第29話 なんか怖いんだけど
教会で俺は冷や汗を大量にかいていた。
おかしい。教会というのは、もっと気持ちを落ち着けられる、そんな場所じゃないのか?
どうしてここにいるときが、一番緊張しているんだよ。
ニコニコと目の前で楽しそうにほほ笑むダリア。
ユーリエと意匠は違えど同じシスター服を身に着けた、銀髪のシスター。
孤児院の責任者でもある彼女は、スラムを破壊してからというものの、徐々に危険な片りんを見せ始めていた。
ダリアが教会に入った時にはげんなりとしていたが、次に口を開けば『街を落とす』という宣戦布告である。
どうなってんだ、こいつの倫理観。
俺は近くにいるユーリエにアイコンタクトで意思疎通を図る。
「(おいどうすんだよ。もう完全にテロリストの発想だよ。ちょっとスラムでの戦いがうまくいったから、今度はガチガチのテロを起こそうとしてるよ)」
「(なんとかかんとかの序列4位なんでしょ? あなたが説得しなさい)」
「(お前にも従うだろ。お前が何とかしろ)」
こいつ、マガツヒ様が一生懸命考えたクソ寒い名前をまったく覚えていないな。
興味のないことやどうでもいいと思ったことは本当に切り捨てるな、こいつ。
俺が一切口を開かない姿勢を見せたから、ユーリエはいやいや口を開いた。
「え、えーと……どういうことですか、ダリアさん?」
「はい。マガツヒ教の信仰をさらに広めるために、邪悪な天使教に染まったこの街を落としましょう」
えぇ……。なにそのそそられない動機……。
心の底から気分が盛り上がらんわ……。
まだ『領主が蓄財しているのでそれを奪って豪遊しましょう!』と言われた方がいいわ……。
ゴーサイン出すよ、俺。
『ダリア……! なんていいことを言う子なんだ……! 僕は感動したよ!』
不穏な言葉を聞いてウキウキで近寄ってくる透明化したマガツヒ様。
もう中庭で引きこもってろよ、この馬鹿女神。
あんたが出てくるとややこしくなるから、本当におとなしくしていてほしいんだけど。
さて、とりあえずとんでもないことを言っているこの馬鹿を止める必要があるので、俺はアイコンタクトでユーリエに任せることにした。
「(よし、ユーリエ。断れ)」
「(はあ!? なんでわたしがやらないといけないのよ! あなたが断りなさいよ! こんな狂信者に否定の言葉を吐いたら、逆恨みされそうじゃない!)」
うん。
「(だからお前に任せると言ったんだけど? 難しかったか?)」
「ダリア。教祖様が何か仰りたいことがあるようですので、しっかりと聞いてください」
「ッ!?」
こ、このクソ女! 絶対にやってはいけないことをしやがった!
おい! これはルール違反だろ! そういうのはなしだろ!
「なんでしょうか、教祖様?」
俺の顔をじっと見てくるダリア。
はぁ、やれやれ。結局俺が何とかしないといけないわけか。
ユーリエはビビり散らかしているようだが、俺はそうでもない。
なぜなら、しょせんダリアは一介のシスターに過ぎないからだ。
俺の方が強い。
ということで、卓越した交渉術で丸く収めるため、俺はゆっくりと不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。
「だ、ダダダダダダダリア。お、おちおち落ち着いて聞いてくださいね?」
『ありえないくらいビビり散らかしていない?』
「(ふふっ)」
なんか今日寒いから、うまく活舌が回らないわ。驚きだわ。
それはそうと、腹を抱えてプルプルしているユーリエは後で絶対に呪う。
明日一日何かに足の小指をぶつけまくる呪いをかける。これは決定事項だ。
「信仰を広めることはとても大事です。あなたの言う通り、マガツヒ様もお喜びになることでしょう」
『そうだそうだ! 僕は大喜びだぞ!』
黙ってろ。あんたが喜ぶことをしたくないんだよ。
「ですが、街を落とすとなると、当然戦いになるでしょう。そこで割を食うのは、いつも力を持たない一般庶民です。彼らを巻き込むことは忍びない。そうは思いませんか?」
必殺、他人のためを思いやって苦言を呈するの技!
これを使えば、俺は別にそう思っていないんだけどなあ、感が出せる!
まあ、ぶっちゃけ俺が一番大事だし、いざという時は全然巻き込むけど。
「教祖様、なんとお優しい……。ダリア、感服いたします」
バカにしてんのか?
「(してるわよ。絶対に)」
……それはお前が俺をバカにしているだけでは?
「ですが、ご存じでしょうか? 貴族アリドーラは、その立場を利用して私利私欲を満たしていることを。民が必死に納めた税をむさぼり、私腹を肥やしています。そのせいで、飢餓状態にある者も……」
至極悲しそうに顔を歪めるダリア。
えぇ……何してんだよ、クソ貴族。
税金を納めていなかったからろくに知らなかったけど、お前そんなにクズなのか?
バカ野郎! 不正するんだったら、絶対にばれないようにしろよ!
俺だって、寄付からへそくりもらうときは絶対にばれないようにうまくしているのに!
『そういうことじゃないよね』
くそっ! こういう言い方をされたら、慈愛と慈悲の塊である俺は、むげに否定することができなくなってしまう!
「で、では、街の人々が望むのであれば、私たちは戦いましょう。望まれていないのにするのは、余計なお世話というものですからね」
「さすが教祖様。英断でございます」
ニコニコとほほ笑みながらダリアが頷くと、俺は勝利を確信した。
まさか、本当に街の人間が望むとでも?
まあ、望むわけないだろ。
だって、マガツヒ教なんてちっちゃな何をしているのかわからないような新興宗教である。
そんな宗教が、『あなたたちを助けるためにこの街を落とします! 同意してくれますよね!?』と言ってきたとして、頷くバカがどれほどいるだろうか?
それに、ダリアはこの街の貴族が悪党だと言っていたが、俺はおそらく小悪党だと思っている。
マジでやばいレベルで悪い貴族だったら、さすがに俺も知っているだろうし。
つまり、俺やユーリエと同じような考え方をしているが、俺たちよりもはるかにバカなのが、この街の貴族なのだろう。
俺なら、もっとうまく不正できるし。
民に反感なんて抱かせないうちに不正蓄財できる。代わりにやらせてほしい。
まあ、ともかくそういうことである。
俺が否定しなくとも、街の人間が否定してくれる。
これで、街の襲撃なんてしなくてもいい。
はあ。この一瞬で俺はなんて完璧な作戦を思いつくのか。
自分のたぐいまれなる頭脳が恐ろしい。
「――――――それでは、そのように」
穏やかに言うダリア。
……おかしいな。なんか怖いんだけど。
領主不在となった貴族の私兵団を壊滅させたと報告が来たのは、その数日後のことだった。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046038
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第13話
https://magcomi.com/episode/12207421983750208762




