表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第1章 動き出すカルト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/35

第21話 あたしが支配者になれたのは











「…………」


 シルヴィエがライアーを見たときに思ったことは、こんな輝くような人間がいるのかというものだった。

 もちろん、物理的に光っているわけではない。

 非常に整った顔立ちは確かに輝く宝石のように価値があるかもしれないが、それも理由の一助でしかない。

 一番は、彼のにじみ出るような優しさだろう。

 その優しさを受けたわけではない。

 ただ、相対するだけで心が温かくなるような、そんな男がライアーだった。


「まあ、大変。ケガをしています」

「え、まあ……」


 ててっと近寄ってきたのは、清楚なシスター服を身に着けた聖女ユーリエである。

 白い髪が動きに合わせて、サラサラと揺れている。

 シルヴィエも女だから、その髪の美しさには目を奪われる。

 自分は手入れも乱雑でぼさぼさとしているから、なおさらそう思った。

 ぼーっと見ていると、ユーリエは心配そうに膝をついてシルヴィエの足の様子を見た。

 敵のために地面に膝をつくのか、と驚かされる。


「大変。わたしに見せてください(はぁぁ。面倒だけど、ここでいい女アッピールをしないとね。面倒だけど)」

「は? ちょ、ちょっと……」


 ユーリエはスッと綺麗な手を足に近づけてくる。

 血に汚れているため、それを止めようとするが、それよりも先に暖かい感覚がシルヴィエを包んだ。

 光だ。

 ユーリエの手から、柔らかくひだまりのような光が出ていた。

 それらは優しくケガをしている脚にまとわりつき、やがては……。


「あ……」


 脚のいたるところにあった傷が、完全に癒えていた。

 回復魔法。

 この世に存在するものではあるが、その使い手は非常に少ない。

 でなければ、傷薬や医者などは世界に不要となっていたことだろう。

 それに加え、比較的軽傷とはいえ、この短時間で傷跡を残さず回復できる練度。

 ユーリエがたぐいまれなる回復魔法の使い手であることは明白で、これほどの人材がどうして小さな宗教にいるのかが疑問だった。

 それこそ、天使教にいれば、かなり上の立場にまで上り詰めたことだろう。


「……ありがとう。でも、あたしみたいな敵にそんな優しくしていいのか?」

「敵? わたしの前に、そんな人はいませんよ?(わたし以外はだいたい敵だし、今更一人増えても誤差の範囲内だわ)」


 にっこりとほほ笑むユーリエは、本心から不思議そうにしていることが分かる。

 命までも狙っていたわけではないが、危害を加えて財産を奪い取ろうとしていた組織のトップに対して、このようなことを言える。

 シルヴィエは、敵わないと思うほかなかった。

 ユーリエに近づいたライアーは、とても嬉しそうに細い肩に手を置いた。


「ユーリエ、いつもありがとう。君の優しさに、多くの人が救われていますよ(そんな奴らいないけど)」

「いえ、ライアー。これはわたしの当然の仕事ですから(は? 死ね)」

「では、救いを求めている人を助ける仕事をもっと増やして……」

「ライアー。わたしもそうしたいのはやまやまですが、何度もこの力を使えるわけではないので……。今回は、目の前で苦しんでいる人がいたから、ついやってしまっただけですよ(これ以上仕事を増やすとか舐めてんの? 首寝違える呪いをかけてやるわ……)」

「ふふっ、もちろん分かっていますよ、ユーリエ(それは止めて)」


 仲良さそうに会話をする二人。

 善人同士気が合うのだろう。

 この二人がトップで、どうしてシーサイスのような化け物が下にいるのか、シルヴィエにはよく理解できなかった。


「……傷を治してくれたことには感謝する。しかし、こんなことをしていいのか?」

「敬語、使いなさいよ。あなたと同じレベルの人じゃないのよ……聖女様は」


 ほら。今もすさまじい殺気を飛ばしてきている。

 もちろん、シーサイスだけではない。

 ダリアやほかのマガツヒ教信徒たちからも、絶対零度の視線が飛んできている。

 正直、もはや命をあきらめている状況でなければ、意識を弾き飛ばされて無様に失神していたに違いない。

 そんな針の筵状態のシルヴィエを助けたのが、聖女ユーリエである。


「そんなことありませんよ。わたしたちは、皆同じですよ(一緒なわけないでしょ。わたしとあなたたちとは格が違うわ。でもこう言っておかないといけないのが、聖女のつらいところよね……)」

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただいて、このまま話をさせてもらう。それで、どうしてあたしを助けたんだ? もともと、敵対している組織のトップだ。わざわざ回復してやる義理もないだろうに」


 ライアーとユーリエは、お互い不思議そうに首を傾げて見つめあった。


「そもそも、敵対というのがおかしな話ですよ。私たちは、あなた方と戦いたいとは一度も申していません。どうして私たちのことを目の敵にするのですか? (迷惑なんだよ、クソが)」

「……富んでいるから、だよ。あたしはどうでもいいんだけどさ、スラムの住人は見逃さないよ。金を持っている奴らから奪うのは、当然だろ? それを実行しようとしたまでだよ」

「富んでいる……? 私たちは蓄財していませんよ(ま、まさかへそくりばれてる……? ちょっとずつ寄付から抜き取っていて、いざという時の逃走資金が……? 嘘だよな……?)」

「ええ、その通り。敬虔な信徒の方々寄付してくださった貴重なお金は、孤児院の運営や奉仕活動に注いでおります(ライアーにも隠していることを、この女が知るはずないわ! 絶対にわたしのへそくりは大丈夫よ! きっと!)」


 困惑した様子の二人に対し、シルヴィエは笑う。

 そんなわけがない。

 人がいて、そこに金が集まる仕組みになっていたら、必ず不正が生じる。

 目の前の二人はしていないようだが、他のマガツヒ教幹部はどうだろうか?

