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転生悪役令嬢の生存作戦  作者: 芹屋碧
1章 転生悪役令嬢は思い出す【2学年】
2/43

2…小説との食い違い


 『助けて・・・・貴女しか・・・貴女しか・・・・で・・いから・・』


 遠くから光に包まれた誰かが私に切なる想いを伝えているように感じた。



 (――あなたは誰??・・・何故私を呼ぶの??)






 ***






 ――目覚めるといつもの見慣れた自分の部屋の天蓋だった。


 なんだかすごく不思議な感覚がする。

 眠っていた時に誰かに何かを頼まれたような気がしたのに夢だからか殆ど思い出せない。


 セシリアは逡巡しても何も思いだせないので、そのうちまた思い出すだろうと夢の内容を無理に思い出そうとするのを諦めた。



 「それにしても、凄く豪華な部屋だわ・・・いつもの自分の部屋なのに、いつもの自分の部屋じゃないみたいね」



 両親である公爵が聞いたら頭がおかしくなったのかと心配されるのだろう。――だが、全くもってセシリアは頭はおかしくなっていない。


 ・・・むしろ前世の記憶を思い出したことで頭がすっきりしていた。





 ――ここは【愛の行方】という小説と同じ、もしくは似た世界。


 ヒロインは突然日本から異世界召喚された日本人【三嶋愛】。そして、彼女の相手役のヒーローはなんとハリアス・ローランド。



 ―――セシリア・バトネの婚約者である。



 そして、ラスボスは、――セシリア・バトネ・・・私だ。



 (な・・なんで?なんでぇぇぇぇぇぇえ?!)



 セシリアは顔面蒼白になりながらも、大声を出さないように心の声で絶叫した。

 ただでさえ気絶していて心配を変えているというのに、目を覚まして絶叫するセシリアを見たら皆驚愕するはずだ。

 

 ――しかし、セシリアは周りへの気遣いは声を抑えることくらいで、到底それ以外の事を気遣う余裕などありはしなかった。



 (――私はそんなに前世で徳を積んでこなかったの?

 28歳まで独身だったのがいけなかったの??

 社畜でまともな生活をしてこなかったのがいけない???

 それとも自堕落な生活だったのがいけないの????)



 まだ15年しか生きていないというのに、あと3年でラスボスとなって死ななきゃいけないだなんて受け入れられるわけがない。



 前世、がむしゃらにブラック企業に勤め残業当たり前の生活をしていた。

 私の唯一の楽しみは、家に帰る途中や帰宅後の時間で大好きなロマンスファンタジー小説を読み漁ることだった。



 (――・・だって・・それしかストレス解消できるものがなかったのよ・・)



 毎日毎日くたくたで帰宅すると、お風呂に入ってご飯を食べたらもう1時過ぎていて、朝は6時には起きないと仕事の準備が間に合わない。

 それでも小説がどうしても読みたくて、時には徹夜で読み明かすことも多々あったのだ。


 その生活も何とかなっていたはずなのに、どうやら何とかなってはくれなかったようだ。

 【愛の行方】のラスボスを倒したあたりまで読んで、それ以降の記憶がない。



 恐らくその後を読む前に、私は過労か何かでそのまま死んでしまったのだろう。



 小説の展開ならば、ラスボスを倒せたのだから、きっとヒロインとヒーローが結婚して、めでたしめでたしで終わりだったのだろう。――しかし、なんだかスッキリしないストーリーだったことは覚えている。


 ラスボスであるセシリアは倒したからと言って、魔神であるグリムディアはどうやって封印したのだろうか。



 魔神グリムディアの強さはセシリアの比ではない。

 たとえ魔神グリムディアが憑依しているセシリアを倒したとしても、魔神グリムディアがそれで簡単にヒロインたちに封印されるとは到底思えない。





 ――ヒロインは15歳の幼い高校1年生。

 余程早熟でない限り、突然異世界に飛ばされて平気でいられるわけないのは理解できる。



 (――それにしてもヒロインは甘えん坊な性格していたような気がするのよね・・・)



 そう思ってしまうのは仕方ないと思う。


 ヒロインはいつもハリアスにおんぶにだっこで、ラスボスであるセシリアと対峙する時になってやっと現実と向き合えるようになるのだ。



 (――3年もの間おんぶにだっこって・・甘やかされ過ぎでしょう)



