第12話 ゴブリン調査先遣隊5
討伐証明や素材の回収を後から来た騎士や冒険者に任せて、マリア、ギルバート、シュピーゲンの3人は先に冒険者ギルドに戻ってきた。
「あのう、私は手伝わなくてよかったのでしょうか?」
「ああ。今回の件は大事だったからな、無くなってホッとしたやつ半分、功績や稼ぎが無くなってフラストレーションが溜まってるやつが半分ってところだろう。だから後処理を依頼して飲み代になるくらいの小遣いを渡す。そうする事でやっかみによるトラブルをなるだけ減らすのさ」
「後で文句を言う輩がいても、金を受け取って騒いだ後なら笑い物になるだけですからね」
「そういうものなのですね」
ギルバートとシュピーゲンに教えられて、マリアは任せて帰る事に納得した。
冒険者ギルドに帰ってくると、マリアは2人に連れられて支部長室へやって来た。
普通の冒険者は支部長室に入ることなどそうそう無く、緊張して紅茶に手をつける者などいないのだが、そんな事を知らないマリアは出された紅茶を美味しそうに飲んでいる。
「あら、昨日のよりも香りがしっかりしていますわね」
普段手をつけられない紅茶は出涸らしで色をつけた物なのだが、昨日それを指摘され冷汗をかいた支部長秘書が今日はちゃんとした物を出した。
それに気づいたマリアを見て支部長秘書は胸を撫で下ろしている。
優雅に紅茶を楽しむマリアの隣では、支部長にギルバート、シュピーゲンが起こった事を報告していた。
「な、そんな場所にロックタイタンが? 確かにタイタンは大喰らいな魔物のではあるがゴブリンの増殖に釣られて登ってきたのか?」
「わからないが、多分そうなんだろうな」
「もうその脅威も去った後ですしね」
3人は揃ってマリアの方を見て苦笑いを浮かべる。その脅威をこのお嬢様が1人で解決してしまったというのは冗談のようなできごとなのである。
ギルバートという信頼に足る冒険者の証言でなければ鼻で笑い飛ばし、更にでかい脅威を想像してダンジョンの捜索を継続していた事であろう。
「まあ、なんにせよこの件はこれで終了だ。それより支部長、私はマリア嬢をヒーラーとして紹介されたのだが?」
「なに?」
ギルバートの苦情を聞いた支部長が眉をピクリと動かした。
「不良冒険者に言われた事を信じてらしたみたいだ。それがそのまま受付に伝わってヒーラーとして紹介された。問題じゃないか?」
「それは……」
支部長は言葉を詰まらせて冷汗を流す。
ゴブリン増殖の件が急ぎだったために気づいていながら後回しにしていたのだ。
マリアは駆け出しの冒険者であるし、今回の件が終わるまではダンジョンに入らないとも思っていた。
「魔法が使えなくても人を癒す事ができると唆されてダンジョンへ連れ込まれたようだが?」
「なんですと!」
それまで静かに話を聞いていたシュピーゲンが机を勢いよく叩いて立ち上がった。
その後にマリアは驚いて紅茶を飲む手を止めてシュピーゲンの方を見る。
「マリア様を騙すなど言語道断! その冒険者、タダでは済まされない!」
「落ち着いてください」
「落ち着いてなどいられるか! これは私が尊敬するエンリエットに対しての侮辱! 許したとあってはこのシュピーゲン、ゲイン様に顔向けできません!」
ゲインというのはマリアの父、元エンリエット伯爵の事である。
「シュピーゲンさん落ち着いてくださいませ。私確かに騙されていたようですが、怒っておりません。あの方達がいたから私は冒険者という職につけたのですわ。ヒーラーというのにはなれなかったですけど、冒険者はできそうですから感謝いているくらいですわ」
『癒す』の意味を理解していないマリアは笑ってそう話すが、シュピーゲンはそういう訳にはいかず、支部長を睨んだ。
しかし、シュピーゲン自らマリアに『癒す』の意味を教えるのは憚られるため、一旦矛を収めるが、後にマリアを拐かそうとした冒険者達は指名手配をされるのであった。
◆◇
「シュピーゲン騎士団が戻ってきたか。これだけ早いところを見るとゴブリン増殖はガセネタだったようだな」
「それが、冒険者ギルドから報酬がしっかりと収められているようでして……」
「それでこの早さだと? 被害は?」
「ゼロとのことです……」
「なに! ゴブリン増殖で被害ゼロとはどういう事だ⁉︎」
報告しにきた部下を怒鳴りつけたのはポルニッカ伯爵。裏で手を回してエンリエット家を没落させた政敵である。
今回も、エンリエット派と呼ばれる派閥の中でエンリエット再興を目指す貴族の筆頭で、エンリエット騎士団の団長を引き継いだシュピーゲン子爵の力を削ぐためにゴブリン増殖の依頼を任せたのであった。
ゴブリン増殖が起こっていたならば騎士団といえど被害はでる。
団員が減って自分の息がかかった団員を潜り込ませればよし、あわよくばシュピーゲルがいなくなればなどとも考えていた。
「それが、はっきりした事は分かりませんがタイタンが出ていたという話も……」
「なら尚更被害なしではおかしいではないか! くそ! 被害なしで功績だけくれてやったなどと……ええい! 詳しく調べてくるのだ!」
「は、はいぃ!」
ポルニッカ伯爵に怒鳴られた部下は急いで部屋を出ていく。
「この椅子は私のものだ。エンリエットなどという老害に返すものか」
部下を見送ったポルニッカ伯爵は、歯軋りをしながらどこかへ向かうのであった。




