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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第2章 

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第31話 なんだこいつ……











「なんでいきなりそんなこと言い出したの……? というか、もう早く寝ましょうよ。起きているとお腹空いちゃうわ。毛布かけて」


 早くこっちに来いと手招きしてくるユーリエ。

 毛布かけても寒い時は寒いからなあ。一緒の寝床で寝ないといけないのも、それが理由だ。

 人肌って結構あったかいんだ。

 お互いまだガキだから、体温も高い方だし。

 隙間風が吹き抜けるようなボロ家だから仕方ない。

 俺とユーリエは、かなり早く寝ているし、何なら寝ている時間も長い。

 寝ているときが一番楽だということもあるが、何よりも空腹に苦しまないためである。

 うまいことやって必要最低限生きていくうえで必要な食事はとれているが、ガキ二人が頑張っても毎日腹いっぱい食べられるはずもなく。

 やろうと思ったらできるんだけど、めちゃくちゃ頑張らないといけないだろうからやらない。


「まあ聞け、ユーリエ。いつもなら俺もとっくに寝ているが、俺たちの未来予想図が確定したんだ」

「適当な異性捕まえて普通以上の生活を送るんじゃないの? 少なくとも、こんな場所で生きていく必要がない感じで」


 まだガキではあるが、俺もユーリエも見た目はかなり整っている。

 この容姿で疲弊した振りをして、毎日の食事にも困っているという感じで演技をすれば、ただで飯がもらえることも多々ある。

 基本的な食糧調達方法にも使えるほどだ。

 労働? したくないからヤダ。

 この容姿という武器を最大限活かして、この貧乏クソ生活から抜け出すのが俺とユーリエの目標だ。

 一番手っ取り早いし、俺たちが働かなくても寄生先が頑張ってくれたら生活できるしな。

 ただ、俺はもっといい手段を思いついたんだ。


「いや、俺思ったんだよ。今、俺らって結構しんどい生活しているだろ?」

「まあね。普通の奴らなら身寄りのないガキなんてもっと悲惨なことになっているわ。そこは、さすがわたしたちよね」


 子供には、普通親という庇護者がいる。

 その庇護者がいないガキの末路なんて、往々にして悲惨なものだ。

 圧倒的な弱者となるし、当然強者に食い物にされる。

 孤児院もあるにはあるがキャパがあるし、そもそも孤児院も劣悪な環境だったり、あるいは運営している奴が悪党で子供を売ったりするような事例すらあるようだ。

 だから、俺たちは孤児院には入っていないのだが、何ならこっちの方が悲惨だろう。

 孤児院はまだ庇護してくれる可能性があるが、そこにもいないガキは誰も守ってくれないからな。

 そんな中で、俺とユーリエは誰かに害されることなく、貧乏ではあるが比較的普通に生活できている。

 むろん、危険が近づけばすぐに逃げたりする危機管理能力や、どうしても無理そうなら誰かに押し付けて逃げる能力、そして庇護欲を掻き立てる完璧なる演技能力のおかげである。

 ユーリエは少し眠そうにしながらも、誇らしげに胸を張っていた。


「と言っても、今の状況は俺たちにはふさわしくないわけだ。だから、普通よりちょっといい生活を求めているわけだが……」


 俺は一呼吸を置いて、口を開いた。


「その生活、結構しんどくね……?」

「……まあ、労働とかは絶対に必要になってくるでしょうね。さすがにパートナーに全任せは無理でしょ」


 誰かに寄生するにはいいにしても、そいつがどれだけ能力があって甘い性格かという問題もある。

 はたして、一人何もしない奴を養ってプチ贅沢ができるほどの金を稼ぐ力があるのか。

 そして、一人は何もしないお荷物を抱えても文句を言わない性格なのか。

 正直、かなり厳しいだろう。そうそういるとは思えない。

 だから、ちょっとはこっちも働かないといけないのは、理性では理解できるのだが……。


「いやだ!!」

「えぇ……?」


 吼える俺を見て、呆然と見上げてくるユーリエ。


「なんかいやになった! 働くの嫌だ! 何もしたくない! 生きているだけで褒められたい! 呼吸しているだけで余裕で生きていきたい!」

「……そんな理想論言ったって仕方ないでしょ! 現実を見なさい! そしてわたしを養いなさい!」

「自分だけ楽しようとしてんじゃねえ!」


 俺がごねるせいか、ユーリエも目を吊り上げて組み付いてくる。

 止めろ! 痛い痛い痛い!


「というか、なんでいきなり宗教なのよ。まさか、天使教に入信したとかじゃないわよね? だとしたら目を覚まさせてあげるから、歯を食いしばりなさい」


 拳を握りしめてにらみつけてくる。

 お前、人を殴ったことなんてないんだから拳痛めるぞ。やめとけよ。


「目を覚まさせる手段の一発目に殴打が来るのがお前らしいよな。だけど、天使教はないから安心しろ。ないから」


 自分たちを救ってくれない相手を、どうして信仰することができようか。

 信じれば救われる、とか天使教のお偉いさんは言っているらしいが、逆だろ。

 先に救えや。じゃあ、多少感謝してやらんこともないこともない。


「じゃあ、なんで?」

「天使とかはどうでもいいんだけどさ。ほら、時々街の教会に、天使教の偉い奴らが来ているだろ?」

「あー、そうね。どいつもこいつもペコペコしているわ。みっともない」


 視察とかいうのだろうか?

