間話 国境の砦
「父上、今日はご機嫌ですね」
国の外れにある砦で手紙を読んでクツクツと笑う男性に青年が話しかけた。
「ん? ああ、アーサーも読んでみるか?」
「よろしいのですか?」
「別にシュピーゲンからの私的な手紙だよ」
「では失礼して……」
アーサーと呼ばれた青年が受け取った手紙に目を通していくと、表情がどんどんと表情が驚愕に染まっていく。
「父上、これは?」
「我が家の可愛いお姫様の近況報告だ。どうやら冒険者になったらしい」
「危険ではないですか?」
楽しそうに話す男性とは対照的にアーサーは怪訝な顔をして男性を見た。
「あははは、何言ってるんだ。あの子はお前よりも強いだろう?」
「父上、それは子供の時の話です!」
「アーサー、虚勢は時を間違えれば身を滅ぼすぞ? お前の強さとあの子の強さは別物だ。お前は単独でタイタンを倒せないだろう?」
期限よく笑っていた男性は雰囲気を一転させ、剣呑な雰囲気でアーサーを嗜める。
その雰囲気にアーサーは息を飲んで黙った。
「お前は大局を見て軍を率いるのだ。単独の戦力に拘らなくていい。俺と同じだ。俺でさえロックタイタンを一撃は無理だろうなぁ。すごいな、ウチのお姫様は」
男性はアーサーを嗜め終わるとまたカラカラと機嫌良く笑いだした。
「分かってはいますが、兄としては認めたくないのですよ」
「お前はまだ若いなあ」
男性は立ち上がってアーサーの背中をバンバンと勢い良く叩く。
「痛い、痛いですよ父上! では、私は少し早めに訓練を始めてますので!」
「おう、頑張れ頑張れぃ!」
男性はアーサーを見送った後、執務椅子に座り直すとくるりと回転して窓から空を見た。
「陛下、ちゃんと王子の手綱を握らないと今度こそ私はあなたを見限りますよ?」
男性の言葉は冷たく、先ほどアーサーを嗜めた時より剣呑な雰囲気を孕んでいる。
今でこそ男性は少し前までは騎士団のトップであった。
それがなぜこの国境付近の砦で中隊長をしているかというと、王子に不敬を働いたという罰を甘んじて受け入れたからである。
王子に不敬を働いた。普通なら死罪となってもおかしくない案件だが、国王は男性の功績を考えて爵位剥奪の上、騎士団長の任を取り上げ、左遷した。
ちなみに、王子への不敬というのは捏造だ。
第二王子との婚約が内密に決まっていた娘を第一王子が欲したのだ。
貴族としての派閥も違うし、第一王子の女癖の悪さは裏では有名な話。
丁寧にお断りしたのだが、その報復として罪を捏造され、今に至るというわけだ。
それを甘んじて受け入れたのは、今の国の状況として内部での揉め事を起こしたくないという陛下の意図を男性がくんだから。
それに国境付近のこの砦へ行くのはちょうど良かったから。
しかし受け入れたのはそこまでであった。
アーサーに見せていない封筒を開いて火で炙ったものを男性は一瞥するとぐしゃりと握りつぶす。そしてタバコを吸わないにも関わらず机の上に置いてある灰皿に放ると、火をつけて燃やしてしまう。
炙った封筒には焦げて文字が浮かび上がっていた。
そこにはなぜ愛しい娘が冒険者になったのかの経緯が書かれている。
男性が送っていた仕送りは娘に届くことはなく、知らぬ所で私財が没収されて家の金は底をついていた。
その結果、優しい娘は家を売って使用人達の給金を捻出し、路頭に迷い冒険者となった。
普通、家長である男性の許可やサインも無しに娘だけで家が売れるわけがない。
元伯爵の家を売ったにも関わらず、使用人に給金を払っただけで金が尽き、路頭に迷うわけがない。
後ろ暗い商人。誰かの差金だったと考えるのが普通である。
陛下が自分達の事をその程度に扱うのなら、男性にも考えがある。
王子の言い分を甘んじて受け入れた事で恩は返したと思っているし、男性はもう貴族ではないのだから。
「さて、俺も訓練場に行くか。今のうちに鍛えておかないと、この砦の兵士はなよっちょすぎる」
男性は空を見上げた時の雰囲気を隠して笑顔を作ると、部下を鍛えるために訓練場へと向かうのであった。




