6…次期守り人の実力
「――とってもおいしかったです!すごいボリュームでしたね!」
レストランの食事は量がかなり多かったが、彩も鮮やかでセンスの良い盛り付けをされていてとても素晴らしかった。
セシリアはいつもお腹いっぱい食べるので量には大満足だ。
「すごく美味しそうに食べていたね。あの店は王都の街ではかなり人気なレストランらしくて、女性に特に人気なんだよ!」
「美味しかったので完食してしまって・・。はしたなくてごめんなさい。
すっごくデザートも美味しくて、人気なのも納得ですわ!」
他のレディたちは食事をシェアして食べていたようだが、セシリアはしっかり1人で完食していた。
「私は一緒に楽しく食事がしたかったから嬉しかったよ。リアが美味しそうに食べてくれる姿は私にとってはご褒美だな。――それじゃあ食後の散歩にでもご案内してよいかな?」
全く気にも留めず楽しんでくれるハリアスがいつもより饒舌に感じるのは気のせいだろうか。
さりげなく私の事を『ご褒美』扱いしてくれるので、調子に乗って更に舞い上がってしまいそうだ。
男女関係なく仲良くする同郷のアイと多く接するようになった影響もあるのだろうか。
王子と令嬢の距離感というよりも、今の2人の距離感はぴったり寄り添いあう仲睦まじいカップルに近いように思えてしまう。
「リアは元々他の令嬢とは違って自分の意思を強く持っているし行動力もあるよね。私の友人たちとはまた違うが、話していてすごく刺激をもらえているよ。――だけど、最近はアイ嬢の持っている世界観と少し似たものをリアからも感じるんだ。
嬉しく感じることもあるのだけど、――少し妬けてしまうことも・・ある」
ーーーどきっ!
彼の悩ましげな熱の籠った眼差しを向けられて途端に心臓が飛び跳ねる。
「――それは・・どういう部分がですか?」
『妬ける』とはいっても、雰囲気的に怒っているというより拗ねているように感じるが、ハリアスもアイの振る舞いに影響を受け始めているのか伝え方が随分率直すぎやしないだろうか。
「異性の距離感もだが・・アイ嬢との間に私が踏み込めない世界を感じる・・
なぜそう思うのかはわからないんだ。――だけど、君たちが意気投合する姿は信じられないくらい距離感が近いだろう?――・・5年以上共に過ごした私よりも・・」
(――やっぱり距離感かぁ・・・)
アイと毎日共に過ごすようになって、日本人だった頃の自分を懐かしく思い、ついついアイの言動に合わせることが増えていた。そのことでアイとの距離感がとれずハリアスは悩んでいるのだろうか。
どうやら思っていた以上に行動に出してしまっていたらしい。
――もしかしたら、それが原因でここ最近ずっとハリアスはアイに構って欲しくて喧嘩腰な接し方になっていたのだろうか。
とはいっても最近ではアイはリュシードと仲が良いので、同性であるセシリアにまで嫉妬心を露にすることもないのでは?と感じていた。
「・・ハリーは距離感が近いのは・・もしかして不快でしたか?」
べったりくっつくつもりはなかったのだが、もしかしたら行き過ぎたスキンシップをハリアスにまでしてしまっていたのかもしれない。
(――まさか・・ハリーとの仲も良好だから、私調子に乗りすぎてしまったの?!)
突然不安が押し寄せ少し離れるべきだろうかと思い、エスコートしてもらっていた腕から手を放そうと力を緩めた。
がしっ・・
離れかけた手が離れない様に、ハリアスは自分の手でセシリアの手を掴んで再び腕に絡ませる。
(―――え?)
「・・ハリー?」
状況が飲み込めず、不安げに視線が揺れるセシリアの瞳を熱の籠った眼差しでハリアスは見つめてくる。
「――放さないで。私はもっとリアに近づきたい。」
(――わ・私?!)
