第25話 テロ、ですね……
事変と称されるほどの大きな出来事だった。
たった一日……いや、数時間で、スラムの勢力図が一変したのだ。
スラムを支配していたのは、シルヴィエ率いる一派である。
彼女が頭目となってからはそれほど月日は流れていないが、彼女の先代たちからも数えると、数十年スラムを支配していた組織だ。
支配者としてスラムの住人はもちろんのこと、表社会の施政者側……領主や官憲からも認められていた。
そんな組織が、たった数時間で壊滅した。
その代わりに台頭したのが、反社会的勢力……ではなく、小さな宗教組織である。
名を、マガツヒ教。
女神マガツヒを奉る宗教で、世界でも主流の宗教である天使教とは異なる信仰を持つ者たち。
驚くべきは、組織を壊滅させるだけの武力を持っていたことだろう。
しかも、誰にも悟られることなく、用意周到に準備できる能力もある。
スラムで起きた激変。
しかし、それは表の世界で暮らす多くの人々にとっては関係のないことだった。
そもそも、裏の世界と関わり合いを持たない者がほとんどなのだ。
そんな世界で支配体制が激変したとか、そんなことを知る由もない。
仮に知ったところで、何か影響でもあるのかということだ。
表にスラムの人間は出てこられない。
領主アリドーラ率いる官憲たちが、しっかりと世の中を守ってくれている。
そう信じていた。
それが、何の根拠もない願望であることにも気づかず。
◆
スラムの支配組織から命を狙われていて、それを察知した信者たちがカウンターで奇襲を仕掛けてむしろ敵を壊滅させ、俺たちの前でそのボスを跪かせてやばい宣誓をさせてから、数日が経っていた。
……言葉にしても思う。これ絶対におかしいと。
ともかく、教会にいる俺とユーリエ、そしてダリア。
今は、そのあとの現状報告を受けている形だ。
意味が分からないが、なぜか狂信的なマガツヒ信徒に生まれ変わったシルヴィエによって、スラムの支配権はマガツヒ教に引き渡されていた。
うん、いらない。お返ししたい。
誰も求めていないんだけど。誰がスラムを支配したいなんて言ったの?
「今回の件で、一気にスラム全体を支配下に置くことに成功しました。すべてマガツヒ様、そして教祖様と聖女様の御威光のお力です。おめでとうございます」
「「…………」」
俺たちの威光ってなに? おめでとうと言われてこんなにうれしくないことは初めてなんだけど?
とはいえ、ダリアがとんでもなくニコニコしているので、猫かぶりしている以上本音を言うわけにもいかず……。
というか、今更本音を言うことが怖くなった。
だって、スラムの暴力的な連中を壊滅させるような奴らだぞ? 相当やばいだろ。
こいつらの不興を買ったら、マジで殺されるんじゃないか?
『ふぉおおおおおおおおおお!! 力がみなぎってくるよおおおおおおお!!』
この邪神、マジでキャラ崩壊が半端ではない。
俺が見つけるまでなんで今にも消滅しかけていたのかがはっきりとわかる。
お前、なるべくしてなっただろ、あの状況。
「(何してんの、この邪神?)」
「(知らないわよ。というか、あなたが拾ってきたんだから、ちゃんとあなたが世話をしなさい。だから変なのは拾ったらダメだって、わたしは言ってあげていたのに……)」
「(こんな化け物だと思わなかったんだもん……。俺の都合のいい道具になると思っていたのに……)」
こそこそと身を寄せてきたユーリエと会話する。
飼い犬に手をかまれるとは、まさにこのことだよ。ふざけんな。
ダリアがこちらをニコニコと見て答えを待っている状況なため、俺はいやいやではあるが口を開いた。
「なんだかよく分かりませんが、女神さまもお喜びになっていますよ。本当になんだかよく分かりませんけど」
「それは……さすが教祖様。神託を受けられたんですね」
「え、まあ……はい」
神託というか……そこで狂喜乱舞しているんですよ……。
見えないっていいよなあ。俺もダリアみたいにマガツヒ様が見えなくならないかな、マジで。
「それで……というのもおかしな話なんですけれど、教祖様と聖女様には、ぜひ今後のマガツヒ教の活動についてもご相談しておきたくて……」
「今後、ですか?」
俺がユーリエを生贄に捧げて誰も知らない場所に逃げる計画のこと、知っているのか?
誰にもばれていないと思っていたんだけど……。
寄付金からも少ししか横領していないから許して!
「…………」
……ユーリエがものすごい目でこっちを見ているのは無視だ。怖い。
「はい。やはり、宗教というのは信徒の数が重要だと思います。世の中には天使教なる愚かな邪教がはびこっていますが、それを破壊し、真に人のために寄り添うことのできるマガツヒ教を広げていきたいと考えています」
『ダリア……なんていい子なんだ……。二人ほどじゃないけど、ちょっとだけひいきしてあげよう』
もうこいつのこと教祖とかにしてくんない?
お前ら絶対に気が合うよ。
俺、もうマガツヒ様に利用価値ないと思っているから、卒業したいしちょうどいいわ。
なんだよ、天使教を破壊って。
世界で一番浸透している宗教を、どうやって破壊するんだよ。
国に喧嘩を売る以上にやばいこと言ってんだぞ、わかってんのか?
「え、ええ。ですから、今までのように地道に活動をしていきましょうね」
同じ考えに行き着いたのか、ユーリエが頬を引きつらせていた。
……お前がこれから首魁だからな。あとは頼むぞ。
「はい。地道に頑張りましょう」
しかし、意外にもダリアは物分かりのいいことを言っていた。
ふう、よかった。破壊とか言っていても、あくまで比ゆ的な表現ということかな?
地道に勧誘活動を続けて、少しずつ信仰を広めていくみたいなね?
まあ、あまり目立つようなら天使教につぶされかねないから、気を付けないといけないんだが……。
俺はあまり出しゃばらないようにしようと心に決めた。
「ですので、とりあえずこの街を落とそうと思います」
「「…………んん?」」
あれ? 俺の決意は?
このシスターは、いったい何を言っているんだ?
教えてくれ、マガツヒ様!
『テロ、ですね……』
終わった……。
第1章完結です!
良ければブックマーク登録や下記から評価をお願いします。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第12話
https://magcomi.com/episode/12207421983638281988
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1020677
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://kimicomi.com/episodes/13c56e2160ec2
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046954




