第30話 広場の騒ぎ4
マリアが武器を構えたのを見て、馬車を護衛していた近衛騎士達も武器を構えて警戒体勢をとった。
「いてこましてやりますわ!」
「待つんだマリア嬢! 取り返しがつかなくなる!」
一触即発。マリアが踏み出そうとした所で馬車の中から1人の青年が飛び出してきた。
「クロウデン殿下、危険です! 中でもお待ちください! 相手はハインツ殿下を——」
「馬鹿者! 我々がこの旗を掲げてまで何をしにきたのかを考えろ!」
青年は忠告を聞いて尚、近衛騎士の言葉を叱りつけながら馬車から降りてマリアに話しかける。
「マリア嬢、私達は戦いに来たのではありません! 兄上を回収しに来たのです!」
「……近衛騎士まで持ち出してですの?」
「そうだ。父上、国王陛下の勅命である」
まだ警戒を解かず、武器を構えたままのマリアの質問に第二王子クロウデンは緊張した面持ちで頷いた。
「回収してどうなさいますの? エンリエットの時と同じように無実の人間に罪を被せますの?」
「な⁉︎ 貴様、無礼であろう!」
「よい! マリア嬢、それはどういう事だ?」
マリアの言葉の意味がわからない様子のクロウデンは近衛騎士の言葉を退けてマリアに質問をした。
「惚けるきですか?」
「クロウデン、ここからは我が話そう」
マリアの剣呑な雰囲気が増したのを見て息を呑んだクロウデンに馬車の中から声がかけられた。
「マリアよ、全てを我から説明させてくれないか?」
そう言って馬車から降りてきたのは、この国の国王ルドルフであった。
「剣を下げよ」
「しかし……」
「話し合いのためにまずはこちらに戦闘の意思がない事を見せねばならん」
ルドルフの命令を聞いた近衛騎士達は全員剣を収める。
「これで話を聞いてくれるだろうか?」
マリアが頷くと、ルドルフはゆっくりと話し始める。
「エンリエットの件はすまなかった。ハインツが手を回したという証拠が無かったのだ。政治というのは感情で行ってはならん。あの時、件の問題は全てエンリエットが行ったという証拠しかなかった」
落ち着いた雰囲気でゆっくりと広場を見回したルドルフは感情の分からない威厳だけが分かるような雰囲気で話を続ける。
「今回、これだけの証人がいる。王子であろうともハインツがやらかした罪は重い。それに、今回証人を消すためにやろうとした事もな。マリアよ、ハインツの処分を我に任せて矛を納めてはくれないか?」
「きちんと裁いてくださいますのね?」
「約束しよう」
ルドルフの言葉を聞いたマリアは、ゆっくりと身を翻すとイザベルの所まで戻る。
「いいの?」
「はい。陛下のお言葉を信じてみましょう」
マリアが微笑むと、イザベルは頷いてメイスを受け取ってマジックバッグにしまった。
「感謝する」
「……」
ルドルフから感謝の言葉がかけられるが、マリアはそれに返事をしない。
それに対して、ルドルフは怪訝そうに眉を動かした。
「……怖かったですわ!」
マリアは力が抜けたとでもいうように目尻に涙を浮かべながらイザベルに抱きついた。
それを聞いた広場にいる全員は「そんなわけあるか!」とツッコミを入れたいのを必死に我慢した。
王子に貴族、騎士十数名が地面に転がるこの状況を作り出したのはマリアなのである。
しかし、国王陛下の御前でツッコミを入れるわけにはいかない。
この場でただ1人、ルドルフだけが呆れたような笑みを浮かべていた。
ルドルフとクロウデン、近衛騎士団が転がっているハインツ達を回収して帰って平民街の騒動は終わった。
その後、マリアとイザベルは2人並んでイザベルの家に向かっていた。
騒ぎのせいでランチの時間は過ぎてしまい、早めにイザベルの家でご飯にしようという事になったのだ。
「はあ、お腹ペコペコですわ」
「腕によりをかけて作るわよ! 任せてちょうだい!」
「はい! 楽しみにしてますわ!」
腕まくりをしながらやる気を見せるイザベルにマリアは優しく微笑んだ。
「でも、話には聞いてたけどあんた武器を持つとあんな感じになるのね」
「恥ずかしいですわ」
両手を頬に添えて顔を赤るマリアの姿を見て、イザベルは本当に同一人物なのかと苦笑した。
「ところでさ、本当に怖かったの?」
戦っている姿を見れば嘘のように思えるが、いつものマリアが当たり前のイザベルは疑問に思って質問をした。
「まあ、そうですわね。怖かったですわよ」
マリアは困ったような表情をして返事をする。
武器を持っている時はアドレナリンが出ているのか、武器を離すと怖かったという感情が押し寄せてくる。
ダンジョンでも出入り口で武器をしまった時に「ふう、怖かったですわ」と一息つくのが恒例行事である。
しかし、今ではその恐怖にも慣れてきてルーティンのようなものになってしまっているので何とも言えない表情になっているのであるが。
ともあれ、モンスターとは違う人間の、それも大人の意思ある殺気を向けられたのは今日が初めてで怖かったのは事実である。
「怖かったら冒険者をやめてもいいんじゃない? 私と一緒に受付でもする?」
イザベルの心配したような提案にマリアは人差し指を顎に当てて少し考える。
「いいえ、私は冒険者のままでいいですわ。人の方が怖いですし、武器を持って戦えるのは自分がエンリエットの人間だと思えて好きなのです。それに、冒険者でなくなったらイザベルさんを独り占めできなくなってしまいますわ!」
満面の笑みでそう答えたマリアにイザベルは「何よそれ」と笑いながらも口角を上げる。
話しているうちにイザベルの家に着き、マリアは緊張しながらお邪魔するのであった。




