第20話 休日
「あんた、まだ待ち合わせの時間には早いわよ?」
待ち人来たる。
マリアが待ち合わせの約束をした広場の噴水の前で待っていると、イザベルが呆れた声で話しかけてきた。
「イザベルさんおはようございますわ! イザベルさんも早いじゃないですか」
待ち合わせの約束をしたお昼前まではまだ時間があり、まだ朝といっても差し支えのない時刻である。
ニコニコと話すマリアにため息を吐きながら、イザベルは頭から足までじっくり見た。。
「あんたが早くきそうだったから早くきたのよ。私が気を使わなかったらあんた待ちぼうけよ? 服も新しそうだし、気合い入りすぎじゃない?」
「はい! 昨日買いにいきましたの。どうですか? 似合いますか?」
「まあ、似合ってるわよ。この場所に合うのかは別にしてだけどね」
新しい洋服を見せるように一回転するマリアにイザベルが感想を言った。
平民の普段着の中にドレスのマリアは浮いて見えるが、冒険者ギルドだろうと常日頃からそうなのでイザベルはもう慣れていた。
「イザベルさんのお洋服も似合ってますわ!」
「別にこの前と一緒でしょ? あんたと出かけられそうな服なんて何着も持ってないもの」
イザベルの服装は前回メイスを買いに行った時と同じだ。
その事に苦笑いするイザベルにマリアは勢いよく首を振った。
「ですけど、冒険者ギルドでお会いする時よりもお似合いですわ!」
「そう? ありがとう。それじゃ、行きましょうか? まだお昼には早いし、どこ行きたいか考えてきたの?」
「あ、それはですね——」
イザベルが歩き出したのを追いかけながら、マリアが昨日色々と悩んで決めた行きたい場所を口にする。
2人はなんでもない、ただの休日をゆっくりと楽しんだ。
夕方に近づくにつれて、マリアはどんどん緊張していった。
それは今日言おうとしていた事がまだ話せてなかったからである。
「今日の夜は私の宿で一緒に食べませんか?」
この一言が、なかなか言い出せずにいた。
今日の事を話した時に宿屋の店主が気合いを入れた料理をご馳走してくれると約束した。
それを伝えるだけだ。
ただ、それまでお茶会に誘われた事はあれど、友達を食事に誘ったことのないマリアは妙に緊張して夕方まで言い出せずにいた。
「ねえ、マリア聞いてる?」
「ひゃい!」
言うぞ言うぞと気合いを入れていたマリアは上の空になってイザベルの話が耳に入っていなかった。
「何驚いてんのよ。ほら、もうすぐ日も暮れるし今日はそろそろ解散にしよっか」
マリアの反応に苦笑しながらイザベルが提案する。
もう夕日で空が赤く染まっていて、周りには仕事帰りの人々も増えてきている。
このままでは解散になってしまうと、マリアは勇気を出して口を開いた。
「あ、あの! 今日の夜は私の宿の食堂で一緒にお食事をしませんか?」
マリアの勇気を振り絞って少し大きくなった声にイザベルは目を丸くした。
そしてその後に少し口角が上がる。
「あー、ごめん。私夜は帰らないと行けないからさ、夜ご飯は無理だわ」
「そうですの……」
申し訳なさそうに笑うイザベルの返事にマリアはガックシと肩を落とした。
その後、少し気まずい空気が流れたので解散して、マリアは1人で宿屋へと帰る。
その足取りはトボトボとしたもので、朝のステップを刻むような軽快な足どりも楽しそうな鼻歌もなかった。
「おかえり。あれ、お嬢ちゃん1人かい?」
「はい。断られてしまいましたわ……」
宿の入り口で女将に声をかけられたマリアが項垂れながら話すと女将はマリアの背中を優しく摩った。
「そんな事もあるさ、用事があったんだろうさ。また今度誘えばいいんだよ!」
「そうでしょうか?」
「そうさ! 友達でもう会えないわけじゃないんだろ? ご飯を食べる機会くらいこれからいっぱいあるさ!」
「はい! 次がありますわよね!」
女将の慰めにどんどん元気になって、マリアな曲がっていた背中も伸びていく。
「そうさ。うちの旦那も何回だって腕によりをかけるよ!」
「はい、よろしくお願いしますわ!」
「さ、晩ごはんを食べておいで。今日も美味しいよ」
「はい!」
マリアの顔に笑顔が戻り、軽快な足取りで食堂まで向かうのであった。
◇◆
「お母さん、ご飯できたよ」
「すまないね、今日はデートだったんじゃないのかい?」
「違うわよ。友達と遊んできただけ。ほら、食べちゃって」
イザベルは家に帰った後、食事の用意をして机に並べた後、体の悪い母親を支えてテーブルまで連れてくる。
「いつもありがとうね」
「お母さんそれ毎日言ってるよ?」
「だってそう思うんだもの」
「もう、いいって。それよりもさ——」
イザベルは暗い空気にならないように話を逸らして今日の出来事を色々と話す。
ずっと家にいる母親はイザベルの外での出来事を楽しそうに聞いている。
「よかったわね、友達ができて。イザベルは仕事ばっかりだったから」
「まあ、色々と大変だけどね」
母親のまっすぐな言葉を照れ隠しに誤魔化しながら、イザベルは食事を口に運んだ。




