3…あれ?やっぱりなんか違う?
あれから考えすぎて疲れたセシリアは知らぬ間に二度寝をしていたようだ。
再び、目を覚ました時には窓の外の空は赤らんでいた。
ベルを鳴らして侍女を呼ぶと、聖女が降臨して自分が倒れてから、3日も昏睡状態であったことを知らされた。
(―――3日ですって??!)
そんなに寝続けたことなどなかったセシリアは驚愕した。
目覚めたという報告は父だけでなく王宮にまで伝わり、翌日には王太子が聖女と共に見舞いに訪れたいと先振れを出してきたらしい。
本当であれば、セシリアは聖女が降臨した日に次期守り人として聖女と挨拶をしなければならなかった。――それなのに、セシリアが気絶てしまったのでなるべく早く顔合わせさせたいとハリアスは思ったのだろう。
なんといっても万が一魔神が復活した場合は、ハリアスと聖女と守り人が協力して封印の儀を行わなければならないからだ。
(・・とはいっても早急過ぎなんじゃないかしら?)
目覚めてすぐに対面することになるとは思っていなかったセシリアは変な汗が止まらない。
不整脈のようにどくどくと鼓動が早くなる。
(・・・大丈夫・・・きっと大丈夫・・・)
目覚めてすぐに殺されるわけではない。たとえ3年後自分を殺そうとしてくる者たちであっても今は違うのだ。
バトネ家の談話室の前で、自分自身を幾度となく励ましつづけた。
セシリアはようやく覚悟を決めると、2人と対面すべく部屋に足を踏み入れるのだった。
すでに談話室のソファには聖女とハリアスが向かい合って座っていた。
ハリアスの斜め後ろには側近である護衛のリュシードも控えている。
「セシリア!――久しぶりだね!さぁこちらにおいで!」
ハリアスはセシリアの姿に気が付くと、満面の笑みで立ち上がって横に座るように促した。
(――え?ハリアス様の横に、私が座っていいの?)
正直ないがしろに扱われてもおかしくないと身構えていたセシリアは目が点である。
ハリアスと聖女の初顔合わせから3日以上たっているので、すでに2人に恋心が生まれていても仕方ないとセシリアは覚悟していたのだ。
「――セシリア、体調は大丈夫かい?倒れた時はいてもたってもいられない位心配したんだよ?」
「ご心配お掛けして申し訳ございません。もう問題ございませんのでお気になさらず。」
ハリアスは眦を赤く染め熱の籠った眼差しで眉を下げ、あたかも本気で溺愛し心配していたかのように振舞う。――しかもセシリアの腰にさりげなく腕を回し、腰かけた距離を少しでも近づけようとしている。
(―――なになになに?!!くっつかないで!!)
セシリアは意味が分からない。
心の動揺を悟られぬよう淡々とした受け答えで冷静さを装いながらも、距離を取ろうと必死に努めた。
「あの・・――ハリアス様。どうかあちらの方をご紹介いただけないでしょうか?」
何とか早く話題を変えようとほんの少しだけ距離をとってから、聖女を紹介してくれるようハリアスに願い出た。
「――これは失礼。
彼女は異世界の二ホンと呼ばれる国から来てくれたアイ・ミシマだよ。
聖女の能力ありという事がわかって、今王宮と神殿を行き来しながら生活に慣れていって貰っている所なんだ。
そしてこちらは私の婚約者、セシリア・バトネ公爵令嬢だよ。実は次期魔神グリムディアの封印の石碑の守り人として期待されている優秀なレディなんだ。
文武両道で魔法は最高ランクだ。しかも思慮深く身分関係なく誰にでも優しく振舞える素晴らしい女性で――――。」
「――ハリアス様!ご紹介ありがとうございます
聖女様、私の事はセシリアと呼んでくださって構いませんわ!聖女様とお知り合いになれてとても光栄です。」
ハリアスが物凄い勢いでセシリアの事を褒め始めたので羞恥に耐えきれず、彼の言葉に被せて遮った。
「私こそ、ここに来てから初めての同じ齢の女の子を紹介してもらったからすっごく嬉しい!私の事はアイって呼んでね!私はセシリアって呼ぶ!」
(わ・・・若い!!日本の女子高生はやっぱりすぐタメ口で話せるノリよい子多いよね・・ただこの世界では異様かもしれないけれど・・)
「ありがとう!それならアイと呼ばせてもらうわね!」
苦笑いしつつも、日本であれば大した違和感もないことだと自分を納得させてこちらもフレンドリーに接することを試みる。
ハリアスはまさかここまで話が和やかに進むと思っていなかったのか、何か違和感を感じているのかわからないが、終始怪訝そうな目で私たちを見つめている。
「二人は初めてあったとは思えない程打ち解けるのが早いね!なんだか妬いてしまうな」
(―――妬く?!・・・まさかやっぱりもう2人はそういう仲なの?!)
セシリアはハリアスの言葉を聞き漏らさなかった。
(――そんなに聖女のことが心配なら、連れてこなければよかったのに・・・)
表情はそのままに、先ほどまでの緊張と一変して気持ちは少しだけ沈み込む。
ヒロインとヒーローが結ばれることが決まっているとわかってはいても、婚約当初からずっと仲良く過ごしてきた相手だったからこそ、恋慕を抱いていなくても少しだけ疎外感を感じて辛い・・セシリアはそう感じずにいられなかった。
「――そういえばセシリアはいつから学校には通えそうなんだい?」
「私は明日から登校いたしますわ。
ですがしばらくは自宅通学する予定です。3日も寝込むのは初めてでしたので、父が心配しているのです。」
「――そうなのか・・時間があるなら後れを取っている授業の分を放課後一緒に図書館で教えてあげたいと思ったのだが、自宅通学だと遅くまで学校には残れないよね・・残念だな。」
「気にしてくださってありがとうございます!それよりも、学院に入学されて間もないアイに付き添ってあげた方が良いのでは?」
セシリアは思わず【ハリアスは聖女の面倒を見てあげたら良いのに】と嫌味っぽく言ってしまったことに後悔する。
今までは二人で過ごすことは空気のように軽くて、居心地のよさすら感じていたというのに、今はなぜかむしゃくしゃして何か言われたらすぐにでも喧嘩を売ってしまいそうな自分怖い。
「それなら心配無用だよ!今はしっかりリュシードがアイ嬢の為にサポートしているからね!」
「え??リュシード様が??」
想定外のハリアスの言葉に、思わずセシリアは素っ頓狂な声を出してしまう。
「そうなんです!リュシードが親身になってこの3日間いつも様々なことを教えてくれたから、毎日がとっても楽しいです!」
アイはとても嬉しそうに報告してくる。
後ろに控えているリュシードを振り返れば少し耳が赤いように見えるのは気のせいだろうか。
セシリアは信じられないものを見てしまったかのように唖然としてしまう。
「――セシリア?」
セシリアの様子がおかしいこと言気付き、身を案じるようにアイは声をかけた。
「――ご・・ごめんなさい!リュシードとアイは仲良しだったのね!素敵ね!」
セシリアは思わず固まっていた自身を叱咤し、笑顔でアイに返事を返した。
小説では確かに聖女が現れた時ハリアスのそばに護衛がついてはいたけれど、その護衛がリュシードだったということだろか。
リュシードがアイの世話役になっているという場面は描写されてはいなかったはず。
(―――小説なのにリュシードルートなんてあるの?)
彼等を見る限り明らかに好意を隠していない雰囲気に、違和感しか感じない。
セシリアの混乱はその日1日彼らが返った後もずっと続いたのだった。




