第39話 今更のレクチャー3
アイアンゴーレムを全滅させた後、マリアとルミナスの白虎は更にダンジョンの奥へと進んでいた。
「いったいなんなのよ、このご令嬢様は」
先頭で魔物を殴り飛ばしながら道を切り開くマリアを見ながら、ルミアがそう言って苦笑した。
「本当だぜ。こりゃ、どこまで行っちまうのかわかんねえぜ、ギル」
ルミアの意見に同意するようにギャリアンはギルバートの方を見る。
アイアンゴーレムを1人で倒したことにも衝撃を受けたが、その後のアイアンリザード、ロックタイタンすらも一撃で倒してしまうマリアに度肝を抜かれた。
そして今、場所は既にルミナスの白虎が踏み込んだことのない未踏破のエリアに入っている。
目の前では、やはりマリアが笑顔のまま、見たこともない魔物を一撃で沈め、軽い足取りで更に奥へ進もうとしている。
ギルバートは冷や汗を垂らしながら、ギャリアンの言葉に頷いた。
マリアにとってはこの辺りの魔物はまだまだ軽く捻ることのできる魔物かもしれない。しかし、未踏破の場所という事はルミナスの白虎にとってはいつ死んでもおかしくない死と隣り合わせの場所なのだ。
見たこともない魔物をカバンにしまい、意気揚々と次に向かおうとしているマリアに、ギルバートは声をかける。
「マリア嬢、少し待ってもらえますか?」
ギルバートの呼びかけに、マリアはドレスのスカートを翻しながら振り向いた。
「はい、なんでしょうか? お昼にいたしますか?」
マリアのまるでピクニックに来ているような返答にギルバートは口角を震わせた。
他のルミナスの白虎のメンバーもなんとも言えない表情をしている。
「い、いえ、ここはまだ誰も踏み込んだ事のない未踏破領域です。この先ならどれだけ魔物を狩っても誰の迷惑にもなりません」
「まあ、そうなんですね!」
「はい。それで、ここから先に行くのは私達の実力では命の危険がありまして、今日のもく——」
『ギャアアアオ!』
ギルバートが話していると、ダンジョンの奥からこれまでの魔物とは比べられないくらい大きな魔物が《《飛んできた》》。
その姿は、もちろん大きさは違うが、アーマーリザードに羽が生えたようなお伽話に出てくるドラゴンのような姿をしていた。
自分達の前にドシンッと音を立てて着地するのを見て、ギルバートは言葉を無くして口をパクパクとさせる。
「うるさいですわ!」
マリアは話の腰を折ったドラゴンに対してメイスを横薙ぎに振るった。
マリアのメイスはドラゴンの足を砕き、バランスを崩したドラゴンは倒れて頭を地面につける。
「今、お話中ですのよ!」
そう言って飛び上がったマリアは、これまでの魔物と同じように、ドラゴンの脳天にメイスを思い切り振り下ろす。
トゴォン!
アイアンゴーレムやロックタイタンのように木っ端微塵という事はなかったが、マリアの一撃はドラゴンの頭蓋を砕き、一撃で絶命させてしまった。
「それで、お話の続きはなんですの?」
「え、ええ。今日の目的は達成しましたし、先ほどのロックタイタン以降のエリアから狩をして貰えば文句は出ないと思います」
「分かりましたわ! ありがとうございます!」
これまでよりどこか丁寧な言葉遣いになるギルバートの様子を不思議に思いながらも、マリアは指導してくれているルミナスの白虎にお礼を言った。
「それでは、帰りましょうか」
「え⁉︎ そのままかえるのか?」
先ほど倒したドラゴンを放置して帰ろうとするマリアに、ギャリアンが驚愕した様子で質問をする。
「あの魔物は大きいのでもうカバンに入りませんもの」
ルミナスの白虎の面々は開いた口が塞がらなかった。
ダンジョンの魔物は奥に行くほどに価値が高く、カバンがいっぱいになれ勝ちのある魔物に入れ替えるのは常識である。
それすらも、マリアは知らなかったのだ。
「まさか、これまでも?」
「だって、いっぱいになってしまったものは仕方ありませんわ」
「勿体無い!」
あっけらかんと話すマリアの言葉に、ルミアが大きな声で叫んだ。
ゴブリンの死体をどれだけ積んでも、アイアンゴーレムの価値の方が高い。
未踏破のこの場所の魔物ならアイアンゴーレムやロックタイタンでさえ霞むほどの価値になる。
これまでの情報を整理すると、マリアは価値のある魔物を捨ててゴブリンばかりを持って帰っていたことになり、それを一瞬で計算したルミアは我慢できずに叫んだのだ。
ルミアに教えられながら魔物の入れ替えを行って、マリアとルミナスの白虎御一行はダンジョンの出口へと引き返す。
もちろん、今日は入れ替えた魔物はルミナスの白虎が代わりに持っている。
ルミナスの白虎の会計番ルミアは勿体無い事は許さないのである。
帰りの道中、何かを考えるように難しい顔をするペルカにルミアが話しかける。
「どうしたの?」
「マリアはすごい。私達ももっと頑張らないとダメ、王都最強のパーティの名前に恥じないように強くならないと」
「そうだね、ちょっとマリアさんは規格外だけど、名前負けしないように頑張らないとね」
2人の話に同意するように、ギルバート達も頷いた。
ダンジョンの出口に辿り着くと、マリアはメイスを腰に仕舞って手を離す。
「ふう、怖かったですわ」
そう言って額の汗を拭うそぶりを見せるマリアに、ルミアが呆れたように口を開く。
「いやいや、それは嘘でしょう?」
「えぇ?」
「だってねえ?」
マリアの反応を見て、ルミアは肩を上げて周りを見渡す。
「それはそう」
「マリア嬢はこういう人なんだ」
話には聞いていたものの、マリアの二面性を目の当たりにしたルミナスの白虎の間には、乾いた笑いが漏れたのであった。




