第20話 (はよ帰れ)
「あー……別にそこまで乱暴に扱わなくても、あたしは抵抗しないぞ? だから、もっと普通に扱ってくれないかな?」
マガツヒ教信徒に荒々しく引っ立てられながら、シルヴィエは苦笑いしていた。
彼女はスラムの支配者ではあるが、切った張ったを得意とするわけではない。
身体も普通の一般人と何ら変わらない強度であるから、今のようにはだしでろくに舗装もされていない道を歩かされれば、傷つくのも当然だ。
引っ立てられている脚は血だらけだ。
石が皮膚に食い込んでかなりつらいのだが、そんな弱みを見せたところで相手は決して配慮してくれない。
それは理解している。
何せ、自分たちは襲撃を企てた方で、反撃されて敗北したから今がある。
自分たちを害そうと画策していた者に配慮するバカがどこにいるだろうか。
多少情に厚い者なら靴くらいは履かせてくれたかもしれないが、あいにく自分を引っ立てている連中は、薄情な連中らしい。
特に、先導する眼鏡をかけた女は、恐ろしいほどに冷たかった。
こちらを見下ろす目も、凍り付くと錯覚するほどのもの。
「敗残者の意見を、勝者のこちら側が聞く理由があるのかしら? 本当なら、今すぐにでも首を切り落としたいくらいなのに」
それは脅しでもなんでもなく、本心からの言葉なのだろう。
シルヴィエは底冷えするものを感じるが、しかしそれほど気圧されることはなかった。
「なら、それをしたらどうだ? あたしは別にこの人生に未練なんてないし」
人生に喜びを感じられるような経験を送ってこなかったため、命に対してもそれほどこだわりはない。
もちろん、苦痛を感じたいわけではないから、簡単に殺してくれるに越したことはないが。
しかし、そんな希望もシーサイスは拒絶する。
「あなたがただの一般兵ならそうしていたけど、責任を取るべき首領でしょう。なら、当然その処分を決めるのは、私たちのトップであるライアーよ。私が出しゃばって先走ることじゃないわ」
「ふーん。随分と好かれているようだな、君たちのトップは」
「は? どこが?」
「えぇ……?」
憮然とした表情を浮かべるシーサイスに、シルヴィエは困惑する。
あれだけ尊重していたのに、好きじゃないとかどういうことか。
俗にいうツンデレという奴なのかもしれないが、それを口にしたら死なない程度に痛めつけられそうなので、黙っておくことにした。
「つっ……」
それにしても、足が痛い。
引っ立てられていなかったら、すでに座り込んでいることだろう。
いや、引きずられているからこそ、余計に傷が増えるのだが、もちろんマガツヒ教信徒たちは誰も気にしてくれない。
血の跡が地面に残っていくほどには凄惨だ。
そんな苦痛に苦しむシルヴィエを見て、シーサイスはせせら笑う。
「その程度の苦痛で許してもらえることを祈ったらどうかしら。本当なら、生きたままその身体を切り刻まれて家畜の餌にされるべき悪行なのに」
「……そうか。じゃあ、せいぜい許してもらえるように頑張るよ」
シルヴィエの言葉を聞いて、シーサイスは興味を失ったように顔をそらした。
先導する彼女は、もう振り向くことはない。
シルヴィエもそんなことを言っておきながら、自分が生きていられるとは思っていなかった。
自分だったら、絶対に殺しておく。
そんな不確定要素が自分だからだ。
だが、こうして直接敵の親玉と相対する機会を得られてよかった。
「(慢心だ。自分たちの勝利を確信しているから。そして、私が不穏な動きを見せたところで、即座に制圧できると考えているから。その考えは決して間違いではないが……)」
シルヴィエは誰にもばれないように口角をほんの少し上げた。
不穏な動きを見せれば、確かにすぐに制圧されることだろう。
だが、それを見せることなく、そして叩きのめされる前に攻撃する手段を持っている者も、世の中には存在する。
シルヴィエは、自分がそうであると確信していた。
勝負は一度。チャンスも一度。
失敗すれば、それこそ生きてきたことを後悔するほどの苦痛にまみれた死をプレゼントされることだろう。
「(だから、必ず仕留める。細い蜘蛛の糸を、つかみ取ってみせる)」
深く決意をしていたため、目的の場所についていたことに気づかなかった。
すでに、引っ立てられる足は止められていた。
これ以上歩かされることがないことにホッとしながら、顔を上げる。
先ほどまで恐ろしいほどに冷たい対応をとっていたシーサイスは、なんだか緊張したような面持ち。
それは、上位者に対する畏怖というよりも、この人には嫌われたくないというような、消極的な側面の見えるもので、先ほどまでの彼女と同一人物かと思わず疑ってしまう。
そんな感情を向けられている男は、容姿が非常に整っていて、そしてスラムの住人とは思えないほど優し気な雰囲気を醸し出していた。
「……ライアー。連れてきたわ」
「ご苦労様、シーサイス。いつもありがとう(なんだこいつら……。足が血だらけの女を連れてきやがった。俺の教会が汚れるじゃん……。汚い……)」
「別に。あなたのためじゃないわ」
そっぽを向くシーサイス。
耳が赤くなっているのを後ろから見て、シルヴィエは信じられないものを見る目を向けていた。
あの冷血女にそんな顔をさせる男はどれほどのものかと視線を向け……シルヴィエは目を奪われた。
その優しそうな雰囲気を放つ美麗な男は、まるで後光が差しているように見えたのだ。
「ようこそ、私たちの教会へ(はよ帰れ)」
その男は、見た目通り優しい声音で話しかけてきた。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第12話
https://magcomi.com/episode/12207421983638281988
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1020677
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://kimicomi.com/episodes/13c56e2160ec2
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046954




