間話 強くなりたくて
ペルカはずっと借りている宿の自室で深いため息を吐きながら薄い本を閉じた。
この本は平民が手を出せる最高級の魔法の本で、所々ボロボロになっているのは繰り返し繰り返し何度も読んだ証拠だ。
この本から学ぶ事はもう何もなく、今読み返してみても何も思いつきはしない。
「どうやったら強くなれるかな?」
そんな呟きは虚空へと消え、答えを返してくれる人はいない。
強くなる。言うのは簡単だが、手探りで道が開けるほど甘い現実ではない。
ここが魔法使いの限界。これ以上は武器を使って戦闘の幅を広げるしかない。
「でも、これじゃ無理」
ペルカは自分の細い腕を見てため息を吐いた。
今まで魔法使いとして生きてきたから、これから武器を扱うのは無謀というものだ。
「魔法士……でも私じゃ無理」
魔法使いの上の存在は分かっている。しかし、魔導士というのは貴族が門を叩くことを許された存在であり、平民がその道を進むには貴族に気に入られ、推薦を受ける必要がある。
そんなコネをペルカは持っていなかった。
「考えても仕方がない」
ペルカはもう一度ため息を吐いて立ち上がると、気分転換に宿の外へと出ていくのであった。
外へ出たペルカは、何か掘り出し物がないかと市場へと足を運んでいた。
たまに野菜や果物、肉以外を売っている人が居たりするのだが、どうやら今日は居ないようである。
収穫もないし、帰ろうかと道を引き返したその時、見知った人物を見つけた。
「お母様、私に任せてください! イザベルさんに教えてもらったんです!」
「へえ、私は市場は初めてだからね、案内してもらおうかな」
昨日一緒にダンジョン探索をしたマリアである。
「あら、ペルカさん!」
ペルカの視線に気づいたのか、マリアが振り返って目が合うと、お上品に笑ってペルカを呼んだ。
「こんにちは」
「友達かい?」
「はい、お母様」
ペルカがいつものダウナーぎみなテンションで挨拶をすると、マリアの隣にいた女性が興味を持ったようにマリアに質問した。
お母様。その言葉にペルカは目を見開いて女性を見る。マリアが元貴族であるのは周知の事実だ。先日、その家名も明らかになった。
「ロゼニア・エンリエット?」
「今はもうエンリエットじゃないよ」
女性はそう言って笑うが、ペルカはそんな事どうでも良かった。
ロゼニア・エンリエットといえば、この国の魔法師団長であり、最強の魔法師の名前である。
「私を弟子にしてください! 私は魔法師になりたい!」
いつものダウナーな雰囲気はどこへ行ったのか、ペルカの口からは何の脈絡もなくそんな言葉が出ていた。
「魔法師になりたいのかい?」
「はい! 私は強くなりたいんです!」
前のめりになるペルカの背負った杖がカランと音を立てる。
ロゼニアはペルカを見て目を細めた。
「無理だね、魔法師にはなれないよ。私はもう貴族じゃないんだ、だから私に魔法を教わっても魔法師は無理だ。魔法師になりたかったら貴族にコネを作って学校に入るのが近道じゃないかねえ」
ロゼニアな突き放すような言葉を聞いて尚、ペルカは口を開く。
「魔法師じゃなくてもいい、この国最強の魔法師の貴方に教わって強くなりたいんです! それができるのなら、魔法師の肩書きはいらない!」
ペルカの言葉を聞いて、ロゼニアは口角を上げた。
「いいねえ、肩書きよりも強さを望むのなら、私が面倒を見てやろう。その代わり、死んでも文句を言うんじゃないよ?」
そう話すロゼニアの顔は、優しい母親の顔ではなく、厳しい魔法師団長の顔になっていた。
「よろしくお願いします!」
ロゼニアとペルカの話を聞いて理解しているのか、それとも雰囲気なのか、2人を見るマリアは小さな拍手をしている。
この出来事でペルカはロゼニアについて、ロゼニアの左遷先の最前線の砦へ同行する事になる。
ギルバート達に強くなって戻ってくることを伝え、一時的にルミナスの白虎を離れたのであった。