 教会には、半年とか一年おきに首都から天使教の偉いさんがやってくる。

 といっても、誰もが知っているような教皇や枢機卿レベルではなく、天使教本部に勤めているレベルの人間なのだろうが。

 教会なんて、この国のいたるところにあるし。

 そんなろくにこっちのことなんて考えていないであろう奴なのに、教会の神父やシスターは、それはもうペコペコしている。

 そんな大した奴じゃないのにな、絶対。

 別に、他人からそうされたいという気持ちはない。

 だが、羨ましいと思うところが一点だけ存在する。


「それなんだが……。あいつらさ、たぶんめちゃくちゃ裕福だわ」

「……本当? 天使教って、質素を尊ぶんじゃなかったかしら?」


 怪訝そうな顔を見せるユーリエに、俺は真剣な顔でうなずく。

 確かに、天使教の教義だがなんだか知らないが、質素な生活を心がけている信徒が多い。

 だが、意外にも本部にまでいる天使教の信徒は、そうでもないらしい。


「いや、マジ。ちらっと馬車の中見えたんだけど、ありえないくらい豪華だった。高そうな果物とかもあったし、何なら女も連れ込んでいた」


 視察にやってきていた際に使っていた馬車。

 遠目から、一瞬だけ中の様子をうかがうことができた。

 中は、馬車の内装とは思えないほど豪華で、たとえ舗装されていない道を全力疾走したとしても、お尻にダメージが入らないと確信できるほどのクッションや家具で埋められていた。

 加えて、高そうな酒も常備されてあって、なぜか裸の女まで複数人。


「えぇ……。生臭じゃない……。あなたはそんなのになったらだめよ」

「いや、それはならないけどさ。肉欲とかマジで興味ないし」


 頬を膨らませてジト目を向けてくるユーリエに、俺は首を横に振る。

 いや、本当生臭だよな。

 酒! 金! 女ぁ!

 ダメな奴全部抑えている。天使教ってすごい。


「ただ……ちょっといい生活だけは羨ましい」

「……確かに」

「しかも、あいつらろくに仕事してないだろ。ただ地方の教会を回って偉そうにするだけで、贅沢な生活ができるんだぜ? これ、最高じゃね?」

「…………確かに!」


 今までどこか嫌そうだったユーリエも、俺の話を聞いてウキウキになってくる。

 目がきらきらと輝いているほどだ。

 なんだこいつ……。


「じゃあ、今から天使教に入信するの? ちょっと嫌だわ」

「まあ、俺たちなら上に上がれるだろうけど、時間はそこそこかかるかもしれないな。どうせ、賄賂とかコネとかが必須だろうし。俺ら、そういうのはないからなあ」


 あれだけ大規模な組織だ。

 普通に頑張って上に上がることはできないだろう。

 賄賂のための金もなければ、コネという人脈もない。

 能力があるから上には上がれるだろうが、時間は相応にかかるはずだ。


「一から這い上がっていくのも別にいいけど、時間がかかるのは嫌よ。贅沢できるのが老後とか、割に合わないもの」

「だから、宗教を立ち上げようと思ってな! それなら、俺たちが最初からトップだ!」

「なるほどね! わたしたちの詐術を持ってすれば、信者なんて簡単に手に入るしね! そこで寄付を横領してプチ贅沢生活ということ!」


 ユーリエの言葉に、俺は力強くうなずいた。


「そういうことだ! ちっちゃく宗教するくらいなら、天使教も目くじら立てないだろ。そんなところまで目は行き届かないだろうし。実際、他にも宗教がないわけじゃないからな」


 巨大な宗教を作るつもりもなければ、天使教に逆らうつもりもない。

 ちっちゃな宗教でも、トップにいればプチ贅沢くらいはできるだろう。

 そして、異教を一切認めない方針をとっている天使教だが、さすがにすべてを監視して芽を摘むことはできない。

 実際、世の中には小さな宗教がいくつも存在する。

 その中の一つになればいいのだ。

 俺、天才……!


「で、信仰対象は?」


 ウキウキになっていた俺だったが、ユーリエの質問にスンと現実に引き戻される。


「……それなんだよなあ。適当に作った神でもいいんだけど、やっぱいた方が説得力は持つし」


 宗教なんだから当然信仰対象となる神が必要だ。

 だが、神なんてそうそうそこらへんにいるはずもないし、もっと言えばこっちの都合のいい神である必要もある。

 天使教をつぶして自分たちが一番にならないといけない、なんてことを言い出すバカな神とか困るのである。

 そんな都合のいい存在がいればいいんだが……。

 まあ、最悪神以外を信仰対象にしてもいいのだが、この世界だと明確な神を信仰するのがポピュラーだからなあ。


「まあ、適当に探していなかったら作るしかないんじゃない? そうそういるとは思えないし、いたとしても都合がいいか分からないけど」

「だなあ。とりあえず、創作神の設定でも考えるか」


 そうして、俺たちは神を探しつつも、おそらく見つからないことを前提に動き始めるのであった。











「うぅ……。天使教、憎い……!」

「えぇ……?」


 酒瓶を抱えて地べたに寝転ぶ女神を発見した。

 なんだこいつ……。



過去作のコミカライズ最新話が公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話

https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046038


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第13話

https://magcomi.com/episode/12207421983750208762

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― 新着の感想 ―
子供の頃から生粋のgm 素晴らしいね
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