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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第2章 

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第30話 そうだ、宗教を立ち上げよう!











「…………」

「…………」


 いつもの中庭。

 誰も入ってこない場所で、俺とユーリエは頭を抱えてだまりこんでいた。

 すごく久しぶりだ。こんなにどうしようもない状況に陥れられるのは。

 何も……何もいい考えが思い浮かばない。

 そんな俺たちを見て、マガツヒ様が小首をかしげる。


「空気重くない?」

「……この状況で元気にふるまうことができるのはバカだけですよ、バカ」

「……そうですよ。能天気で将来のことを何も考えていないクソガキかバカだけですよ、バカ」

「バカって二人とも言った! ダメなのに!」


 バカはバカでしょ、バカ女神様。

 俺とユーリエがこんな体勢になっている理由は一つだ。

 マガツヒ教、貴族アリドーラの私兵団を壊滅させる。

 その速報が飛び込んできてからというものの、俺たちはずっと胃が破壊されるほどの苦痛を味わっていた。

 ……何勝手なことしてくれてんだ!!


「なんでだ……。なんで、俺の思っている通りに世界は動かない……? こんなのおかしいだろ……」


 一度もない。街を占領して貴族をつぶすなんてことを思ったことは。

 ふざけるなよ。こんなことになるなんておかしいだろ。

 本当に夢かと思って、十回はユーリエの頬を引っ張ったぞ。

 代わりに脛を蹴られてしまったが。


「考えうる限り最悪の方向に全速力で突っ込んでいっている気がするわ……。これって、わたしのせいなのかしら? それとも、あなたのせいなのかしら? 後者なら、もう逃げたいのだけど……」

「後者だったら絶対にお前も道連れにするぞ。逃がさん、お前だけは……!」

「ふざけないでよ……! あなたが始めた物語でしょ! ちゃんと責任取りなさい!」

「違う! 俺の考えた物語は一向に始まっていない! 全然望んでいない物語が、勝手に進んでいっているんだ! ふざけんな!」


 取っ組み合う俺とユーリエ。

 俺の思い浮かべていた物語はなぁ! 一日一時間くらい適当に説法とかしてなあ! もらった寄付からちょっとちょろまかしてなあ! 一日の大部分を他人のお金でちょっと贅沢しながら過ごすって物語だったんだよお!

 こんなストーリーにしたいなんて、誰が言ったんだ!


「だいたい、どうして私兵団まで壊滅させてんだ……。あれ、官憲とは違って、一応軍隊だろ。それを壊滅させた理由も、できた理由も分からん」


 官憲とかならまだわかる。

 あいつらの仕事は治安維持であって、別に誰かと殺し合いをすることが仕事ではないから、荒事に慣れていないというのも納得だ。

 だが、私兵団は違う。

 あれは国でいう軍隊みたいなもので、貴族が持つ武力だ。

 当然、人を殺すほどの攻撃手段も鍛錬しているし、いざとなれば躊躇しないだろう。

 だというのに、なんでうちの連中はそいつらを壊滅させてんの?

 できることもおかしいし、そもそもやろうとしたのもおかしいだろ。何してんだ。


「それはもうほら……街の人たちが望んでいたからだよ」

「嘘だ。そんなはずない。なんで自分たちを守る軍隊をつぶせという奴がいるんだよ。マゾか?」


 マガツヒ様がまあまあとなだめるようにしてくるが、なだめられるわけないだろ! いい加減にしろ!

 もともと、スラムを支配したこと自体でもかなりストレスだったんだ!

 それが、何を間違って街を守る私兵団を壊滅させてんだ! 終わりだ!


「まあ、もうやってるんだから今更グチグチ言わないでよ」

「なあなあで済ませたらまた同じようなことが起きるだろうが! 断固として原因を徹底追及し、二度と同じことを起こさせないようにするんだ!」


 やれやれと首を横に振るマガツヒ様。

 こ、こいつ……! 本当に邪神だろ……!

 まさか、天使教とやり合うだけの武力がそろっていてご満悦、とかではないだろうな?

 絶対にやらんからな! 絶対だぞ!


「理由も怖いけど、一番怖いのはマガツヒ教の戦力よ。国軍ではないとはいえ、私兵団を壊滅させる宗教組織ってなによ。わたし、怖すぎてもうまともに顔を上げられないんだけど。周りの人間がやばい奴に見えすぎて」

「……やばい。この宗教、滅ぼした方がいい気がしてきた」

「なんてことを……。このまま天使教を皆殺しにし、世界最高宗教にのし上げるんだよ?」

「はっはっはっ。知るか」


 やばい邪神にやばい信徒。

 一刻も早くおとり潰し願わないといけない。


「マジで逃げる方法を考えておかないとな……。これ、間違いなく死刑だぞ。今の段階でも」

「しかも、絶対に普通の死刑じゃないわよね。拷問の上、火あぶりとかきつい処刑されるわよ……」


 ユーリエの言う通りだろう。

 そもそも、この国で貴族に逆らうという時点で、かなりの重罪だ。

 何が貴族だ。ふざけんな。私利私欲満たしやがって……。人間の風上にも置けない。

 ただ逆らっただけでもまずいのだが、私兵団を壊滅させて、街を乗っ取っているからな。

 ……これ、この街の貴族だけの問題じゃなくね?

 国家の一大事になってない?

 一つの街が反乱で落とされたようなものだろ?


「ふざけろ。絶対に逃げ切ってやる……!」

「ええ、何を犠牲にしてもね……!」

「お互いを見る目が囮そのものなんだけど、それはどうなの?」


 いざという時の生贄(ユーリエ)もいる。

 絶対に生き延びてみせる……!

 生きていられたら、俺なら何とでもなるしな。

 顔もいいし、頭もいいし、何より性格もいい。

 しかし……俺の輝かしい成功が約束されていた人生が、こんなことになるとは……。

 ケチが付き始めたのは、間違いなくそこで呆れたように俺たちを見てくる邪神と出会ってからで……。


「はあ……」

「えぇ……? 信仰している神を見てため息ってひどくない?」

「自分の胸に手を当てて考えてみたらどうですか?」


 本当にわからないといった感じのマガツヒ様。

 うーん、この……。


「……なんでこうなったんだろうなあ」

「あなたがあれを拾ってきたからでしょ」

「…………そっかぁ」


 ユーリエににらまれて、俺はマガツヒ様と出会った時のことを思い出した。











「そうだ、宗教を立ち上げよう!」

「…………は?」


 立ち上がって拳を突き上げる俺に対して、当たり前のように俺の寝床でごろごろしていたユーリエが白い眼を向けてきた。

 まだ、俺たちがガキだったころの話である。



過去作のコミカライズ最新話が公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話

https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046038


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第13話

https://magcomi.com/episode/12207421983750208762

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