表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第1章 動き出すカルト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/35

第18話 シーサイスもなかなか











「死ね、死ね、死ね、死ね」


 短い呪詛が響くと同時に、同じ数だけ人が死ぬ。

 言葉に力があって死んでいるわけではなく、シーサイスに切り裂かれて命を落としていく。

 血しぶきが吹き上がり、もともと清潔ではなかった部屋の中は、とてつもない匂いで満たされる。

 そんなことがしばらく続くと、出来上がったのは死体の山。

 たった一人の襲撃犯に対して、荒事に慣れたスラムの住人たちは、何もすることができずに殺された。

 残っているのは、ただ茫然と座り込んでいる男一人だった。


「ライアーに牙をむく奴は死ね。ライアーに逆らう奴は死ね。ライアーに危害を加える奴は死ね。考えるだけでも死ね。実行に移す前に死ね」


 さんざんに殺したというのに、まだライアーを狙ったことに対して怒りが収まらないらしい。

 シーサイスはすでに物言わぬ死体となった身体も、何度も何度も切りつける。

 そもそも人殺しという行為自体褒められたものではないが、死体を損壊するというのはそれ以上に忌避感を覚える行為である。

 だが、男は当然恐怖からそれをとがめることはできないし、彼女の仲間も苦笑いする程度だった。


「死体を切り刻むのはどうかと思いますよ、シーサイス。あまり褒められたことではありません」


 ハメルはふうっとため息をつく。

 こういった凄惨な光景は別に何とも思わないのだが、さすがに死体を切り刻むのはとも思う。

 ちなみに、苦言は呈しても止めることはない。

 聖女ユーリエを狙ったバカな連中なんて、庇うに値しない。

 そんなハメルに対し、ぎろりと眼鏡越しに鋭い目を向けるシーサイス。


「うるさい。私のすることにいちいち苦言を呈する権利なんて、あなたにはないわ」

「まったく……。聖女様やダリアの言葉は必ず聞くくせに、それ以外の人の言葉は完全に届きませんねぇ……。どれほど教祖様のことが好きなのか」

「死ね」


 躊躇なく首を狙って振るわれた剣。

 ハメルは絶叫しながらなんとか避けた。

 シーサイスと違い、近接戦闘は得意ではないのだ。


「のわあああああ!? わ、私は味方ですよぉ!?」

「うるさい。あなたも聖女様の前で猫を被りまくっているくせに」

「猫を被っているのではありません。格好つけているのです」

「うざい」

「手厳しい……」


 と言いつつも、別に大してダメージは受けていない。

 シーサイスはとても大切な仲間だが、彼女からの評価は気にしていないからだ。

 彼女もまたそうだろう。

 ちなみに、ハメルはうざいとユーリエから言われたらショック死する。


「な、なんなんだよ、お前らは……」


 目の前の現実が受け入れられず、唯一の生き残りの男は、呆然としながら呟くことしかできない。

 無視されても不思議でないようなかすれた声だったが、ハメルはしっかりと聞いていた。


「なんなんだと申されましても……。あなた方が襲撃を仕掛けようとしていた、マガツヒ教の人間ですよ」

「た、ただの宗教家が、こんな人殺しできるわけねえだろ!!」


 荒事に慣れたスラムの乱暴者たちが、何もできずに華奢な女一人に皆殺しにされる。

 それが普通であるはずがなかった。

 唾をまき散らしながら声を張り上げる男に、ハメルは気分を害した様子も見せずにうなずいた。


「その通りです。私もこんな見事な手際で人殺しなんてできません。マガツヒ教が……というよりも、シーサイスが特別なんです。殺しのプロですよ」

「な、なんで小さな宗教に殺しのプロが……」

「あなたに説明してあげる義理はないわ」


 シーサイスは男に目をやることすらなく、剣を振って血を払っていた。

 さらに問いかけようとするも、そんなことよりも重要なことは、自分の命の危機であるということだった。

 いつものように、今までのように、彼はシルヴィエの威を借る。


「こ、こんなことして、ただで済むと思ってんのかよ? てめえらは、スラム全体……シルヴィエさんを敵に回したんだぞ!」

「そう言っても、私たちが何もしなかったら攻撃してきていたでしょ。敵に回すも何も、最初に敵対してきたのはそちらよ」

「その通りですね。我らが美しき聖女様に敵対しようだなんて……万死に値します」


 にっこりと笑いながら言うハメルに、ゾクリと背筋が凍り付く。

 この男は、本気でそう言っている。

 そして、自分のことを見逃すつもりが、まるでないということも伝わってきた。

 そんなハメルに、シーサイスは呆れたようなジト目を向けた。


「それくらい積極的に聖女様にもアタックすればいいじゃない」

「は、恥ずかしくて……」

「ほかの男にとられるわよ」


 聖女ユーリエ。

 マガツヒ教において、教祖ライアーとともに頂点に立つ女。

 しかし、決して傲慢でなく、信徒のことを心から思いやる心優しい女だ。

 当然、彼女に好意を寄せる者も非常に多い。

 ハメルもそうだが、特に力を持つ男たちが彼女を慕っている。

 そのため、争奪戦は非常に激しい。

 ……と言っても、内心では彼女の一番お似合いの相手は教祖ライアーであることは、誰もが認めるところである。

 お互い深く信頼しあっているようだから勝ち目は非常に薄いのだが、明確に恋愛関係にあるという証拠がないため、ハメルたちはまだユーリエをあきらめていない。

 強力なライバルたちのことを示唆されて頬を引きつらせるハメル。


