア。
騙されんぞ。お前のそのしぐさが、そのままの意味であることなんてないだろ。
ダリアははあっと重たいため息をつく。
「領主アリドーラから、会談の申し出がありました」
「かい、だん……?」
……これ、出たら暗殺されるやつじゃん!
◆
外壁の一室は、もともと門を守る兵たちが滞留するものだったのだろう。
俺とユーリエがいるのは、おそらくその中でも高い地位にいる奴があてがわれていた個室。
まあ、贅沢なつくりではないから、二人もいたら少々手狭に感じるほどだった。
そこで、ユーリエは生まれ変わっていた。
「よし、準備できたな。これがお前の死に装束だ。どうだ?」
「…………」
「奮発したから、随分と綺麗に見えるぞ。性格最低でも見た目が整っていたら楽だよな」
「…………」
なぜだかユーリエは無言である。
おかしいな。どうしてだ?
今、こいつは普段の質素なシスター服ではなく、ちょっと飾りなども付けられたおしゃれな衣装を身に着けている。
当然だ。何せ、ユーリエは聖女として貴族との会談に臨むのだから。
見た目はいいから、衣装も良ければなおさら立派なものに見える。
不景気なのは、こいつの顔色だけだ。
そんなユーリエに、俺はにっこりとほほ笑んだ。
「で、最期に何か言い残すことはあるか? 一日くらい覚えておいてやるぞ」
「がるるるるっるるるるる!!」
「いってぇっ!? 何かみついてきてんだお前ぇ!!」
うなり声をあげて首にかみついてくるユーリエ。
こ、こいつ! 毎回人体の急所を狙うのやめろよ!
俺に歯型をつけて満足したであろうバカは、白い髪を振り乱して怒りをあらわにする。
「ふざけないでよ! なんでわたしがたった一人で会談に行かないといけないのよ! 誰が死にに行くもんか!」
会談に向かうだけで死ににくというのは多少大言のような気もするが、しかし今回の事例でいうと間違いないんだよな。
だって、俺たちカルトのテロリストだもん。
全然望んでいなかったとしても、客観的に見れば間違いなくそうだ。
で、貴族側からすると、ユーリエはそのトップである。
見るだけでも殺したくなるほど憎いはずだ。
そもそも、会談とか言っているが、別にあっちからすると話したいことなんてないかもしれない。
顔を見せた瞬間首を飛ばされても不思議ではない。
むろん、そんなところに俺が行くわけもないので、物覚えの悪いバカに教えてやるように、丁寧に説明してやる。
「ほら、貴族ってバカだから、接待されたら勝手にいい気分になって許してくれるかもしれないじゃん。貴族……名前なんだっけ? ゴルゴンゾーラくんだっけ? そいつが男なんだから仕方ないだろ。女のお前が適当に酌してやってうまく手のひらの上で転がせや」
「えー……。面倒くさいんだけどぉ……。やりたくないわぁ……」
うるせえ。得意だろ。やれや。
そんなユーリエの反応を見て、マガツヒ様が呆れたように目を細めた。
「できない、とは言わないんだ……」
「はあ? バカな男をコロコロするくらい、わたしにできないわけないじゃないですか。どんなに機嫌が悪くても、5分で機嫌よくさせてやれますよ」
「なんだろう、この才能の無駄遣い感は……」
頭を抱えるマガツヒ様。
さんざんこっちが頭を抱えさせられていたので、ちょっと溜飲が下がる。ざまあ。
へらへらとマガツヒ様を見て笑っていると、すすっと寄ってきたユーリエが俺の服を掴んで見上げてくる。
止めろ。しわになっちゃうだろ。
「でも、やっぱり貴族みたいなクソ男と二人きりなんてストレス半端ないから、わたしだけ行くのは嫌だわ。ライアーも来なさい」
「え、やだよ。いきなり殺すはないだろうけど、会談決裂したら速攻殺されるだろ。会談場所、あっちの陣地だろ? じゃあ行かない」
即答である。
会談場所はあっちの陣地で、確かこっちは派遣できる人数も決まっていたはずだ。
決裂した瞬間に一斉に敵が襲い掛かってくるというのもありうる。
そもそも、国家間の戦争ならメンツもあってそんなことはしないかもしれないが、今回は街を乗っ取ったカルトが相手だからな。
どんな非道な手段を使ったとしても、どこかから非難を受けることはないだろう。
……うん、やっぱり行かない!
「そんなところにわたしだけ行かせようとしてんじゃないわよ……!」
「いだだだだだだだっ!?」
「仲良しだなぁ」
再びかみついてきたユーリエと取っ組み合いをしている中、マガツヒ様ののんきな声が響いた。
全部お前のせいなんだぞ……!
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046038
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第13話
https://magcomi.com/episode/12207421983750208762