 自分から見たら、かなりの甘えん坊にしか思えない。

 ラスボスと対峙するまでは、ヒロインはすぐ泣く・・すぐ頼る。――自分で決めて行動するようなタイプではなかった。



 前世の私は、やりたいと思ったことは自分でやらないと気が済まない質だった。誰かに頼るなんて情けなくって死ぬほど嫌だったのである。



 (――今思えば、頼らなすぎもどうかと思うけど・・ね)



 好きな相手とは対等でいたいと思ってしまうちょぉーっと強気な性格だったのだ。――よくよく思い返すと、今世もその通りな生活を送っているような気がする。



 ラスボスはセシリア・バトネであり、なんと18歳には魔神グリムディアに体を乗っ取られて魔人化してしまい、婚約者であるハリアスと愛に人類を救うために殺されてしまう。



 私は今、ヒロインと同じ15歳・・・あと3年後には魔神に乗っ取られてしまう運命。



 (――死ぬ未来がわかってしまったら何もかもやってられないわ・・)



 自暴自棄になってもおかしくないはずだと自分自身を慰めた。



 (――シニタクナイ・・・)



 今の人生かなり気に入っていて毎日がとっても楽しいと思えた。――やったことが評価としてしっかり返ってきたからだ。


 転生した自分が高貴な身分故という事は理解している。

 魔法は新しい魔法を覚える度に魔力も上がっていくのが感覚でもわかった。勉強も楽しくて仕方ない。

 掲示板に張り出される順位表を見るたびにゾクゾクするほど興奮してしまう。

 婚約者とも適切な関係だし自由も満喫できていて、こんな幸せな環境初めてなのだ。


 いずれ政略結婚でハリアスと結婚となっても、お互いに同志として協力し合って生きていくのはやぶさかではないと思えていた。



 それなのに、何故魔人になって3年後あっけなく殺されなければならないなんて納得できない。





 セシリア・バトネは、魔神グリムディアの封印されている石碑の守り人の一族である。


 300年前にも魔神グリムディアが復活しそうになった時に、バトネのご先祖様がその時の王太子殿下と共に力を合わせて封印したのだという。――その時は、聖女はいなかったらしい。


 今はお父様が封印した石碑の守り人をしている。


 18歳にはセシリアが『守り人』の役目を受け継ぐことになっている。


 残念ながら守り人となるべく魔神グリムディアの石碑に近寄った際に、アイへの憎しみの心に支配されつつあったセシリアはあっさりとその負の感情で魔人グリムディアを引き寄せ憑依されてしまうのだが。




 ―――――はぁぁぁぁぁ・・・


 セシリアは何度目かわからない深い溜息を吐き出した。

 逃れようのない人生を呪うしかなかった。



 守り人にならなければ死なないかもしれないが、守り人がいなくなって魔神が復活すれば、この世界はおしまいだろう。


 そんな自分勝手な行動は流石に今のセシリアにはできそうもない



 ――しかし、今も着々と魔神グリムディアは復活すべく封印を少しずつ解いている。

 魔神グリムディアはセシリアに憑依したあと石碑を自らの力で破壊して完全復活し、異様な程に執愛する姉、女神ネフレテを人間から引き離し自分だけのものにしようと、ヤンデレ計画を立てている。


 この世界唯一の2人の神は、女神は生きとし生けるものを博愛し、男神は博愛する女神の愛の対象を自分以外滅亡させようとしていた。


 ―――その大迷惑な男神が魔神グリムディアである。



 嫉妬心や執着心、独占欲が強い人間は、魔神グリムディアと心が繋がりやすいようで、そこに付け込まれたのがセシリアなのだ。



 セシリアは、ハリアスと(聖女)が仲睦まじい姿を何度も何度も見せつけられて嫉妬深くなっていく。――時には(聖女)をいじめたり、時にはハリアスに媚薬を盛って既成事実で婚姻を急かそうとしたり――。


 わかりやすくヤンデレ路線へと突っ走っていくのだ。



 (―――正直小説の中のセシリアであれば憑依されやすくて当然だと思う)



 前世の自分であれば、絶対にセシリアの前で他の女といちゃつきまくる婚約者(ハリアス)なんて願い下げだ。

 嫉妬してる暇があるなら魔法の訓練したり、知識を磨いたり、領の政務を学んだ方がずーーーっと有益だと思える。



 (・・・・・ん?)



