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転生悪役令嬢の生存作戦  作者: 芹屋碧
1章 転生悪役令嬢は思い出す【2学年】
7/43

7…接触













 王都に魔獣が出現した事件は瞬く間に新聞や噂で王国中に知れ渡った。




 あの後、ハリアスが調査用に数十名の騎士団を動員して調査を行ったようなのだが、何故ワープホールが現れたのかは全くわからなかったらしい。









 5月の長期休暇前の週に学園の期末試験の結果が張り出された。


 5月の試験は一般教養科目の筆記試験のみとなっており、全ての学科の生徒446名の総合成績で発表される。




 学園は【魔法科】88名【騎士科】141名【普通科】217名の3つの科に分かれており、セシリアとアイは【魔法科】、ハリアスとリュシードは【騎士科】である。



 今回の試験結果はセシリアとハリアスが同点の満点で1位、アイは入学したばかりであったため不参加で、リュシードは173位という結果であった。


 ハリアスとセシリアの優秀さは以前から全校生徒に周知されていた。


 昨年5月の総合成績発表でハリアス1位セシリア2位であったからである。


 高位の身分と、婚約者同士である2人が上位であった為、注目されるのは当然だったのだろう。


 今回は同得点ということで、学生たちはより一層2人を羨望の眼差しで見つめるのであった。










 6月からの長期休暇は、ほとんどの生徒が寮から自領へ戻って休暇を楽しむらしい。




 バトネ公爵家の邸は王都から馬車で1時間もかからない距離であったため、長期帰省する必要性はないのだが、この長期休暇には大切な仕事が待っている。




 【魔神グリムディアの石碑】の定期調査だ。




 年に一度この時期に、守り人のバトネ一族は封印に問題がないか細かいチェックと周辺状況の把握を行っている。



 声に出しては言えないが、王宮からも精鋭の騎士や魔法使いを借りて調査しているにも拘わらず、着実にグリムディアの封印は解け始めている。




 石碑は王都東側のバトネ領のモラン山の山頂に存在している。




 伝承によると、石碑のある場所がグリムディアを封印するために行われた最終決戦の場所だったのだという。



 その封印を行った当時の王太子の側近であったバトネ公爵が守り人として叙任され、現在にも受け継がれている。 








 アイはローランド大教会の神殿で、聖女として活動するため長期休暇中色々学ばないとならないらしい。



 セシリアの帰省を永遠の別れかのように悲しみ涙ぐみながら見送られた。



 ハリアスは魔獣の調査の影響であれから会えていない。







 「ハリアス・・大丈夫かしら・・」


 ぽつりと無意識に言葉を出していた。




 「――まぁ!お嬢様もやっと王太子殿下の身を案じられるようになったのですね♡」


 バトネ邸の自室で帰省直後のんびりと過ごしていたセシリアに、侍女は嬉しそうに声を弾ませている。




 「――当たり前でしょう!魔獣が現れるはずのない王都のど真ん中で突然現れたのよ?


 私やお父様なら問題ないでしょうけれど、トレブルシャートは大型の高ランク魔獣なの。


 もし何体も現れたら大変なことになるでしょう。


 案じるのは守り人として当然のことよ!!」




 「――左様でございますか。それでも王太子殿下を案じられる御心は婚約者として素晴らしいですわ♪」




 「・・・」


 全く動じない侍女には何を反論しても都合よく解釈されそうだと察したセシリアは、嘆息して明日からのモラン山周辺調査の準備に取り掛かるのであった。 





 ***





 バトネ公爵家の人間だけでなく、縁戚からも優秀な騎士や魔法使いを集めてバトネ公爵率いる調査団は結成されている。


 勿論筆頭は守り人である父であるが、次期守り人であるセシリアも守り人見習いとして父に同行している。



 これまでは危ないからと石碑の近くには寄らせてもらえなかったのだが、何故か今回から父と石碑の調査をできることになった。



 恐らくまだグリムディアはセシリアに憑依するほどの力は有していないはず。



 不安は拭い切れはしなかったが、自分が執着や独占欲に支配されてなどいない自信があったので【行かない】という選択肢はなかった。




 「――これがグリムディアの石碑だ・・。セシリアよ、何か感じるか?」


 父は感情の籠らない声音でセシリアに問う。




 じっと見つめる石碑はただの意思の塊にも見える。


 何か文字が刻まれているようだが自分には読めなかった。


 


 ――やっぱりまだ今の時点ではグリムディアを感じることはできないのかしら?



