第40話 知らせ
朝日が街を照らし始め、人々が活動し始めた時間に、マリアの屋敷のドアが勢いよく叩かれた。
こんな時間にやってくるなど非常識だが、朝ごはんの準備をしていたイザベルの母がドアを開ける。
するとそこには、血相を変えた1人の男性が膝に手をつき、肩で息をしていた。男性の着る制服から騎士団であろう事は伺える。
「こ、これをロゼニア様に、大至急です!」
ミーナがドアを開けると男性は勢いよく顔を上げ、1通の手紙を差し出した。
「ロゼニア様に渡せばいいのかい?」
「今すぐに呼んでいただかないと、セニカ様の一大事なのです!」
男性の異常な程に焦る様子を見て、ミーナはまだ寝ているロゼニアの元へ向かう。
「ロゼニア様、お休みのところすいませんね。大至急の手紙だそうで、セニカ様の一大事だとかで」
ミーナの言葉を聞いて、ロゼニアは布団を蹴飛ばす勢いで飛び起きる。
「セニカの一大事だって?」
ミーナから手紙を受け取ったロゼニアは手紙を読む程に顔が険しくなっていく。
「ミーナさん、伝令に急ぎ馬を用意するように伝えてください」
「分かりました」
ロゼニアがカバンに荷物を詰め込んでリビングに下りると、まだ早いというのにマリアとイザベルは起きていた。
「2人とも早いね」
「お母様の部屋から大きな音がするからですわ。どうしましたの、朝から、それにその服は?」
準備を終えたロゼニアの服装は王都で休暇を過ごす洋服ではなく、魔法師団の制服であった。
「私の任されてる砦が攻撃を受けているらしい。停戦中だってのに……砦でセニカが頑張ってる、早く戻ってあげないとね!」
「お母様、私も一緒に——」
「ダメだ!」
マリアの言葉を、ロゼニアはただならぬ雰囲気で否定した。
「お前は軍人じゃない。それに、私は娘を戦争に巻き込むなんてしたくはない」
「ですが——マリア、お前には伝令を頼むよ。ペルカを弟子にするって言ったところだからね、戦が落ち着いたら呼ぶから、それまで待ってろって伝えておくれ。あの子も軍人じゃないからね」
ロゼニアはそう言伝を頼むと、有無を言わさせずに屋敷を出ていく。
「私が到着するまで無事でいてくれよ。あの人ほどじゃないが、お前には背中を預けられる人がいるんだからさ」
馬に乗って砦へ向かう道中、ロゼニアは砦のある空に向かってそう呟いたのであった。
◇◆
ロゼニアが屋敷を出て行った後、マリアは納得行かなそうにしながらイザベルの方を見る。
「イザベルさん、お願いします」
「ダメよ、ロゼニアさんも言ってたでしょう、これは戦争なの。いつものダンジョンとは違うのよ? この前騎士と戦った時言ってたじゃない、怖かったって」
マリアの言いたい言葉を理解したイザベルは、全てを言わせないように口を開いた。
マリアに戦地に行って欲しくないというのはイザベルも同じだった。
「しかし、お姉様の危機なのです! 私には騎士を倒せる力がありますわ。だったら、ここで黙って見ていてお姉様に何かあったら後悔しますわ!」
マリアの言葉を聞いて、イザベルの瞳が動揺して揺れる。
否定の言葉を口に出そうとするが、マリアの力強くまっすぐな眼差しを見ると言葉が出ずに口をパクパクとさせた。
「行かなくてはならないのです!」
マリアの力強い言葉にイザベルは唇を噛み締めた後にふっと力を抜いた。
「絶対帰ってくるのよ?」
「もちろんですわ」
「約束よ?」
「約束しますわ」
マリアの頑なな意思にため息を吐いたイザベルは「ふぅ」とため息を吐いた。
「ギルドに取りに行ってくる、その間に着替えてらっしゃい。そんな格好で行くわけには行かないでしょう?」
マリアの格好はまだ起きたばかりの寝巻きのままである。
「はい! 着替えてまいりますわ!」
マリアはにっこりと微笑むと着替えるために階段を登っていく。
「お母さん、それじゃ、ちょっと言ってくるから」
「待ちな!」
イザベルが屋敷を出ようとするとミーナが呼び止めた。
「お前はその格好で行く気かい? マリア様の事言えないよ?」
マリアと一緒に起きてきたイザベルも寝巻きだったのである。
「動揺するのは分かるけどね、落ち着いて送り出してやるんだよ。大丈夫、きっと無事に帰って来るよ。騎士様よりも強いんだろ、マリア様は」
ミーナはイザベルの肩をポンと叩くとイザベルを落ち着かせるように語りかける。
「ありがとう、お母さん」
イザベルはお礼を言うと急いで着替えに行き、ギルドからマリアの装備一式を屋敷に持ってくる。
「戦争を仕掛けてくる国なんてぶっ飛ばしちゃいなさい! この前持って帰ってきた魔物よりも絶対に弱いんだから!」
「はい、頑張りますわ」
いつものようにマリアにメイスを装備させるイザベルの手は震えており、少し時間がかかってしまう。
それを誤魔化すように、イザベルはマリアを鼓舞するように話しかける。
「よし、できた。ラザニアさんの伝言は私が代わりに伝えておくから、その……気をつけて行ってくるのよ」
「分かりましたわ。それでは、行ってまいります」
マリアはイザベルに挨拶をするとたった今付けてもらったベルトからメイスを抜いた。
「絶対にお姉様のを助けてやりますわ! やぁってやりますわぁ!」
そう叫びながら、マリアは屋敷を勢いよく飛び出していく。
そのまま馬車にも乗らずにまるでダンジョンを進むかの如く、砦に向けて一直線に向かうのであった。