 憤慨しつつもセシリアははたと思い至る。



 (――今のセシリアと、小説のセシリア・・・性格が全然違うのでは?)



 ふと頭の中によぎった違和感に、セシリアは頭をフル回転で働かせた。


 ――まず、小説のセシリアは、ストーリー開始直後の15歳の時点ですでに出来上がった美少女であった。


 背丈は165cm(セエンチメートル)と、平均的な令嬢の背丈より少しだけ高かった。そして、15歳とは思えない発育の良い胸とスタイルに自信を持っていた。

 髪の毛は輝くような金髪の縦髪ロール、瞳は宝石のようなルビー色の真っ赤な瞳、まるで黙っていればフランス人形のような美しさである。――黙っていれば、だが。


 ”300年程前のグリムディアの封印の際、その当時の王太子と力を合わせ成し遂げた功績を称えられ、セシリアの先祖であうバトネ公爵家は正式に『封印の石碑の守り人』という役職を拝命したらしい。”


 民衆は王家とバトネ家を昔から敬ってきたらしく、セシリアは虎の威を借る狐のごとく、そのバトネ家の栄誉を盾にして威張りつくしていた。――しかし、威張るばかりで勉強は嫌い。魔法の特訓なんてしたこともなかった。


 彼女の興味は権力と社交界の華になること


 使用人や自分より身分が低い者には自分の劣等感のはけ口にして虐めまくり、普段から悪役令嬢にピッタリな濃い化粧を施していた。

 ドレスはこってこての可愛らしいプリンセスラインに、フリルがたっぷり施された真っ赤なドレスや黒いドレス。上半身の胸元は妖艶なボディいラインをこれでもかと惜しげもなく魅せつけるような際どいハートカットで、それはもうアンバランスでキツイ盛装をハリアスは嫌煙していた。


 いつもセシリアと(聖女)が衝突する度にハリアスは(聖女)を庇い、セシリアには冷たくあしらった。

 14歳に学院に入学してからは、公務をしながらの多忙な日々を過ごすハリアスを労うことはなく、何故構ってくれないのかと非難するばかり。



(・・・・最低ね・・・セシリア)



 今世を生きるセシリアは、婚約者(ハリアス)より魔法の魅力に取りつかれ、14歳という若さで最高ランクの魔法習得まで成し遂げ、次の『封印の石碑の守り人』として期待されている。

 

 更に文武両道で、学園に入学して1年と少し経過しているが、常5位以内を維持する優秀さ。

 結果が目に見えてわかる勉強と魔法、運動。――セシリアは結果のわかることにやりがいを感じていた。

 


 ――それはハリアスを想う気持ちよりのめり込んでいると言っても過言ではない。

 


 ハリアスとは月に1度はお茶会をして、魔法のアレンジや領の運営。新たな特産品になりそうな商品アイデアの相談など、話し始めればいくら時間があっても終わらないくらい話が盛り上がる。

 2人の距離感は、互いに切磋琢磨している感覚があり、良き同志という絆すら感じられた。



 月に10回以上は手紙のやり取りだってしているから意思疎通もばっちりだ。



 見た目の装いはシンプルなものが好ましく、ごてごて飾り付ける宝石やリボンやフリルは選ばない。

 ドレスだってシンプルなAラインやマーメイドラインがほとんど。

 ドレスは最低限度揃っていれば色もデザインも気にならず、いつも侍女に任せっぱなしである。

 化粧も侍女に薄く整えてもらう程度で、髪の毛はサラサラ金髪のロングストレート。ルビーのような真っ赤な瞳は猫目できつくみられがちではあるが、悪女という噂はまだされたことはないと思う。



 ―――どう考えても小説のセシリアと、今のセシリア(自分)は全く違う。



 前世の記憶を思い出したのは昨日だったが、生まれた時から()()だったと思える。


 思い返してみると、今のセシリアがヤンデレになるとは露ほども思わないし、ハリアスが(聖女)と自分の前でも堂々とイチャイチャしようとするのなら問答無用で婚約解消だってして構わないと思っている。



 ――そしてある結論に辿り着く



 (――もしかして・・・正規ルートとっくに破綻しているのでは??)




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