第19話 帰って、どうぞ
「ということで、現在スラム浄化作戦を進行中です。計画通り、滞りなく進んでおります。敵の拠点もことごとく破壊することに成功しているため、残存している敵の主だった戦力は、首魁であるシルヴィエくらいかと思われます」
「「…………」」
ニコニコと笑いながら理解に遠く及ばない妄言をペラペラと話し続けるダリアに対し、俺とユーリエは無表情で凍り付いていた。
……え? 何これ? どういうこと? 夢?
次から次に疑問が浮かび上がっていく。
そして、その疑問が解消されることはないから、全然消えてくれない。
頭の中で大渋滞である。助けて。
「(なに、スラム浄化作戦って。そんな作戦誰が立案したの? 誰が許可したの? 誰が実行したの?)」
「(わたしに聞かれても困るわよ! わたしも何が何だかさっぱりわからないんだから!)」
こそこそとユーリエに耳打ちすれば、顔を青くしながら小さく怒鳴り返してくる。
そうか、何もわからないのか……。
俺は一つ神妙な顔をして頷いた。
「これもすべて聖女ユーリエのためにしていただいたのですね……」
「っ!?」
どうしてこんなことになっているのかは置いておこう。
どうせ考えても分からん。
ならば、俺がすべきことは、今回の不祥事の生贄……身代わり……責任の押し付ける先を作り出すことだ。
そして、その対象は当然ながらユーリエである。
俺と同じくらいマガツヒ教の中で立場の高い彼女。
そのためにおいてあるデコイである。
ユーリエがダメな場合は……まあ、マガツヒ様のせいにしよう。
その時までにある程度のへそくりを貯めておかなきゃ……。
「そ、そんなことはないでしょう。わたしたちの敬愛する教祖ライアーのためでも……」
ユーリエ、頬が引きつっているぞ。
冷や汗もダラダラだぞ。汚いぞ。
だいたい、お前が誰かを敬愛することなんてないだろうが。
「そうですね。シルヴィエが考えていたわけではないようですが、スラムの襲撃者の中には、聖女様に対して不埒な考えを持ち、奴隷商に売り飛ばそうと計画していたものもいたようです。彼らを皆殺しにして未然に防ぐことができたのは僥倖でした」
「――――――」
色々と衝撃的だったのか、白目をむきながら硬直するユーリエ。
そっか。奴隷商に……。
まだ俺が利用している奴を勝手に売り飛ばそうとされるのは困るんだけど、もうこの期に及んでは不要だな。
連れて行っていいぞ。
……ん? 皆殺しとか不穏なことを言っていなかった?
「(言っていたけど、そっちはどうでもいいわよ。いくらわたしが絶世の美女だからって、奴隷に売り飛ばすのはだめでしょ! 世界に対する反逆じゃない!?)」
「(じゃない)」
他人の命をなんだと思っているんですかぁ!
『じゃあ、君は他人の命を尊重するの?』
するぞ。俺の利益の次に。
「じゃあ、すべての責任者は聖女ユーリエに。あなたたちは聖女ユーリエと邪神……ではなく女神マガツヒ様の名のもとに動いたということで……」
「いえいえいえいえ」
『僕も巻き込んだ!? こんなの求めていないよ! そりゃあ、花火みたいでわくわくするけどさ、爆発って。あれで天使どもが吹っ飛んでいたら最高だったのになあ……』
しがみついてくるユーリエ。
うっとうしいぞ、ぶっ飛ばすぞ。
それはハメルとかにしてやれよ。喜ぶだろうし。
そして、いつものように不穏なことを言うマガツヒ様のことは無視である。
もう二度と関わり合いにならないし。
さて、どう考えても俺は無関係みたいだから、そろそろ旅立ちの時だな。
誰にも知られていないところで、のんびり過ごそう。
「もちろんそれもありますが、教祖様。私はあなたに大きな舞台に出ていただきたいと思っております」
「…………」
「(ぷぎゃー!)」
『あぁっ! 僕の教祖と聖女が人には見せられない顔に……!』
自分でも自覚がある。
俺、今絶対に死んだような顔になってる。
大きな舞台? お前それ絶対にろくでもないやつだろ。俺には分かるんだぞ。
スラムで同時多発テロしている奴が、俺を祭り上げようとしている。ありえない、最低だ。
俺は関係ないの精神で逃げようとしていたのに、なんで俺が首魁みたいにさせられてんだ!
