第16話 初めてのソロ3
「ただいま戻りましたわ!」
「はい、おかえりなさい」
満面の笑みでダンジョンからもどったマリアにイザベルは仕事の手を止めて挨拶をした。
「それじゃ、武器とカバンを預かるわね」
表に出てきてメイスを取り外しながら、イザベルはマリアに話しかける。
「帰ってくるの早かったじゃない。でもま、初めてならこんなものよね」
「ええ。荷物がいっぱいになってしまったので帰って来ましたの」
「はい?」
イザベルは取り外したマジックバッグをじっと見る。
マジックバッグは普通のカバンに比べて沢山入るが、なんでも無限に入れられる訳ではない。
とはいえこのマジックバッグはちょっとした倉庫くらいの容量があるのでいっぱいになったと言われて素直に信じられるものではなかった。
とくにイザベルはマリアのダンジョンでの様子は聞きかじった程度でほんわりしてニコニコと楽しそうにお茶をしている所しか知らないのである。
「まさか不具合かしら? そこまで古い物でもないと思うけど?」
マジックバッグを見ながら疑問をつぶやくイザベルにマリアがなにかを期待した様子で声をかける。
「イザベルさんはこの後はまだお仕事ですか?」
「ええ。これを素材担当の所へ持っていかないとね。それに不具合がでてるなら支部長に相談しないといけないし」
「そうなんですのね」
暇であればお茶でも誘おうと思っていたマリアはがっくしと肩を落とした。
「とりあえず私はこれを持っていくからマリアは今日はこれで帰っていいわよ。これ引換札ね、報酬は明日以降になるから」
「分かりましたわ。あ! 私もそれ見に行っていいですか?」
イザベルが事務的に木製の札を渡すとマリアは受け取りながらそう質問した。
「まあ冒険者も入れる場所だからいいけど、特別面白いところでもないわよ?」
「せっかくなのでイザベルさんのお仕事をするところを見てみたいのですわ!」
「いや、私が解体する訳じゃないのよ?」
「分かってますわ!」
マリアの元気のいい返事に毒気を抜かれたようにため息を吐いたイザベルはマリアを連れて素材担当のいる解体場へと向かった。
解体場にはそれぞれの場所に番号の書いた看板が掛かっており、マリアの札に書かれた番号と同じ看板の場所へと向かう。
マリアが物珍しさにキョロキョロとしながら歩いていると、ある場所では解体している職員に買取価格の交渉を行なっている冒険者がいたり、何かミスをしたのか先輩から叱られている職員がいたりする。
「私達が行くのは一桁の場所だからはぐれずについて来なさいよ?」
「分かりましたわ!」
周りを見ていて少し離れていたマリアはそう言われて小走りでイザベルを追いかける。
解体場の職員も新人からベテランがおり、それぞれの技術も違う。
番号が後ろになる程まだ未熟な職員で、解体のミスや不手際で素材の買取価格が下がることが多い。
そのため、冒険者の中にはそれを加味して言い値ではなく買取価格の交渉をする者もいたりするのだ。
番号が若いベテランの職員は追加料金がかかるがミスなく買取価格も安定している。
そのため奥へ行くほど職人気質なベテランが黙々と作業をしていた。
マリアが案内されたのは1と書かれた看板のあるエリアであった。
「ガンジさん、例の依頼です! お願いできますか?」
「早速か。本当に俺達を貸し切るような依頼なのか? どれ、見せてみな」
イザベルにガンジさんと呼ばれた頭にタオルを巻いた老人は少し不満そうにしてマジックバッグを受け取ると、中身を次々と出し始めた。
ガンジは上級冒険者の依頼を受けてきたベテランなのだが、イザベルと同じようにマリアの専属となったのだ。しかし、専属の仕事という内容に半信半疑で、これまでより稼ぎが減るのでは無いかと感じているのだ。
「ゴミはそのまま捨てちまっていいんだろ?」
「一応数は数えないと。討伐数で報奨金を出さないといけないので」
「あー、そうだな。おいテツ! 数えとけ!」
「分かりました」
ガンジに指示された職員はガンジが捨てていく魔物の数をメモしていく。
その様子を、マリアは目をキラキラとさせてみていた。
イザベルが真面目に働いている姿は新鮮味があり、マリアが思う仕事のできる女に見えた。
しかしそんな真面目な顔のイザベルも、ゴブリンやコバルトなどの浅い場所での魔物が終わって、素材に価値のある魔物が出始めた頃から段々と驚いて崩れていく。
「おいおい、話に聞いてたよりとんでもねえじゃねえか」
ガンジは呆れたように笑い、テツも嬉しそうに魔物の死体を見上げていた。
マジックバッグの中にはロックタイタンこそ無かったものの、それよりも強い魔物であるアーマーリザードが入っていた。
アーマーリザードの見た目は羽の無いドラゴンのようにも見え、体はロックタイタンよりも巨大だ。
「そら、マジックバッグもいっぱいになるわよ。あんた、どこまで探索して来たのよ?」
「えーっと、どこでしょう? カバンがいっぱいになるまでまっすぐ行って帰って来ましたわ?」
呆れて笑うイザベルの言葉に、マリアはよく分からないと言ったふうに顎に人差し指を当てて上を向くとあっけらかんとした感じで答えた。
「はははは! お嬢ちゃん面白えじゃねえか! おいギン、こんな上等な仕事がこれからバンバン来るみたいだ! 気合い入れて仕事するぞ!」
「はい! ガンさん!」
アーマーリザード級の魔物はギルバートの所属するルミナスの白虎が数日かけて倒すような魔物だ。
それを昨日の今日でぽんと持ってきたマリアは毎日このクラスを持ち込む可能性がある。
ガンジとギンの2人は、気合いを入れて解体を始めるのであった。




