第24話 うーん、いい言葉!
シンと静まり返る教会の中。
いつもは信者が邪神を崇めて祈っているので静かなことは多々あるのだが、今こういう感じになるのは、少々解せないところがある。
なにせ、マガツヒ教を襲撃しようとしていたスラムの支配組織をなぜか先制攻撃を仕掛けて壊滅させ、敵の親玉を引きずり出していたところなのだから。
……言っていて何が何だか意味が分からないな。
狙われる理由も分からなければ、先制攻撃をして反社会的勢力を破壊できるマガツヒ教も意味が分からない。
というか、一応俺ってトップ的な立場だよな?
なんでこれだけの戦力があることを、俺が知らないんだよ。おかしいだろ……。
静まり返っている理由は、敵の親玉……シルヴィエが、何か勝ちを確信したように呟いてから何らかの魔法を行使し、それを受けたダリアとともに沈黙を保っていることである。
二人とも頭をがくりと下げて、身動きをとらない。
それを警戒して、信者たちはシルヴィエと、そしてダリアのことを囲んでいる。
もう二人ともがんじがらめにしたら?
「……え? 何この空気。俺どうしたらいいんだよ」
「わたしもわからないわよ。もう帰っていい?」
「いいぞ。ハメルたちに、お前が体調を崩したってチクってやる」
「そんなことしたら、またバカみたいにお見舞いとか看病とかに来るでしょ……! 望んでいないのよ……! というか、本当に体調不良だったときに猫かぶりを強要されるのは本当にきつかったわ。あいつら嫌い」
本当に嫌そうに顔を歪めるユーリエ。
他人からは決して見えないような顔の位置にしている。
というか、完全に俺の身体で隠しているな。近いんだよ、距離感が。
『他人が本当に自分のことを心配してお見舞いにきてくれたのに、この言い草は聖女としてどうなんだろう……』
余計なお世話ってやつじゃないですかね?
そもそも、あなたみたいな神に仕えるんだったら、めちゃくちゃ適性な感じがしますけど。
『え、なんで?』
自覚ないのが一番やばいと思う。
「というか、なんでいきなりあの二人黙ってんの? いきなり引っ張り出されて、スラムの支配者に鉢合わせさせられて、こっちはすんごい迷惑なんですけど。本当に帰ろうかな……」
「いいじゃない。わたしも帰るわ。一緒にお昼寝しましょう」
「いいなあ……」
あまりにも魅力的な提案だ。
いや、別にユーリエはいらないんだけど、昼寝というのがたまらない。
時間を無駄に使って惰眠をむさぼるというのは、人類が得られる最大の快楽の一つだと思う。
もういいか……。
そもそも、なんで俺らがここにいるのかもわからんし……。
よくわからんけど、俺の命を狙っていた連中は狂信者たちがうまくやってくれたみたいだし、命の危険もなくなったようだ。
なら、居眠りしていても問題ないだろう。『君たちのために一生懸命頑張っている信徒たちに、申し訳ないとか思わないの?』
「え、思わない」
「別に頼んでいないわ……」
『うーん、本当こいつら……』
「うっ……」
そんな会話をしていたら、ようやくダリアが顔を上げた。
ちっ、もう少し下を向いていてくれたらよかったのに。
俺の立場上、場に残って心配しないといけないじゃん……。
やれやれとため息をつきつつ、ダリアの周りを囲んでいた信徒たちをどかし、声をかける。
「ダリア、大丈夫ですか? 急に黙り込むから、心配していたんですよ」
「わたしもです。回復が必要でしたら、遠慮なく申し付けてください。すぐに万全にしますので」
「教祖様、聖女様……」
ユーリエも俺に追随して評判上げのために、思ってもいないことを言っている。
ダリアは感激したように俺たちを見上げてきているが……。
あれ、おかしいな。こいつの目、こんなにどす黒かったっけ?
『い~い感じに目がガンギマっているね! いいぞぉ、これぇ……』
何言ってんだこの邪神。
利用しておいてなんだが、早く除霊された方がいいのでは……?
「ありがとうございます。ですが、問題ありません。ぼーっとしていたのはすみませんでした。あの女、精神を犯す魔法を持っているようで、それに惑わされていました」
「それは……本当に大丈夫ですか? 遠慮なく言ってくださいね」
ユーリエはそう言っているが、一歩あとずさりして俺の背中にこっそりと隠れる位置に移動した。
問題ないというダリアの言葉をまったく信用していない。
当たり前のように俺の後ろに隠れるのやめてくれる?
「ええ、大丈夫です。教祖様と聖女様がいらっしゃる限り、私は負けませんから」
にっこりとほほ笑むダリア。
うーむ。確かに、見ている限りは大丈夫そうだ。
まあ、俺の目は慧眼だからな。すべてを見通す目を持っている俺からしても、こいつは普通の平均的な信者だ。
洗脳されているようにも見えないし、大丈夫だろう。ヨシ!
「それで、精神を犯されながらも、何とか舞い戻ってくることができたんです。お二人のために」
「「う、うん……」」
言い方がなんか怖いんだけど……。
『素が出かかってるよ。猫被って、猫!』
大丈夫だっての。
俺の聖人ぶりは誰にも見抜けない。完璧な演技だ。
そう思っていると、頭を下げていたシルヴィエがゆっくりと顔を上げてきた。
「うっ……」
「あっ、大丈夫ですか?」
すたこらとそちらに走っていくユーリエ。
に、逃げた! 敵よりもダリアが怖いと思って、敵の方に逃げやがった!
どんな神経してんだこいつ。
普通敵の方に逃げるか?
敵の方に逃げるってどんな言葉だよ。意味わからん。
「気分がすぐれないようでしたら、わたしの魔法で……」
そして、ここでも抜かりない評判上げ演技。
汚い。さすが聖女汚い。
白い目でその茶番を見ていると、シルヴィエはさえぎるように手をかざした。
「……ああ、ありがとう、ございます。でも、もう大丈夫だから」
「……え?」
ユーリエが疑問に思ったのは、シルヴィエが敬語を使ったことだろう。
少しでも不興を買えば殺されそうなこの状況でも、さっきまで敬語は一度も使っていなかった。
だというのに、どうして突然今になって……?
困惑する俺とユーリエ。ほかの信者たちも同じような感じだ。
唯一分かっていそうなダリアは、なぜかニコニコとほほ笑んでいた。
嫌な予感がする俺とユーリエの前で、シルヴィエはひざまずいた。
……ひざまずいた?
そして、胸に手を当て、すべてをささげる敬虔な信徒のように口を開いた。
その目は、ドロドロに濁っていた。
「あたし、シルヴィエは、今こうしてマガツヒ教にたてついたことを、心の底から懺悔します。あたしのすべては、その贖罪のために。すべての財産をマガツヒ教に寄進し、この身は足の先から髪の毛一本に至るまで、マガツヒ様と教祖様、聖女様に捧げます。マガツヒ教のために!!」
「ひぇっ……」
だ、ダリアに侵食された!?
精神を犯そうとして、逆に犯されたの!?
どんな精神力してんだ、あの女!
ゴリゴリカルトみたいなことを大声で宣言するな!
周りの信徒の奴らも、歓迎するように拍手するな! キモイ!
『うーん、いい言葉!』
邪神……!
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第12話
https://magcomi.com/episode/12207421983638281988
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1020677
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://kimicomi.com/episodes/13c56e2160ec2
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046954