突然告げられるハリアスの真剣な言葉と眼差しに、セシリアの体は金縛りにあったかのように身動きできなくなってしまう。
数秒見つめあっただけなのに、時が止まってしまったかのように目が逸らせない。――彼の熱で溶かされてしまいそうなほど自分の顔が熱い。
アイの事を想っているのだとばかり思っていたのに、これではまるでセシリアを求めているようだ。
動揺しているセシリアを見て気分がよくなったのか、ハリアスは満足そうにセシリアの頬をそっと撫でた。
「私はリアには貴重な友人関係を大切にしてほしいと願っているよ。だけど、私のことも大切にして欲しい。――だって・・リアは私の婚約者だろう?」
乞うような瞳をセシリアに向けながら、頬を撫でていた指先はふにっとセシリアの唇に触れた。
まるで唇まで強請られているような仕草に、セシリアの胸の鼓動はありえない程に高鳴り動揺が隠せない。
お構いなしにハリアスの猛攻は続く。
「――最近の私はアイ嬢とリアの取り合いばかりだ。―――だから、これからはもう少し2人だけの時間を作りたい。よいだろう?」
甘えるような仕草に思わず陥落しかけ、自分を落ち着かせるためにも早く離れて欲しくてコクコクと頷きぎゅっと目を閉じてしまう。
今まででは考えられないハリアスのコロコロ変わる攻めの表情に、セシリアは完全に翻弄され続けている。
くすりと微笑み少しだけ距離が開いたのを感じてそっと目を開ける。
「あの・・・婚約者とはいっても、今までも友人のような関係でしたよね?今後も同じように接して言ったらよい・・のですよね?」
――これは恋心からくるものなはずがない。
ハリアスがいくら今アイ嬢と喧嘩が多かったとしても、セシリアに友人以上の好意を持ってくれているなんてこれまでの事を想い返すと想像もつかない。
小説では嫌われていたし、前世を思いだす前も友人として話をしている感覚でしかなかったのだから。
――しかしセシリアの言葉にハリアスは微笑んだまま肯定することはない。
「2人で過ごす時間は侍従に連絡させるからね」
ただハリアスはこれからを期待させるような甘い眼差しだけをセシリアに向けるのだった。
***
散歩していた公園は城下町のすぐそばにあり、ランチを終えた人々が散歩を楽しんだり芝生に寝転んで昼寝をしてやすんでいた。
遊歩道はそこまで混みあってはおらず、人々はのんびり散歩を楽しんでいるように見える。
芝生の広がる広場もあり、広場は学園の実技訓練場よりも2倍以上の広さがあった。
(――??!)
気持ちの良い風に身を委ねながら広場を眺めていると、突然大きな魔力反応が広場の中央から発せられ、セシリアは咄嗟に身構えた。
「――ハリー!!――魔獣です!!」
セシリアはすぐに戦闘態勢に入り、自分とハリアスに身体強化魔法を発動させる。
広場中央には魔獣が通過できるゲートが浮かび、禍々しい渦を巻いて今にも開こうとしていた。
「――まずいな・・このままでは王国民が多すぎて避難が間に合わない!」
ハリアスはギリっと強く拳を握りしめ、どうやって王国民を避難させるか逡巡している。
「任せてください!私がゲートが開くのを遅れさせます!まだ抑え込むことはできます。5分程度ですが、その間に避難指示をお願いします!」
「すまないが頼む!!私は王国民たちの避難を護衛たちにも急がせる!頼んでおいておかしいかもしれないが、無理はしないでほしい!」
すでに魔獣出現のゲートが開き始めていることに気づいた王国民たちが避難を始めているが、公園内にはまだ100人前後の人々が逃げまどっている。
ゲートをセシリアに任せると、高速移動魔法を使用して次々とハリアスは王国民を避難させる指示をて下しに向かった。
「――ハリー!!そろそろ限界です!ゲートが開きます!!」
「もうすぐ避難が完了する!もう少しだけ耐えれるかい?!」
「――お任せください!」
離れた場所から問うハリアスの言葉に、セシリアは不敵に微笑んだ。
――セシリアは次期守り人。
守り人は魔人を封印し続けるために、強い魔力と魔法スキルを必要とされる。その守り人の中でも最高の守り人になるだろうと期待されているのがセシリアだ。
魔獣の撃退など1人でもできて当然。
「――力試しさせてもらいましょうか!!」
セシリアは意気揚々と高らかに叫ぶと、さらにゲートの約50m範囲内をシールドで囲い込む。――多数魔獣が現れたとしても逃がさないようにするためである。
魔獣以外はシールドに侵入可能なのでハリアスは問題ないだろう。
ワープホールからは獣系魔獣のトレブルシャートが1体現れた。
3m以上はあるであろう4足歩行のネコ科のトレブルシャートは炎を尻尾に纏わせ大きな牙と爪でいつでも襲い掛かる気満々の様子。
(――1匹ならハリアス様のお手を煩わせる必要もないわ!!)
