第35話 わあ、ひどい……
また教会に戻ってきて引きこもる俺とユーリエ。
頭がおかしくなりそうだ……。
なんで……どうして……。
こうなった理由が、何も分からん。
俺、別におかしいことも、ダメなことも何一つとしてやっていないよな?
ただ、カルト宗教を作って、かき集めた信者の寄付から少し横領し、他人に羽振りがいいと思われない程度のプチ贅沢生活を楽しもうと頑張ってきていただけだよな?
それなのに、どうしてこんな目に……。
「……やっぱり、領主怒ってるかな?」
「怒っているどころじゃすまないでしょ。自分のいない間に街を占領されたのよ? それはもうブチギレよ。というか、その貴族もたぶん国からかなり罰が下りるんじゃない? なにせ、よくわからない宗教に街を乗っ取られたんだもの」
頭を抱えながら問いかければ、同じく死んだ目で天井を見上げているユーリエが返してくる。
おい、俺の身体にもたれかかってくるな。背中を全力で預けてくるな。
元気だったらサッと避けて無様に転がるユーリエを見てキャッキャしていたが、今はそんな余力は微塵も残されていない。
こいつの返答でさらなる絶望に身を落とされる。
しかし、次第にふつふつと怒りが沸き上がってきた。
「よくよく考えたら、意味の分からない宗教に乗っ取られるような備えをしていた貴族が悪いだろ。俺、何も悪くないじゃん」
「おっと。ブーストかかってきたね」
マガツヒ様が頬を引きつらせている。
そうだ、どう考えても、俺悪くないわ。
「勝手に暴走したマガツヒ教の信徒どもも悪いし、乗っ取られるバカをした貴族も悪い。喧嘩両成敗で、この両者を処刑したらいいんじゃない? 俺は違うけど」
立ち上がって胸を張る。
俺は街を乗っ取ろうともしていないし、命令もしていない。
何も悪いことをしていないのだから、罰せられる理由もない。
俺が立ち上がったことでコロリと転がったユーリエが、不満そうに俺を見上げてくる。
「無理よ、あなたは。こういうのって、立場ある人間に責任を取らせたがるのが人間よ。マガツヒ教のトップはあなたなんだから、あなたが死ぬのよ」
「お前、いつも自分関係ないみたいに言っているけど、間違いなくお前も一緒だからな。火あぶりにされるのはお前だ」
「具体的な処刑方法まで出さないでよ! 想像しちゃうでしょ!」
うわぁーと悲鳴を上げるユーリエ。
聖女の面影はどこにもない。
ふと想像する。
磔にされ、わらを下に敷き詰められ、着火される寸前のユーリエを。
……ありえないくらい泣きわめくか、あるいは最後までよく見られたいがために聖女演技を続けるか。
どっちだろう……。
「……お前、火あぶり似合いそうだよな」
「まあ、薄幸の美少女だしね。分かるわ」
「薄幸の美少女は自分のことを薄幸の美少女とは言わない」
ふふんと胸を張るユーリエに白い眼を向ける。
というか、今はこんなバカに付き合っている暇はないんだよ。
「てか、マジでやべーよ。街が包囲されてるって本当? 鼠一匹も逃げられない感じ?」
「怖いからちらっとしか見えなかったけど、割とガチよ。貴族が引き連れて行っていた私兵団の方が、街に残っていた奴らより強いみたいだし、数も多かったわ。まあ、まさか街が内側から乗っ取られるとは、そうそう思わないわよね。なら、危険な道中の護衛に精鋭を置いておくのも分かるわ」
「俺らも予想外だったもんな、街を乗っ取るの」
誰も想定していなかっただろ、この展開。
乗っ取った俺たちも、乗っ取られた貴族も、目が飛び出るくらい驚いていることだろう。
「それに、街に残っていた私兵団を壊滅させたと言っても、皆殺しにしたわけじゃないみたいよ。まあ、できなかったというのもあるでしょうけど。逃げ出した私兵も多かったみたいで、それもあっちの軍に合流しているわ。だから、結構な数になっているわよ」
「……ここから何とか生き延びることができるウルトラCとかある?」
「避難民に紛れるというのも考えたけど、わたしたちって悪い意味で目立っているから、ばれそうなのよね……。そもそも、街の出入り口はマガツヒ信徒が固めているから、出してもらえないと思うの……」
「最悪じゃん……」
逃げようとしても、まず貴族軍にばれて捕まる可能性。
正直、変装するような技術もないからなあ。
フード付きの外套を目深くかぶるくらいしか思いつかないが、それくらいで俺の美貌を隠しきれるはずもない。
教会で適当な説法とかもしているから、顔も売れている。
そして、そもそも貴族軍に接敵する以前に、マガツヒ信徒につかまるだろう。
俺はまったく命令していないが、トップが逃げ出すのを見過ごすわけがない。
……詰んだ?
いや、待て。まだあきらめるな。
たとえ、百人いたら百人が醜いと言ったとしても、俺は決して自分の命をあきらめない!
「……誰か一人を生贄に捧げ、こいつが独断専行をしたと伝えるか? こっちで先に処罰したら、もしかすると……。いや、でもなあ……。メンツをつぶされた貴族が、それくらいで納得するわけもないかぁ。絶対に俺ももろとも殺そうとするよなあ……」
「こいつ、のところでわたしを見た気がするのは気のせいよね?」
がるるるっとうなり始めるユーリエ。犬かな?
本気でかみつこうとしてくるから怖い。
非力なユーリエがまともにダメージを与えられる有効な手段だ。
……それを俺に使ってんじゃねえよ。
「というか、さっきからなんでそんなに悲壮感を漂わせているの?」
「神に人の心は分からない」
バカなことを聞いてくるマガツヒ様にイラっとさせられる。
悲壮感しかないわ。処刑が秒読みなんだぞ、今の俺はぁ!
マガツヒ様は困惑したように怒る俺たちを見る。
「いや、まあそうかもしれないけど……。でも、あの程度の軍勢なら、僕の加護がある君たちが負けるわけないじゃん」
マガツヒ様の言葉に、今度は俺とユーリエがギクッと肩をはねさせる。
そう、ゴリゴリひいきされている俺とユーリエには、マガツヒ様より特別な加護を与えられている。
確かに、それを使えばこの状況を打開することができるかもしれない。
しかし……。
俺とユーリエは強く難色を示していた。
「そうかもしれないですけど……」
「じゃあ、あんたの加護を使う時の、あのデメリット何とかしてくださいよ。マジで。いいこと何もないんですけど」
そう、デメリットがあるのだ、その加護を使おうとすると。
意味が分かる? 加護ってそういうものじゃないよね?
だというのに、当然のように俺たちが忌避したくなるようなデメリットがあるのだ。
ふざけんなよ。欠陥加護押し付けてきやがって……!
怒りを見せる俺たちに、なぜか白い眼を向けるマガツヒ様。
なんだ、その顔はぁ……。
「別に僕が設定したわけじゃないんだけどね……? なんでだろう……。僕を心から信仰してくれていたら、何のデメリットもないはずなんだけど……」
「「…………」」
ふうっと息を吐く。
なるほどなぁ、うんうん。そっかそっか。
「とりあえず、ちょっと見に行こうかな」
「わたしも」
「ねえ。信仰していたらなんのデメリットもないはずなんだけど。ねえ。どういうこと?」
マガツヒ様を置いて、俺とユーリエは教会から出た。
◆
「わあ、ひどい……」
隠れつつ外壁から覗いた外は、それはもうひどいものだった。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046038
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第13話
https://magcomi.com/episode/12207421983750208762




