第17話 初めてのソロ4
素材担当にマジックバッグを渡し終え、マリアとイザベルは受付ロビーに戻ってきた。
「イザベルさんのお仕事はこれで終わりですの?」
何かを期待するようなマリアの質問にイザベルはそっけなく返事をする。
「違うわよ。明日あんたに支払う報酬の計算とか、支部長への報告とか、やる事はまだまだあるんだから。とんでもない物持ち込んでたし今日は残業かなぁ」
「そうなんですの。申し訳ないですわ……」
イザベルの返事を聞いて申し訳なさそうにしゅんとするマリアを見て、イザベルはクスリと笑って軽い力でマリアのおでこにデコピンをした。
「はう! 痛いですわ!」
「私らはお貴族様みたいに毎日楽してお茶できる訳じゃないのよ。稼がないと生きていけないからね。でも、頑張って働いた分、我慢した分だけ休みの日の楽しみが何倍も楽しくなるの! 今度の休みの日、またお出かけするんでしょ?」
両手でおでこを押さえるマリアにイザベルは少し偏見が入ってはいるが、平民の生き方を説明する。
「何倍も楽しく……はい! 私もお休みの日まで頑張りますわ!」
マリアはおでこを摩りながら満面の笑顔で頷いた。
「それに、あんたのおかげで忙しくなるのは感謝してるのよ。それだけお給料がアップする訳だし、これからずっとこの調子なら残業代も支部長に交渉しないとねぇ」
いい事を言っているようで、イザベルの顔はいやらしく笑い、目がお金になっているように見える。
「あとは、お貴族様のお手つきにでもなって妾になれば最高かもしれないわねぇ」
ついには小声で呟いては「ぐふふ」と笑っているイザベルを見て、マリアは「やっぱりイザベルさんは楽しい人ですわ」と口に手を添えて笑った。
「それじゃ、あんたの仕事はもう終わりだから帰ってもいいわよ?」
「……そうですわね。帰りますわ」
マリアはもう少しイザベルと話したかったが、先ほどの話を聞いて邪魔しないようにと帰ることにする。
「マリア!」
マリアが冒険者ギルドの出口に向かって歩いていると、イザベルに呼び止められた。
「私も頑張って休みまでに残業終わらせるからあんたは休みまでにどこ行きたいか決めておきなさいよね!」
前回お茶をした時はマリアが貴族街にある高級店しか知らなかったため、安価で楽しめる平民街のおしゃれなカフェを紹介してもらった。
マリアはいまだに服を買いに行くのも貴族街で、平民街に何があるのか全く知らないのだ。
イザベルは、それが分かっていてマリアの行きたいところを案内してくれると言っているのである。
「はい! 色々と考えておきますわ!」
受付からここまでのとぼとぼとした歩き方とは一転、マリアはヒールなのに今日にスキップをして冒険者ギルドから出ていくのであった。
◆◇
「あらお嬢ちゃん、早いじゃないか」
昼過ぎに帰ってきたマリアを見て、宿屋の女将がそう声をかけた。
「はい。終わってしまいましたわ」
マリアは冒険者ギルドから宿屋までまっすぐ帰ってきた。
市場で騙されかけた事もあるし、この間イザベルと買い物に行った時が楽しかったので1人で買い物を済ませてしまうのがもったいなく思えたのだ。
「そうかい。お嬢ちゃんはお昼は食べたのかい? あたしは今からなんだけど一緒に食べるかい?」
「じゃあ、ご一緒させていただきますわ!」
「あいよ!」
宿の食堂で宿屋の女将と店主、マリアが同じテーブルを囲んで昼食を食べる。
「無事に帰ってきてくれて何よりだよ! お嬢ちゃんは華奢だから冒険者って聞いて心配してたんだ。ねえアンタ!」
「ああ。この宿は冒険者の客が多いからな、帰ってこない冒険者の荷物を片付けるのは無い方がいい」
「いきなり暗い話するんじゃないよ! アンタは!」
現実的な話をした店主の背中を女将がバチンと勢いよく叩いた。
「そんな事よりどんな冒険をしてきたんだい? パーティの友達はできたかい?」
「パーティでは無いんですけど一応、友達が、できました……」
「そうかい」
恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑うマリアに女将は優しい笑顔を向けた。
「こんどその子も連れてくるといい。とびきりの食事を作ってやる」
食事を口に運びながら、店主がボソリと言った。
「はい! おじ様のお食事は美味しいですからイザベルさんも気にいると思います!」
「そうだろう。夜のシチューも楽しみにしているといい」
店主はマリアの言葉に口角を上げて嬉しそうにしている。
「友達はイザベルってんだね。どんな子なんだい? もっと聞かせておくれ」
「はい。イザベルさんはとっても親切な人で——」
その後は、マリアがイザベルの話を楽しそうに話すのを女将と店主は笑顔で聞いているのであった。