 こういうのが、組織の一定以上の地位にある者は、往々にして手を出すものだ。


「嘘をつかなくてもいい。天使教は、少なくとも上は腐っているぞ。私腹を肥やした豚どもが、金をかき集めて美食や美男美女をむさぼっている」


 シルヴィエは知っている。

 世界中に布教され、今では断トツで信者数を抱えている天使教。

 組織としてはあまりにも巨大で、国家の枠組みを超えているものだから、一つの大国よりも大きな共同体。

 その腐敗もかなりのものだ。

 だからこそ、シルヴィエはマガツヒ教も似たようなものだと思っている。

 しかし、それに対してダリアは不満そうに眉をひそめた。


「神聖なマガツヒ教を、天使教風情と一緒にされては困ります」

『そうだそうだ! 殺したくなっちゃうだろ!』


 シルヴィエはシスター服を身に着けたダリアを、鋭くにらむ。


「……そういうあんたは、どこか天使教に似た雰囲気も感じるがね」

「口が減らないお方ですね。元気そうで何よりです。その調子で、教祖様と聖女様にしっかりとお話しするように。最後になるかもしれませんから」


 にっこりと笑うダリア。

 表情は柔らかく美しいものだが、その内心が表情とはまったく異なるものであることは、その言葉や声音からはっきりと伝わってくる。

 もし、シルヴィエがスラムの支配者ではなく、ここにライアーとユーリエがいなければ、すでにシルヴィエの首が飛んでいた可能性が高い。


「話と言ってもですね……。私たちからすると、こちらを攻撃しないでいただきたいということ。それに尽きます。私たちは、ただ静かにマガツヒ様を信仰したいだけなのですから(嘘だ。別にマガツヒ教をぼろくそに言ってもいいぞ。俺を巻き込まなければな)」

「ただ静かに、ね。優しいだけかと思っていたけど、とんだ食わせ物だ」


 ふっと笑うシルヴィエ。

 静かに、というのであれば、今回のような血も涙もないような反撃はしないだろう。

 むろん、それが悪いと言うつもりはない。

 彼らは攻撃を仕掛けられた側であり、反撃をしただけなのだから。

 ただ、スラムの荒くれものたちを瞬く間に壊滅させることができるほどの戦力を保有していたということは、静かに信仰を深めていきたい、という言葉とは明らかに矛盾している。

 まるで、これから抗争に身を費やすために準備をしていたようではないか。

 それで平和主義を語るのは片腹痛い。


「二人が他のマガツヒ教信徒とは違うことは認めよう。だが、あたしも死ぬのは構わないんだが、苦しんで死ぬのは勘弁でね。だから、ちょっと意趣返しをしつつ、楽に殺してもらえるよう祈るよ」

「無駄だわ。今から何をしようとも、聖女様と……ついでにライアーに届く前に、私があなたの両手両足を切り落とす」


 不穏な言葉を笑って言うシルヴィエを、シーサイスがにらみつける。

 それは脅しでもなんでもなく、確かな事実だろう。

 彼女の実力なら、手を伸ばそうとしたところで、両腕を切り落とすことくらいは容易だ。

 シルヴィエもそれを理解しているからこそ、わざわざ口に出したのだ。


「どうしてあたしがスラムの支配者になったのか、疑問には思わなかったか? とくに、あたしを捕まえたあんたなら、余計に思ったはずだ。全然強くないんじゃないかってね」


 シルヴィエを捕らえる際、マガツヒ教側には被害はまったくなかった。

 敵の親玉ということもあって精鋭を送り込んでいたこともあるが、スラムを暴力で支配していた女が、これほど歯ごたえがないのは確かに疑問に思えないことではなかった。

 シーサイスは眉を顰める。


「ええ、雑魚だったわね。ただ、他の連中も大して変わらないほどに雑魚だったから、気にもしていなかったわ」

「そうか。あんたは強いからな。だから、油断する。油断は強者の特権だが、あたしを相手にするには絶対にしてはいけないことだったよ」


 魔力は十分にたまっている。

 そして、敵の心臓と言えるライアーとユーリエが目の前にいる。

 勝利を確信していたのだろう。

 それは、決して油断でもなければ慢心でもない。

 むしろ、敵の親玉を無力化して自分の親玉に合わせるのは当然のことだろう。

 だが、シルヴィエは少し他の人間とは異なるのだ。


「あたしが支配者になれたのは、これがあるからだ」


 目が煌々と不気味に輝いた。


「『ドーラ』」


 シルヴィエは、相手を洗脳する魔法を、ダリアに行使した。



過去作のコミカライズ最新話が公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第12話

https://magcomi.com/episode/12207421983638281988


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話

https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1020677


『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話

https://kimicomi.com/episodes/13c56e2160ec2


『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話

https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046954

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