動きの速いトレブルシャートを即座に高速魔法で捕縛すると、セシリアは数秒ほどで氷魔法を発動させトレブルシャートを氷漬けにしてしまう。
その後水属性の魔法剣を出現させると冷気を剣に纏わせトレブルシャートを一突きし、氷漬けされた胴体は粉々に粉砕してしまった。
魔法と連動した攻撃は、トレブルシャートの反撃を許すことはなくあっさりと片付き、ゲートもその後セシリアの力のみで締めることに成功した。
ハリアスがセシリアの元に到着した時にはすでに魔獣の姿は跡形もなく、ゲートも消えていた。
「セシリア!!――魔獣は?!」
「ご安心ください!今回はトレブルシャート1体だけでしたので、先ほど粉砕致しました」
「――粉砕!?」
魔獣討伐時間は1分も経過していなかった。
驚愕するハリアスにセシリアは美しい令嬢らしい微笑みを浮かべている。
「はい。問題ございませんでした!王宮へ報告いたしますか?」
「――報告は私がするから大丈夫だが、先に馬車で話を聞かせてもらえるか?」
「承知いたしました。」
***
状況を公園の管理者に伝えると、帰りの馬車に乗り込んだ。
「――それで、一体どうやってそんなに素早く3m以上もする大きなトレブルシャートを倒したんだい?」
ハリアスは興味深々でセシリアに報告を求める。
「ワープホールからは1体しか出てきませんでしたので、すぐに魔獣本体に拘束魔法をかけまして、その後氷魔法で氷漬けにし、最後に水属性の魔法剣で攻撃して粉砕させました。」
流れるような回答であったが、その魔法のすべてが規格外であることをハリアスは理解している。
そもそも拘束魔法は、自分より強い敵を拘束することはできない。
その為、その時点で敵と自分の力の優劣は確認ができたわけだが、出現したトレブルシャートは3m以上の大きさの魔獣であった。
氷漬けにする為の魔力は、到底普通の魔法使いでは足りない。
高ランク魔法使いであっても、せいぜい直径2m前後の個体を氷漬けにできるかどうかという程度だ。
・・・3m以上の巨体の魔獣など、他の魔法使いには無理に決まっている。2人以上の連携魔法であれば凍らせることも可能かもしれないが・・
さらに最後は出現させることですら難しい魔法剣で、たった一突きで粉砕したというのだから脱帽するしかない。
炎の大剣で強引に叩き壊すなら可能かもしれないが、水属性魔法剣は細剣なのだ。1点集中で最大火力の魔力をぶつけなければ無理だろう。
・・・というか成功する人間がいるなど初めて聞いた。
それを1分以内で行うだなんて誰も想像できないだろう・・・。
「セシリア・・君の魔力はとんでもない量なのだと改めてわかったよ。私は魔法では君の足元にも及びそうにないな・・」
「ご謙遜を。私は相手の弱点を狙っただけですので、ハリアス様にもきっとできますわ♡」
(――――無理だっ!!!)
セシリアの言葉にハリアスは心の中で叫ぶのだった。




