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愛しのマリアの豹変無双〜没落貴族の箱入り令嬢は鈍器片手に無双する!〜  作者: シュガースプーン。


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第29話 広場の騒ぎ3

 イザベルは憎しみのこもった目でハインツを睨みつけた。


 父の仇。そして自分達を家畜と呼ぶハインツやそれに賛同していそうな貴族や騎士に怒りで身を震わせながらも何もできない自分に苛立ちを覚えた。


 ハインツの命令を受けて、太陽の光を反射させて輝く剣を振り上げて動き出した騎士達を見て、イザベルはこの状況を覆す事ができそうな友人に望みを託し、マジックバッグからメイスを取り出して差し出す。


「マリア、これ!」


 話でしか聞いたことのないマリアの力を信じて。


 その結果が、どのようなものになるとも知らずに——



 ハインツの命令を受けて騎士が振り上げた剣で広場にいる人々を斬ろうとした時、金属を叩くような大きく鈍い音が響いた。


「な、何事だ!」


 ポルニッカ伯爵が自分の横で砕け飛んだ馬車を見て悲鳴に近い声を上げる。


 馬車の破片と共に気を失った騎士が1人転がっており、鎧はひしゃげていた。


「だまらっしゃい!」


 その騎士を殴り飛ばしたマリアはメイスを肩に担ぎながら先ほどとは雰囲気の違う様子でポルニッカ伯爵とハインツを睨みつける。


「あなた達は貴族の風上にもおけませんわ!」


「ええい! あれから始末しろ! ハインツ殿下に危害を加えるような不届ものを1秒たりとも生かしておくな!」


 ポルニッカ伯爵は騎士を殴り飛ばし、馬車を破壊したのがマリアだと理解すると顔を強張らせながらも唾を飛ばして叫ぶ。


 隣のハインツが「マリアは殺すな! 俺のおもちゃにするんだ!」などと言っているが、それを無視して命令している。


「この駄貴族と民を守らぬ馬鹿騎士どもが! このメイスを臀部から突っ込んで奥歯ガタガタいわせてやりますわよ?」


 マリアの元エンリエットの令嬢とは思えぬ言動をきいて血管が切れそうなほど逆上したポルニッカ伯爵の「早く殺せ!」という命令で一斉にマリアを殺そうと剣を構えて飛びかかった。


 それに対してマリアは攻戦的な笑みを浮かべると、騎士達を翻弄するかのような動きで懐へ飛び込み、脇腹目掛けてメイスを横一線に振るう。


「しゃらくさいですわ!」


 マリアの一撃は騎士の鎧をへしゃげさせ、骨を砕きながら、他の騎士達も巻き込んで叩き飛ばした。


 いくら訓練を積んだ騎士達と言えど、ゴブリンの群れよりも数が少なく、ロックタイタンよりも攻撃力が低ければメイスを持ったマリアの敵ではない。


「まだまだやってやりますわ!」


 マリアは嬉々としてメイスを振るい、騎士を一撃の元に叩き飛ばしていく。


 その際、マリアは周りの人々の方へ騎士達を叩き飛ばさないように気を遣っているのか平民に被害を出さぬまま、十数名の騎士達を全滅させた。


 騎士達を倒し終わったマリアは、ポルニッカ伯爵とハインツの方へ向き直るとゆっくりと歩き出した。


「と、とまれ! 平民が貴族に、ましてや殿下に手を出せばどうなるか分かっているのか! タダでは済まんのだぞ!」


「クソ! 役立たずどもめ! ポルニッカ伯爵俺を守れ!」


 ポルニッカ伯爵とハインツの言葉を聞いてマリアが止まる事はない。


 ハインツの前までたどり着くと、マリアはメイスを持っている手とは逆の手でハインツの顔をがっしりと掴んで持ち上げる。


「いだい痛いいだい! 離せ! ポルニッカ伯爵、早く助けろ!」


 ハインツはマリアの華奢な腕を掴んでジタバタと暴れるが、マリアはびくともしない。

 ハインツ隣に立っていたポルニッカ伯爵は腰が引けており、先ほどの騎士達のようにマリアに反撃する様子はなかった。


「元貴族の矜持として、罪なき民を守るためなら《《新しい》》罪、被ってやりますわ!」


 流石に宣言したように尻にメイスを突き刺すような下品な事はしない。

 マリアはハインツを物のように扱いポルニッカ伯爵の頭にハインツの頭をぶつけた。


 2人は頭から血を流しているが決して死んではいない。気絶しているだけである。


 マリアが大立ち回りの末、ハインツやポルニッカ伯爵、騎士達を擦り傷一つなく全滅させると、広場は静まり返った。


 そんな中、貴族街のほうからまた一つ、パカラッパカラッ、ガラガラガラガラと馬車の音が聞こえてくる。


 マリアはこちらに向かってくる馬車を見て目を見開いた。


 先ほどの馬車に描かれたポルニッカ伯爵の家紋やポルニッカ騎士団のマントに描かれた紋章を知らなくてもこの国に住む人なら誰もが知っている紋章。


 馬車に描かれているのは国王のみが掲げられる王家の紋章。それに、周りを走る馬が掲げる赤の軍旗は国王陛下を守る近衛騎士団の証である。


「お、王様がおみえになった?」「そんな、もう終わりだ……」「あ、アイツだ! アイツが王子をやったんだ! 俺達は関係ない!」


 周りの人達も馬車の中に誰がいるのか悟ったのか、口々に絶望する声が聞こえてくる。


 マリアはメイスを担ぎ直すと、真っ直ぐに馬車の方を見る。


「おかわり上等! 国ごと腐っているなら、滅ぼしてやりますわ!」


 マリアが馬車に向かって大声で宣言するのと、馬車が広場に停止したのは同時であった。



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