第18話 初めてのソロ5
「今日もいっぱいなの?」
「はい。申し訳ありません、私のせいで毎日残業させてしまって」
「平気よ、もう慣れたから。それでお給料貰ってるんだからあんたには感謝してるわよ」
申し訳なさそうにするマリアにイザベルが肩をすくめながら言った。
連日マリアはマジックバッグをいっぱいにしてダンジョンから戻ってくる。
マリアは最初に残業で遅くなると聞いているので迷惑をかけていると思っているが、実際は他の冒険者の相手をしなくていい分、慣れれば普通よりも楽な仕事なのだ。
「それじゃあ失礼しますわ」
「ちょっと待ちなさい」
マリアがお辞儀をして帰ろうとしたところでイザベルが呼び止めた。
「明日の時間も待ち合わせする場所も決めて無いでしょう?」
イザベルの言葉を聞いた瞬間マリアの表情は花が咲いたように明るくなった。
「はい! 私は夜明けすぐにでも大丈夫ですわ!」
「そんな時間じゃ市場くらいしか空いてないじゃない」
あまりにも早い時間にイザベルが呆れ顔を作りると、マリアは楽しみで仕方がないといった風にあごに指を置いて考える。
「そうですね、何時からにしましょう?」
「この前みたいにお昼前でいいでしょう? 休みの日くらいゆっくり寝たいわ」
「分かりました! お昼前ですわね!」
「それじゃ、明日ね」
「はい!」
明日の予定が決まるとマリアはニッコニコでイザベルに挨拶をして冒険者ギルドから帰ろうとする。
しかし、ロビーの真ん中でマリアは冒険者に声をかけられた。
「あの、ちょっといいですか?」
マリアが声をかけられ振り返ると、そこには3人の冒険者が立っていた。
「どうかいたしましたか?」
マリアは《《見たことのない》》冒険者に首を傾げる。
「あの、俺達この前助けてもらって、お礼も言えなかったから」
「バカ! もっと丁寧に言いなさいよ。不敬罪になるでしょ!」
少年が緊張しながら呼び止めた理由を話すと、隣の少女が焦った様子で少年の頭を叩いた。
「すみません、彼の無礼をお許しください。その、貴族様と話すのは慣れてなくて……」
3人目の少年が謝罪するのを見て、マリアは苦笑いで首を振った。
「大丈夫ですわ、私は貴族ではありませんもの。いつものように話していただいて大丈夫ですのよ」
マリアの言葉にほっとした様子で、最初に話した少年が続きを話し始める。
「この前は俺達本当に死ぬかと思って、助けてもらってありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
3人が深々と頭を下げるのを見てマリアは慌ててで手を振った。
「そんな、お顔を上げてくださいな! 私誰かを助けたなんて身に覚えがありませんわ! 人違いですわ!」
「そんなことありません。そのドレス、見間違えるわけがありませんから」
ダンジョンの中を防具も無しにドレス姿で闊歩するのはマリア以外にいない。
見間違えようがないのだが、誰かを助けるのではなく、邪魔な魔物を倒して進んでいたマリアには本当に身に覚えがないのだ。
「分かりましたわ受けとりますわ。でも、勘違いだと気づきましたらその方にもお礼を言うのですわよ?」
マリアの言葉に顔を上げた3人の冒険者は顔を見合わせて首を傾げた。
「それでは、私はもう行きますわ!」
身に覚えのないことでお礼を言われて気まずく思ったマリアはそう言って、さっさと冒険者ギルドを後にするのであった。
◇◆
「支部長、冒険者マリアですが、複数の冒険者からクレームがきてます」
支部長室で、秘書が支部長に報告をしていた。
「ふむ、どんな内容だ?」
「ダンジョンの中で魔物を奪われた。という事ですね。最近減ってきていた事案ですが、最近冒険者マリア宛に増えてきております」
「なるほど。放っておけ!」
秘書の報告を聞いた支部長はそう言って笑い飛ばした。
それに対して秘書も「はい」と素直に返事をする。
「たく、んな報告はする必要ないのによ」
「仕事ですから。そこからの判断は支部長にお任せしますが報告せずに問題になった場合は私に責任が回ってきますから」
「真面目だなあ」
もちろん支部長も適当に流しているわけではない。
文句を言う声というのは大きく聞こえる。
しかし、それを聞くだけだとどういったトラブルを招くかをきちんと把握できない。
冒険者ギルドもバカではないので、このクレームがどういった類のものかは理解している。
以前、同種のクレームが多かった時期に対して、クレームの減った今は冒険者の帰還割合が減っている。
つまりダンジョンで死ぬ冒険者が増えたという事だ。
それは、この手のトラブルを避けるために冒険者達が助け合わなくなった結果だ。
以前からこの手のクレームに冒険者ギルドが対応した事はない。
もちろん調査はするが、大概は助けられた側が利益欲しさにいちゃもんをつけているだけだ。
冒険者ギルドが対応しないので、直接いちゃもんをつける冒険者が現れる。
もちろん冒険者ギルドが仲裁に入るのだが、そんな事が続けば、今のように助けようと思う冒険者が減っていくのも当然の事だ。
「ギルの話を聞く限りあのお嬢ちゃんは武器を持ったらそんな事は屁にも思わなそうだし、良い風に起爆剤になってくれる事を願おう」
「そうですね、死んでしまう冒険者は少ない方がいいですから」
マリアの働きが、これからのデータにどう影響を及ぼすのか、2人は楽しみにしながら次の報告に移るのであった。




