第43話 すれ違うマリア
エルガー王国の兵士が全滅し、終わりを迎えた戦場をマリアはキョロキョロを周りを見ながらゆっくりと歩いていた。
「お姉様はどこにいらっしゃるのかしら?」
メイスを腰のベルトにしまい、口調が落ち着いたマリアは姉のセニカを探している。
そんなマリアの進む先を、味方であるはずの騎士達が塞ぎ、マリアに向かって武器を構えた。
「あ、あなたはなにものですか?」
中心にいる人物が、震える声でマリアに問いかける。
「我々は国を守るため、誰だか分からないあなたを通すわけにはいかないのです」
兵士達が持つ武器は言葉と同様に震えている。
マリアが安心させようと微笑むと、それだけで騎士達の体は強張り、カシャリと鎧が音を立てる。
「私はロザニアの娘マリアと申しますわ。お母様とお姉様のピンチと聞いて馳せ参じましたの」
戦場に似つかわしくないドレスの裾を軽く持ち上げて、マリアは綺麗なカーテシーをしながら騎士達に挨拶をした。
「せ、セニカ様の妹?」
「エンリエットの宝石? 本当に?」
騎士達は口々に信じられないといった言葉を漏らす。
騎士であれば貴族なので社交界の場にも行く機会はある。その時に聞くエンリエットの宝石の話は、エンリエットでありながら家族に蝶よ花よと可愛がられ、戦に向かない可憐な少女。
とても1人で戦を終わらせられような豪傑ではなかった。
騎士達が目を泳がせながら顔を見合わせるが、戸惑うばかりで誰からも言葉はでなかった。
エンリエットの宝石は社交界に出ることがなかったので、騎士爵くらいでは顔を見たこともない。そのため、目の前の人物がマリアであると確証は持てないのである。
「お、俺セニカ様を呼んでくる!」
騎士の1人がそう言って砦の方へと走っていく。
「すみませんがあなたがマリア様だと確認が取れるまで警戒させていただきます」
「いいえ、助かりますわ」
騎士達の言葉を聞いたマリアはセニカを探す手間が省けたことを喜び、ニッコリと笑ってセニカが来るのを待つのであった。
「マリア!」
「お姉様! 無事でよかったですわ!」
騎士に呼ばれたセニカは思ったよりも早くやって来た。
砦で魔法師団の指揮をとっていたセニカは、戦場を駆け回るマリアを見つけて呼ばれるよりも先にこちらへ向かっていたのである。
「なんでマリアがここにいるの! 大丈夫? 怪我はない?」
セニカがマリアの名前を呼んだのを見て、周りの騎士達はホッとした様子で武器を下ろした。
「大丈夫ですわ。怪我なんてしていませんわ。でも、お母様に選んでもらったドレスが汚れてしまいましたわ」
自分の体を見回してそんなことを話すマリアにセニカは苦笑した。
戦場を駆け巡って、ましてや敵を全滅させるほどの戦績を出してその程度など普通はあり得ないことなのである。
「ま、まあ、無事なら良かったわ。ここじゃあれだから砦の中で話しましょう。貴方達、後を頼んでいい?」
「はい! お任せください!」
死者や捕虜などの戦後の処理を周りの騎士達に任せてセニカとマリアは砦へと向かった。
「ところで、お母様はどこにいらっしゃるのですか?」
砦の執務室までの道中キョロキョロと周りを見ながらやって来たマリアは椅子に座ると、セニカに質問する。
「お母様って、お母様は王都に行ったでしょう? マリアこそお母様と一緒に来たわけじゃないの?」
セニカの回答を聞いてマリアは首を傾げた。
「お母様は私を置いて先に行ってしまいましたわ。私はその後にお母様とお姉様が心配で追いかけて来ましたの」
「マリア、あんたどうやってここまで来たのよ。ここまでの道なんて知らないでしょう?」
マリアの言葉に違和感を感じて、セニカはマリアにそう尋ねる。
「お友達に方向だけ教えていただいて、真っ直ぐ走って来たのですわ」
部屋に少しの沈黙が訪れた後、セニカは深いため息を吐きながら片手で顔を押さえる。
「ただ真っ直ぐ……迷いの森も突っ切って来たの? そりゃ、お母様も追い抜いて来ちゃうはずだわ。マリアあなた、お父様の手紙に書いてあったよりとんでもないじゃないの……」
セニカの言葉がよく分かっていないマリアは、とりあえずにっこりと笑って首をかしげたのであった。




