34…救う術
「――リア??リア!!」
先程まで確かに甘いひと時を共に過ごしていたセシリアは、突然人形のように動かなくなってしまった。
キスをしたいとセシリアの顎に手を添えて顔をあげてみれば、その瞳は何も写していなかった。何度呼びかけても反応のない
姿に嫌な予感しか感じない。
すぐさまバトネ公爵に連絡を取り王宮に呼ばせ、その間にアイとリュシードも召集をかけた。
「――殿下!!セシリアがどうかしたのですか?!」
緊急事態であると理解した公爵はハリアスを敬うそぶりすら忘れ部屋に押し入る。
「――公爵…すまない…セシリアの状態を見てもらえないだろうか?」
ソファに深く腰掛けるセシリアは人形のように腰かけているが父親がきたことすら気づかない。――微動だにしない。
明らかに緊迫している状況に、すぐさまセシリアのそばへ駆け寄ると、ソファにもたれ座るセシリアの顔を覗き込んだ。
「――これは…セシリアの意識が確認できません!!――一体何が起こったというのですか?!」
「…私と一緒に居た時に突然この状態になってしまったのだ…なんの前触れもなかった。
…ただ異変に気付いた時に空気が変わったような気配を感じたくらいだった…」
「…そんな…この状態は……心が…闇に囚われている状況…なのかもしれません…」
「―――?!!…どういう意味だ?!闇には包まれていないぞ?!」
部屋の空気がガラッと変わり皆顔面蒼白で言葉を失ってしまう。
「――確かに今までは体ごと闇に囚われていました。…しかし…憑依は…体ごと闇に囚われるのではなく…心だけなのです…」
「…まさか…魔神…か?」
「…はい…もし私の見立てに間違いなければ…セシリアの心は闇に支配されつつある状態ではないかと
――万が一…体を支配されれば…外見も変化することでしょう…今は…まだ心が抗っているのだと…」
「――…そんな…何故…何故今なのだ…」
愕然としたハリアスは真っ青な表情体を震わせながらもセシリアを強く抱きしめる。
ハリアスの想いが届いていないのだろう、セシリアの表情が変わることはない・・・
「――本来であれば成人を迎える18歳ころセシリアは憑依されるはずだと言っていました。
……憶測でしかありませんが…魔神の魔力に耐えられる体ではなかったからではないかと…」
「…耐えられる身体…?」
「はい…私たち守り人は、高い魔力を持ち、魔力のコントロールができる状況でないと親和性も上がらず、魔神と対話は難しいと先人より伝えられてきました。
今までの守り人は皆先人にならい成人を迎えてから守り人の継承を行っていたのです。
セシリアは例外で、未成年の段階ですでに守り人の継承が出来るほど魔力も強く、魔力センスも持ち合わせておりました。
しかし、神殿での魔獣殲滅の際の体力切れのように、まだ体は器として未完全だったのかも知れません。
――ここ最近のセシリアは、その体力の強化をおこない、魔力操作も段違いにアップしていました。魔神からしてみれば、17歳になったセシリアは、すで器として十分に成長していたのかも…しれません…」
「・・・・・」
皆公爵の意見には否定できなかった。
先日すでに体力値も成人並みにアップし、セシリアは全てが最高レベルに達し、皆そのことを認めたのだから。
それが引き金になったということは、今セシリアは闇の中で魔神と戦っていることになる。
「――私たちは…リアに何もしてやれないのか?」
セシリアを抱きしめたまま苦し気にハリアスは呟く。
「私には確実なことは申し上げられません。
…しかし、聖魔力が唯一魔神に対抗できるのであれば、聖魔力をセシリアの精神に送ることができれば…セシリアの助けにはなるのではないでしょうか…」
公爵の言葉にハリアスはセシリアを見つめる。
(――聖魔力を直接送ってセシリアを援助できるのだろうか…)
ハリアスは不安を拭えない…それでもやらないよりはやって方が良いに決まっている。
このまま時間が過ぎればそれこそ手遅れになるだろう。そうなれば後悔してもしきれない・・・
覚悟を決めて強くセシリアを抱きしめなおすとハリアスは聖魔力をセシリアに注ぎ込む。
優しく暖かな光がセシリアを包み込んでいる。
時間にして数分であろうか、ハリアスが聖魔力を注ぐのを止めセシリアを覗き込む。
――しかしセシリアの表情は変わらない。
注ぎ込まれた聖魔力が行使されるような魔力の反応すらも感じられなかった。
「―――っくそっ…どうしたら…」
闇に抗う術はないのだろうか…憤りだけが部屋を充満し、皆重い空気に押しつぶされそうなほど顔は青ざめたままセシリアを見つめるしかない。
―――!!
「――?!せしりあ?!」
ほんの一瞬…ほんの一瞬であったがハリアスは魔力の反応を感じとった
「反応だ!!…反応したぞ?!!」
「―――!!!」
突然のハリアスの叫びに3人はハリアスを凝視したのだった