 「――いいえ。特に感じません。」



 「そうか・・。」


 セシリアの返事に何故かバトネ公爵は安堵しているように見えるのはなぜだろう?






 何の反応もない石碑を一瞥すると、その場を離れようと動こうとした瞬間パッとあたりが暗転する。




 「――な?!何?!お父様?!・・お父様!!」


 真っ暗な闇の中、誰の声も聞こえない。存在も感じない。



 ただただ嫌な予感だけが頭の中を占めていく。





 ーーーま・・まさか・・




 「・・魔神・・グリムディア?」




 《――おや?よく我のことがわかったのう?》


 熱の籠らない声の主は間違いなく魔神グリムディアなのだろう。



 復活できていないハズなのにものすごい魔力のプレッシャーを痛いほどに感じる。




 もし私ではないセシリアがここにきていたら非常にまずい状況になっていたのでは?



 恐らく18歳を待たずしてきっと憑依されていてもおかしくなかったかもしれないと察する。




 「――ここはどこですか!」


 惑わされないよう冷静に問う。




 《ほう?・・なかなか肝がすわっておるのう?我を感じて竦まずにいられた人間はお前が初めてかもしれんな。》




 「何の話ですか!」



 

 《――お前はネフレテに選ばれたものであろう?



何度も我のところにお前たちを差し向けるアイツはどうしようもないが、そこまで多くの魂を無駄にしてまでこの地上を守ろうとするとは・・


 ――嘆かわしいものよ。・・まぁ、そこも愛おしいのだがな。》


 恐らくネフレテとは女神のことで、姿は見えないのに明らかに女神ネフレテへの執着心むき出しの愛情がビシバシと伝わってくる。





 ――しかしお前たちとは?父のことを言っているのだろうか?


 でも父は生きている・・




 「お前たちというのは誰のことを言っているの?


 300年の間に守人を何人も葬ってきたとでも言いたいの?!」




 《―――お前何を意味の分からぬことをほざいておる?


 何回もお前が我に挑んできたのではないか。ネフレテの刺客としてな。》




 「――は?!意味の分からないことを言わないで!!私は魔神(あなた)とは初めて今話すのよ!!」





 《・・・全く・・ネフレテにも困ったものだ。


 刺客を育てもせずに我に寄越すとはのう。


 それともそうせざる負えない程疲弊しきっておるのか?ネフレテよ・・ふふふ。》




 もう魔神グリムディアが何が言いたいのか理解ができない。


 姿かたちは見えないのに、彼の感情や表情は不思議と感じ取れる。



 明らかにネフレテに対して呆れているのに狂おしいほどに愛おしいという歪んだ感情がセシリアを支配しようとしてくるのだから。




 《――ふむ。私の魔力をここまで感じ取ってもまだまともでいられるとは・・なかなか良い器のようだな?


 暇つぶしもかねて少しだけお前の疑問に答えてやろう。


 お前はネフレテによってこの地に引き寄せられた魂の1つだ。


 我はこれまで幾度となくその体に宿った魂たちと接触させられてきた。


 ――――まぁ、皆我に器を運んできただけで、すぐ消え去ったがな。ふふ》




 まさか魔神グリムディアは小説の中のセシリアに、私が転生したことをわかっているということ?!



 幾つもの魂ということは・・・・・まさかこの出会いは繰り返されている??



 ―――意味が分からない・・




 《まぁ、お前は良い迷惑だったであろう。我とネフレテの痴話喧嘩に巻き込まれたのだからな。


 ネフレテの力はかなり弱まっているようだが、お前は今までの中で一番器を美しく仕上げている。


 我はお前に褒美を与えたいくらい満足しておるぞ。》




 「勝手に憑依した気にならないで!この体はまだ私のものよ!


 なんで何人もの魂がセシリアに転生させられたのかはわからないけれど、女神様がそうすることが必要なことだったのであれば私は貴方が魔神だろうと屈しないわ!!」



 《神である我にまともに言い返すとは気に入った。


 元々お前から体を奪うのはまだ先のことだ。


 我に器を譲るその日までしっかり磨き続けるがよい。ふはははは》





 魔神グリムディアの声はそれを最後に存在も感じ取れなくなり気づくと石碑の前に佇んでいた。





 「――セシリア。もうよいか?そろそろ邸に戻ろう。」



 父はそう告げると調査団に召集をかけるのだった。







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