「そ、それは……。……ん? それはあなたも言える資格はないのでは?」

「死ね」


 死体の山を前にして、そんなのんきな会話を繰り広げる二人。

 男はそれを前にして、狂っていると判断した。

 幸い、自分からは興味が離れている様子。

 今のうちに逃げようと、少し足を動かせば……。


「ひい!?」


 脚のすぐそばに剣が突き立てられる。

 シーサイスの冷たい目が、彼を捉えていた。


「ああ、逃げても無駄ですよ。本当に意味がありません」


 たとえ全力で背中を向けて逃げ出したとしても、数秒もしないうちにシーサイスによって追いつかれ、無残な死体が出来上がることだろう。

 それを聞いて、男は頬を引きつらせながら、何とか余裕を示すために笑った。


「は、ははっ。てめえらは俺らの恐ろしさが分かってねえ。俺らはこのスラムを支配している。どれだけの仲間がいると思ってんだ? 今回の襲撃だって、たまたま俺らがするだけで、もっと大勢の仲間がスラム中に……」


 凶悪な治安のスラムを統べる勢力は、当然ながら生半可なものではない。

 だからこそ、男もこの組織に入ったのだから。

 構成員の数も半端ではなく、それらを敵に回すと、普通の人間なら数日後には死体となって汚い路地裏を転がっていることだろう。

 それを盾に何とか生き延びようとあがくが、ハメルはにっこりと柔らかく微笑んだ。


「ええ、知っていますとも」


 直後、地面を揺らすほどの衝撃と爆音が響き渡った。

 強烈な恐怖をたたきつけられていた男は、当然我慢できずにしりもちをつく。

 そんな中でも、ハメルとシーサイスは平然と立っていたが。

 その衝撃と爆音は、さらに複数回続いた。

 そのあとに聞こえてくるのは、怒声と悲鳴である。


「な、なんだ!?」

「黒煙が上がっている場所。何となくですが、見覚えはありませんか?」

「は、はあ? 何を言って……!?」


 ハメルに誘導されて窓の外を見る。

 いくつも立ち上がっている黒い煙。

 ハメルの言葉の意味が分からなかったが、その煙のもとに何があるのかを悟った男は、見る見るうちに顔を青ざめさせた。


「俺たちの……拠点か……!?」

「皆さんは別に拠点を隠しているわけではありませんでしたから、準備は容易でした。いやはや、怖いですね、慢心とは。このスラムで誰も逆らうはずがないと勘違いしていたのでしょう」


 同時に拠点をたたく。

 簡単なように見えるが、決して容易ではない。

 周到な準備と敵に悟らせない奇襲を行う技術。それらが必要となる。

 国軍の精鋭部隊なら理解できるが、それが小さな宗教の信徒たちがしているとなると、恐ろしいの一言では済ませられない。


「お前ら、いったい……」

「言ったでしょう。マガツヒ教だと」


 シーサイスは誇らしげに胸を張り、大きく両腕を広げた。

 普段の冷徹な表情は鳴りを潜め、蕩けた表情は強烈な色気を醸し出す。

 しかし、それは男を吸い寄せるような種類ではなく、得体のしれない畏怖をたたきつけるような、そんな色気。


「世界で一番素晴らしい聖女様と女神様……まあ、後は教祖を戴く、最高の宗教よ」


 ほうっと熱い吐息を吐くシーサイス。

 男もごくりと喉を鳴らすほどの強烈な色気。

 その色気の対象は、たった一人に向けられているのだが、男は知る由もない。

 一瞬陶酔していた彼女だが、ここにはその教祖もいないということもあって、すぐに冷めた表情に戻った。


「はあ。もういいでしょう? 話しているのも無駄だし」

「そうですね。時間は有限です。大切に使いましょう」

「ひっ!? 待って、待ってくれ! 俺はまだ……」


 その言葉の意味をしっかり理解した男は必死にあとずさりしながら命乞いをするが、当然この場にいる誰にも届くことはない。


「さようなら」


 男の首が飛んだ。

 その表情には、恐怖のみが張り付けられていた。

 血をまき散らしながら地面を転がるそれに一切目を向けず、シーサイスとハメルは外に向かって歩き始めた。

 他の場所でも、同じようなことが起きているだろう。

 万が一にもないように、彼らは戻っていくのであった。


「それにしても、早く戻って教祖様と話がしたいとは、シーサイスもなかなか……」

「死ね」

「ひいいいっ!?」



過去作のコミカライズ最新話が公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLから飛べるので、ぜひご覧ください。


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第12話

https://magcomi.com/episode/12207421983638281988


『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』第8話

https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1020677


『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話

https://kimicomi.com/episodes/13c56e2160ec2


『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第9話

https://manga.nicovideo.jp/watch/mg1046954

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