第14話 初めてのソロ1
「それでは女将さん行ってまいりますわ!」
「今日の晩ごはんはシチューだからね、気をつけて行って来るんだよ!」
「分かりましたわ!」
マリアは宿の入り口で明るい挨拶をして軽い足取りで冒険者ギルドへ向かう。
いつもながらダンジョンに行くのには相応しくないドレス姿で冒険者ギルドに入ったマリアは、冒険者からの注目を集めながら受付へと歩く。
他の受付に行列ができている中、マリアは1つだけ空いている受付へ向かって声をかけた。
「おはようございます。イザベルさんはまだ眠たいのですか?」
「んあ? ああマリアか、おはよう。あんたのおかげで私の業務は特別暇なのよ」
あくびを噛み殺している所を見られた事を気まずそうに言い訳しながら目尻の涙を拭うイザベルの姿にマリアは笑顔を深める。
昨日一緒にお茶に行ってから「マリア」と名前で読んでくれるようになり、距離が縮まった気がするのだ。
このカウンターはほぼマリア専用の受付となったために、美人のイザベルに受付をしてほしくて訪れる冒険者が来れなくなり、他の受付が忙しい中ゆっくりと事務仕事ができるようになっていたのだ。
《ほぼ》という事になっているのはマリアはドレスを着ているしどこから見ても貴族令嬢なのだが、エンリエット家は没落しているため位は平民である。
そのためマリアよりくらいの高い貴族の依頼はマリアよりも優先して受付をしなければいけない。なのでマリア専用受付はうたえないのだった。
「まあマリアのおかげで面倒な冒険者の相手をしなくていいし、空いているからお貴族様が来た時には優先的に来てくれそうだから願ったり叶ったりなんだけどね」
イザベルがそう言ってウインクをすると、マリアは口もとに手を当てて上品に笑った。
周りの受付に冒険者が行列を作る中、マリアとイザベルはそのままゆっくりと話を続けるのだった。
「そういえばあんた今日はダンジョンに行くの? この前のでまだお金は沢山持ってるでしょ?」
「はい。でもお洋服とか買いたいものが沢山ありますから今日は1人で行ってみようと思っているのですわ」
「あんたの服はお金かかりそうだもんねぇ。それじゃ、準備してくるからちょっと待ってなさい」
イザベルは席を立つと、マジックバッグを持って受付の外へと出てきた。
そしてマリアの腰にベルトをつけて昨日買ったメイスを装備させてくれる。
「よし、それじゃ、魔物を倒したらここに入れるのよ」
最後にウエストポーチ型のマジックバッグを腰に巻いてポンと叩いた。
「分かりましたわ!」
マジックバッグはマリアの物ではなく冒険者ギルドからの貸し出しだ。
普通は行っていないが、マリアに対しての特別な処置である。
ゴブリンはたまに持っている武器が木製ではなく金属製なら鋳潰して金になるが、それ以外は素材としての旨みはない魔物だ。
なので討伐証明があれば間引いて脅威を防いだとして報奨金が払われるのだが、ダンジョンは奥へ進むほど素材としての価値がある魔物もいる。
前回のロックタイタンなどは使える部位が多く高値で取引される魔物だ。
なので単独でロックタイタンを倒せるマリアは価値のある魔物を持ち帰ることが予想され、価値のある物を教えたり、討伐証明部位の解体の仕方などを教えたりするよりも全部持ち帰って来てもらい、冒険者ギルド側が仕分けから換金まで全て請け負うという処置が取られる事になったのだ。
その作業を担当するのがイザベル。つまり専属受付嬢である。
とはいえイザベルが魔物を解体したりするわけではなく、解体をする職員の所へマジックバッグごと持って行ったりするサポート役だが。
「それでは行ってまいりますわ!」
「危ないとこまでいくんじゃないわよ? 戻ってこなかったら昨日の約束果たせないんだからね?」
「分かってますわ! 絶対に帰ってきますわ!」
昨日の約束というのはまたお茶しにお出かけするというものだ。
イザベルに見送られ、マリアは元気よく手を振って、冒険者ギルドを出てダンジョンへ向かうのであった。




