第28話 この街を落としましょう
「スラムか……」
ポツリと呟く。
厄介な場所だ。なにせ、自分の力が届かない場所が、街の中にあるのだから。
まあ、あちらも身の程はわきまえており、表の方に出てこないため、面倒事を避ける意味もあって放っておいた場所だ。
ある種の自治権を与えているようなものだが、そもそも税を納めない連中に気を配ってやる必要はない。
「はっ。いかがなさいましょうか」
「ああ、どうにかしようとは思っていたんだ。ゴールの奴が死んだからな。適当な情報をスラムに与えて管理する人材がいなくなっていたから、代わりは探そうとは思っていた」
「裏切り者のゴールですか」
官憲の一人であったゴール。
悪徳官僚の典型的な例だった。
こちらの情報をスラムに流す代わりに、対価として金銭を得ていた男だ。
彼はばれていないと思っていたようだが、当然アリドーラは把握していた。
彼一人だけならまだしも、彼の息がかかった官憲も何人かかかわっていた。
そこを抑えれば、簡単に裏切りが判明した。
部下は忌々しそうに顔を歪めていたが、アリドーラは鼻で笑った。
「まあ、そう邪険にするな。かわいいものじゃないか。裏切っていい思いができていると勘違いして、俺の手のひらの上で踊っていたんだからな」
ゴールを抑えていれば、逆にスラム側の動きも把握することができていた。
彼から流れる情報も大したものではないようにしていたので、あれはあれでよかった。
「それに気づいたスラムの支配者……シルヴィエの一派が殺したのでしょうか?」
「どうかな。そもそも、ゴール自身が俺たちに謀られていたと知らないんだ。シルヴィエたちがそれを知ることができるとも思えないが……。それに、ゴールの奴が何もできずに殺されるというのも考慮しないとな。あいつは図に乗りやすいが、それができるほど能力は高かった」
ゴールを殺したのがスラムの人間だとすると、それほどの実力者がいるということだ。
そんな情報は入ってきていないが、新しい流れ者でも入ったのだろうか?
そうなると少々厄介な話となるが……。
「まあ、今はそれは置いておこう。勢力図の改変の方だ。そっちの情報をよこせ」
「は、はい。しかし、不可解なことが多く、あまり精査されていませんが……」
「構わない。俺も予定があるからな。簡潔に頼む」
アリドーラは身支度を整えながら言うと、部下はコクリと頷いた。
「はい。まず、スラムを支配していたシルヴィエ一派が壊滅しました。それを成したのが、スラムで活動していたマガツヒ教と呼ばれる宗教組織です」
「宗教組織……? 聞いたことがない名前だな。そもそも、宗教組織がシルヴィエをどうにかできるのか? その程度なら、とっくに殺されて支配者は変わっていただろうに」
生半可な人間なら、とっくに野心あるものにとってかわられていたことだろう。
それが数年にわたってなかったということは、それだけシルヴィエの能力の高さを表している。
そんな彼女を、たった一日で打ちのめすことが、ただの宗教組織にできるのだろうか?
「はい、そこも不可解ですが、一番気味が悪いことが……」
「なんだ?」
「シルヴィエはマガツヒ教と衝突した直後、自ら敗北を宣言。自分が持っていた支配権を、全面的に委譲したと……」
「なに?」
目を見開くアリドーラ。
シルヴィエが殺されたのであれば、まだわかる。
その方が手っ取り早いし、何より短時間で決着がついた理由も分かる。
正面から殴り合わなくとも、暗殺できればそれでいい。
だが、シルヴィエの方から敗北を宣言したというのが問題だった。
今までさんざん甘い汁を啜ってきた人間は、その立場から退くことを極端に好まない。
シルヴィエも嫌々ながら、なんだかんだでいい生活をしていた。
それを捨て去るのは、欲望を持つ人間なら難しいことだ。
「マガツヒ教の理想と信念に心を打たれたと……」
「はっ、ばかばかしい。あの女が、宗教に心をゆだねるか? 絶対にありえないな」
どうせ、それもマガツヒ教が発表していることだろう。
当然、事実ではないはずだ。
「となると、間違いなく強要されているな。くくっ。他人を支配してきた女が、他人に支配されるとはな。スラムの人間にはふさわしい最期かもしれん」
「いかがしましょう」
「どうもこうもない。まだ、そのマガツヒ教の動き方も分からんのだからな。監視を続け、どういう行動をとるのか理解しろ。それ次第だ」
話を打ち切ると、鏡からようやく離れる。
他者から見てもみっともない状態ではない。
出立の準備が整った。
「そ、それでいいのでしょうか?」
「バカが。これから俺はあの方に呼ばれて会合に出る必要があるんだよ。こんな些事で遅れるなんてことになってみろ。俺だけじゃなく、この領地も危険になるんだぞ」
「も、申し訳ありません。差し出がましいことを」
アリドーラは貴族である。
だが、当然この国で最も偉い、というわけではない。
王族はもちろんのこと、貴族の中でも貴賤の差はある。
今回の会合は、自分よりも立場が上の貴族が開催するもの。
パーティーではあるが、当然仕事である。
ここで上の立場の貴族に気に入られれば、さらに自分は上に向かうことができるかもしれない。
だというのに、不興を買うようなことをするわけにはいかないのだ。
「ともかく、警戒は続けろ。官憲だけで難しいなら、俺の私兵団を使っても構わん」
「はっ」
部下は頭を下げて部屋を出る。
それを見送り、アリドーラはまだ見ぬマガツヒ教を嘲笑した。
「マガツヒ教、ね。つまらんことをするものだ。自分の首を絞めることをするとはな」
◆
「この街を落としましょう」
「ええ、なんでぇ……?」
アリドーラが意気揚々と街を出るころ、スラムの教会ではダリアに迫られて激しく困惑しているライアーの姿があった。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
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『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://kimicomi.com/episodes/13c56e2160ec2
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046954
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046038




