4…目指せ!魔神グリムディアの再封印!
初顔合わせから1週間が過ぎて、セシリアは学園生活も問題なく遅れるようになってきていた。
ハリアスとアイとの関係は、しばらくは傍観して様子を見ることにしたのだけれど、状況は日に日に可笑しな方向に変わっていっている気がする。
普段穏やかで色気を無駄に振りまくハリアスが、アイと一緒に会話をしているとわざと私たちの間に入り込んで会話を中断させてくるのだ。
アイも私がハリアスと話をしていると、女同士でしかわからない会話を横入れして会話の邪魔をする。
学園ではハリアスとアイとリュシードの3人と最近はいつも共に行動しているので、周りは仲の良いグループと思ってくれているのか生暖かい目で見守られている。
「――セシリア~どうしても話したいことがあるんだけどちょっと良い?」
午前の授業も終わり、皆とカフェテリアへ行こうとすると、友人のディアが声をかけていた。
彼女は学園入学当初から仲良くしてきた友人の1人で、ディア・シュバルト伯爵令嬢。
仲は良いと思っていたのだけれど、アイと共に行動するようになってから、どうもアイの苦情を頻繁に告げてくる。
人の苦情なんて聞くに堪えないから最近はディアを鬱陶しく感じつつある・・。
「――ディアどうしたの?」
「――私我慢ならないのよ・・聖女様が学園に来てから、王太子殿下とセシリアの仲が良くないように見えるわ!――しかもこの間なんて、セシリアのいないところで文句まで言っていたのよ!私・・あの方には報復したほうが良いと思うの!」
(・・また始まった・・今日も穏やかじゃないわね。報復って・・)
セシリアはディアの言葉を否定せず頷きながら聞いていたが、さすがに見過ごすわけにはいかないと感じた。
「――ディア、貴女は誤解しているわ。聖女様はとても気さくで良い方なのよ。まだ15歳で、異なる世界からわざわざ来てくださったの。
文化の違いがあって当然だと思わない?」
「・・文化の違いですって?」
「そうよ。聖女様のお話だと、ニホンという国では男女問わず仲良くするのが当たり前だったらしいのよ。
私はそんな聖女様と異文化交流できてとても嬉しいわ。
もし聖女様が私の至らないところがあるのだとしたらしっかり受け止めなければならないと思っているの。
あとで話を聞いてみるから、ディアは誤解しないで頂戴ね?」
「・・・でも――」
「――淑女は大きい声で相手に報復したほうが良いなんて言うのは貴女のためにも良くないわ。
たとえ聖女様の世界がこちらと違う習慣があったとしても、まずは受け入れる姿勢でいましょう。
ディアならきっとできると私は信じているわ。」
明らかに文句が言いたいだけのように見えるディアに対し、被せるように【淑女】を盾にすればディアの強気な言葉も萎んでいく。
セシリアはタイミングを見計らって話を切り上げると、カフェテリアに向かうのだった。
――――チっ・・・
背後で小さく舌打ちの音が鳴ったことを、セシリアが気付くことはなかった。
***
「あ!セシリアこっちこっち~!!」
3人に遅れてカフェテリアに入ると、6人掛けテーブルからアイが立ち上がりぶんぶんとこちらに向かって手を可愛らしく振っている。
席に向かうとすでに3人は食事を始めていて、挨拶だけ軽く交わすと自分の食事をとりに向かう。
食事を乗せたトレーを以って席へ戻ると、すっとハリアスが立ち上がる。
自分の席の横の椅子を引いて「ここに座ると良いよ」と微笑みを浮かべて声をかけてくる。
躊躇うこともなくその席へ向かおうとした、――しかし、すぐにアイも立ち上がると「セシリアはこっちだよね?」とまた違う席を進めてくる。
席を進める2人は譲りあうことはなく、バチバチと火花を散らし睨みつつもセシリアを自分の勧める席へ座らせようと必死だ。
どうしたものかと苦笑いを浮かべて助けを求めるようにリュシードへ視線を向けるが、リュシードはすっと視線を敢えて逸らし自分は関係ないとばかりに食事を続ける。
彼の気まずそうな態度を見るに、恐らく私が来るまではハリアスとアイはリュシードで同じようなことをしていたのではないだろうか。――これ以上は勘弁してくれ。と言いたいような表情を隠せていない。
(・・・正直者ね・・リュシード・・)
リュシードの気持ちはわからなくはないが、現在進行形でターゲットにされている自分としては助けてくれないリュシードば恨めしくも思う。
(――この2人、なぜこんなにそりが合わないの?)
