第22話 昔の
シルヴィエの使う魔法は、『ドーラ』という洗脳魔法だ。
その名の通り、他人を操り、自分の意のままに動かすことができる。
むろん、その対象が死ぬまで操り続けることができるというほどではなく、色々と制限はある。
しかし、予備動作がほとんど必要ないことも踏まえると、この魔法は非常に強力だ。
少なくとも、その瞬間は間違いなくシルヴィエの傀儡となるのだから。
どれほど強く魔力を込めるかにもかかわってくるが、他人を自在に操ることができると、できることは無限にある。
だからこそ、シルヴィエはスラムの支配者という立場にいられたのだ。
「(別に、そこまでは求めていなかったけど)」
シルヴィエは、最初からスラムにいた人間ではない。
表の世界で普通に生活をしていて、普通に他人に陥れられ、普通に身を売られただけである。
容姿が整っていたことから、スラムを支配していた男に買われた。
地獄のような生活を送る中で、『ドーラ』という洗脳魔法に目覚めた。
これを使って、自分の状況をよりよくしようと、そして同じベッドでいびきをかきながら寝ている憎い男を殺してやろうと。
彼の側近を洗脳し、男を殺させた。
その側近も自分に手を伸ばしてきたので、また別の人間に殺させた。
そういうことを繰り返しているうちに、シルヴィエに特別な力があることは、知る人は知るようになっていた。
「(その結果が、今の地獄のような立ち位置なんだけど)」
誰がスラムの支配者になりたいなんて望むものか。
犯罪と暴力が渦巻く地獄のような環境のトップに立って、何が楽しいのか。
そもそも、シルヴィエは支配欲や権威欲というものはほとんどない。
それなのにこの立場に押し上げられ、逃げても居場所がないから立ち止まるしかなく、部下――――というか自分は恐怖されていただけでほとんど指揮監督下にはなかったが――――の要望をちょくちょく聞いてあげていれば、今はなんだか意味の分からない戦力を持っている新興カルトに痛めつけられている。
色々とふざけるなと言いたい。なんだこの人生は。
「(はあ……。とりあえず、こんな人生でもまだ死ぬのはなあ……。死ぬにしても、苦しんで死ぬのは勘弁。逃げられるか、あるいは殺されるか。どっちでもいいが)」
シルヴィエはそんな支配者に上り詰めた要因である洗脳魔法を、ダリアにかけた。
理由は二つ。
一つは、ライアーとユーリエのそばにいる彼女を洗脳し、一騒動を起こさせて混乱を生じさせ、そのすきに逃げる。
幸い、足はユーリエが治癒してくれたし、逃げ出すことに問題はない。
ダリアに二人を襲撃させたら、にらみを利かせるマガツヒ教信徒たちも、こちらへの意識は恐ろしく低くなるだろう。
二つは、仮に自分が逃げ切る前に事態が収束してシーサイスたち信徒が追いかけてきたとしたら、すぐに殺してもらえるだろうということ。
それなりに距離を稼げていたら、逃がさないように命を絶つ攻撃をする。
逃がすよりは、捕まえることをあきらめて殺すだろう。
「そのために、犠牲になってくれ、シスターさん」
『ドーラ』が発動する。
ダリアは防ぐこともできず、それをもろに食らった。
そもそも、防ぐことができるものでもないが。
シルヴィエは目的を果たせたと笑みを浮かべて、ライアーとユーリエに襲い掛かるよう命令をかけようとして……。
「…………は?」
シルヴィエの姿は、あたたかな陽光が差す教会の前にあった。
呆然とあたりを見渡す。
先ほどまで、自分は教会の内部にいたはずだ。
いつの間に外に出ているのか。
それに、目の前にある教会は、連れてこられたマガツヒ教の教会ではない。
国中いたるところで見ることができる、天使教の教会だった。
◆
「どういうことだ、これは……?」
今まで何度も『ドーラ』を行使してきたが、このようなことになるのは初めてで、理解が及ばない。
そもそも、『ドーラ』は洗脳魔法だ。移動するための魔法ではない。
これで逃げ出せたのであれば、それでもいいのだが……。
「どうにも、そんなうまい話ではないらしい」
バサバサと音を立てて風に流される新聞を見て日付を確認すると、今よりも過去の日付だった。
数日前のものなら捨てられたゴミだろうと思うが、年単位で過去だとさすがに変わってくる。
「なるほどな。以前にも経験がある、対象の記憶か」
あっさりと事態を飲み込めた。経験があったからだ。
『ドーラ』は、対象の精神を支配することができる。
それが原因か、対象の記憶に引きずり込まれることもあった。
と言っても、別に困ることはない。
あくまで、相手の記憶を鑑賞するだけだ。
シルヴィエに危害は及ばないし、時間もほとんど経過しない。
他人に大して興味がないからこの時間は無駄だと思うし、そもそも相手の記憶が愉快なものでないことも多いので、シルヴィエは好ましいとは思っていないが。
「仕方ない。これが発生するということは、より深く洗脳ができるということだ。我慢するか」
相手の記憶を読むほどに深く内面に入り込んでいるということだ。
より洗脳を深くすれば、あの地獄のような空間から逃げ出すことができるかもしれない。
「……にしても、なんというかさびれているな」
シルヴィエの前にある教会は、小規模なものだ。
おそらく、村の一つにしかないような、そんな教会。
天使教は、教会と孤児院を併設していることもある。
どうやらここもそのようで、子供たちが外にいる。
しかし、どこか元気はない。
痩せ気味の体躯が多いことから、栄養状態が良好とはいえないようだ。
教会自体手入れが行き届いていない。
「ああ、あいつか」
場面がザっと移り、教会の中。
外観より多少はマシだが、やはり色々とガタが来ているという見た目の内観。
そこにいたのは、でっぷりと腹を膨らませた男と、今にも倒れてしまいそうなほど栄養状態が悪そうなシスター。
そのシスターは、昔のダリアだった。
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『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第12話
https://magcomi.com/episode/12207421983638281988
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1020677
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://kimicomi.com/episodes/13c56e2160ec2
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046954