勝手に転がり落ちた俺を見て、ユーリエは心底楽しそうに笑い転げている。
お前……そんなに楽しそうなお前を見たのは初めてなんだが?
「…………なぜ?」
「……私たちは、教祖様と聖女様、そして女神さまに救われました。当事者だからこそ断言できますが、今ほど幸せなことはありません。だから、私たちはほかの人々に幸せのおすそ分けをしたいのです」
神妙な面持ちで、本当に他人のことを思いやっているように目を閉じるダリア。
ふざけんな。お前らを助けた気なんて一切ないわ。
というか、それ幸せの押し付けだろ。絶対に望まれない感じのやつだろ。
「……それがなぜ私とユーリエを表舞台に立たせることに? というか、スラムを破壊することにつながるのですか?」
「わたしは関係ありません」
「そんなわけありません」
『二人して逃げようとしても無理だと思うなあ、この感じ……』
とんでもない笑顔で自分だけ逃げようとするユーリエの細腕をわしづかみにする。
逃がさん……お前だけは……。
「現在、嘆かわしいことに、世界は天使教という愚かな宗教がはびこっています。これでは、多くの人々は救われません」
『その通り! よく言ったよダリア! 最高だ! 筆頭信徒の次くらいにひいきするよ!』
狂喜乱舞するマガツヒ様。
おい、俺の肩に抱き着きながら頭を振り回すな。
髪の毛がバチバチ当たっていたいんだよ。
というか、ひいきって言ってんじゃねえかてめえ。
神はひいきしないって言っていたことはどうした。
「まずは、その世界を覆す第一歩として、このスラム……そして、街を落とします」
「ほあ?」
俺とユーリエはぽかんと口を開けてしまう。
スラムだけじゃないのぉ? それだけでも十分にやばいが。
街を落とす? クーデターかな?
んなことしたら処刑待ったなしだろうが!
ふざけるなぁ! 俺は宗教を利用してダラダラちょっといい生活を送りたかっただけだぞ!
『性格が終わっているくせに臆病で小市民なのはなんでなの、君たち二人』
「(下手に調子に乗らないことが処世術よ)」
したり顔でうなずいているユーリエ。
じゃあ、全然処世術実践できてないじゃん。ダメじゃん。
「というか、街というのは……?」
「それは……後でご説明させていただきます。目的のものが、ようやくこちらに届いたようで」
おい、後にするな。説明しろ。今! ここで!
俺はクーデターなんてしないぞ!
そんな大勢の人間を巻き込むようなことなんてできない。
やるとしたら、俺の権利が侵害されたときだけだ。
『たった数秒で考えていることが矛盾する男』
「入りなさい」
ダリアの指示を受けて、見覚えのあるマガツヒ教信徒が入ってくる。
教会にも足しげく通っている奴らだ。
そんな彼らは、人を一人拘束して連れてきた。
それは、女だった。
真っ赤な髪と、気の毒なほど濃い目の下の隈が特徴的だった。
「教祖様、聖女様。こちら、おこがましくもスラムの支配者を名乗っていた、シルヴィエです」
わぁ。スラムの支配者とか、絶対に会いたくないランキング一位じゃん。
帰って、どうぞ。
過去作のコミカライズ最新話が公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第12話
https://magcomi.com/episode/12207421983638281988
『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1020677
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://kimicomi.com/episodes/13c56e2160ec2
『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話
https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046954