アイを紹介された日から思っている疑問が今もセシリアの頭の中に浮かんでいた。
小説の2人とは想像もできない変わりようだ・・
貴重な昼の休憩を、こんな言い合いで浪費するのは建設的ではない。
席は、なぜか1つ飛ばしで3人が席に座っていたので、折衷案としてハリアスとアイの間の椅子にセシリアは腰かけた。
何事もなかったかのように昼食を食べ始めると、言い合っていた2人は何とも言えない微妙な表情でこちらを見つめていた。
「――セシリア、そういえば明日は何か予定があるのかい?」
気を取り直したハリアスは椅子に腰かけると、魅惑のキラースマイルで食事をしているセシリアの顔を覗きこむ。
(―――――っうっ!!)
食事中に不意打ちのように突然目の前にとんでもなく美しい顔面を晒されたら驚かずにいられるわけがない。
思わず驚いて口からパスタが出そうになってしまうのを咄嗟に堪え、少しだけ視線を反らして直接的な被害を受けないように防いだ。
(全くもってハリアスの微笑みは、どんな令嬢でも一瞬で陥落させてしまう美しさだから洒落にならないのよ・・)
「――私は明日は特に出かける予定はございません。自宅で勉強や魔法の研究をしたいなと思っておりますわ」
「そうなんだね!それならちょうどよかった。明日城下町の視察に行こうと思っているんだ。セシリアも一緒に行こう」
「な・・何言ってるんですか?!殿下はお忙しいはずですよね?行く暇なんてないでしょう?!」
(――・・アイ・・突然王太子の言葉に横槍入れるのは不敬なのよ・・・)
いかに階級関係なく交流を持つことが許されている学園内だからと言って、王太子相手にしてよい振る舞いではなかった。
不意に攻めこんだ顔面攻撃は、どうやら視察の同行のお誘いのためだったらしい。
突然のお誘いに驚いたのも束の間、アイの不敬な横槍でそれどころではなくなっていた。
「――アイ嬢は気にしなくてよいことだよ。――確かに今までは公務になれないといけなかったから多忙な日々を送っていたけれど、ここ最近は慣れてきたから視察する余力も生まれたんだよ。だからセシリアは何も気にせず安心して同行してよいのだからね」
不敬であることは口にせず、ぴしゃりと『お前は関係ない』とアイを牽制し、セシリアへニコリと微笑みを浮かべて視察の動向を確定にしてしまった。
セシリアにとって用事がなくとも、勉強も魔法の研究も趣味の一環なのである。
本当であれば用事という括りにしてお断りしたいところなのだが、恐らくそれを理由に『行かない』は許可されないだろうと空気を読み了承するしかないのだった。
***
女子寮へ戻ったセシリアは、自室でこれからの事を勉強机に向かいながら考えていた。
アイがこの世界にやってきてからまだ1週間ほど。
3人の仲はなんだかんだありつつも良好と言えるのではないだろうか。――リュシードもいてくれるので、アイもひどいホームシックに悩まされずに済んでいるように思える。
明らかに小説『愛の行方』とはキャラクタ―達の状況が変わっていた。
メインキャラクタ―達の現状があまりにもかけ離れているのは、彼らの成長がの度が早いことも言えるだろう。
(――特にセシリアだ!)
魔法も座学の勉強も嫌いだった小説のセシリアとは異なり、自慢ではないが学園内でセシリアは魔法も運動も成績も入学してからずっと学年5位以内を維持している。
小説では甘えん坊でいつもハリアスを頼っていたアイも、生真面目なリュシードのサポートのおかげできちんと勉強も魔法も学んでいるし実技訓練もしているようだ。――聖女の力もかなり上がってきていると、ハリアスもホッとしていた。
(――これは期待せずにはいられないでしょ!!――友情エンド!)
セシリアは一人椅子に腰かけながらどや顔である。
魔神グリムディアがどこまで復活しているのかはわからないが、セシリアがアイに憎しみを抱かなければ、――もしくは3人で協力しあうことができれば――魔神グリムディアを封印も可能な気がする。
セシリアにできるのは、ハリアスとアイのサポートを全力でできるように、仲良くなって自身の能力も高めることだけだ。
小説の強制力が存在するのかはわからない。――それでも、今の現状は明らかにセシリアにとって希望を見いだせるだけの良い状況であった。
(――やってみせるわ!!魔神の再封印!!そして友情エンドよ!!)




