35…魔神の石碑
「――殿下!!どういうことですか?!」
アイは思わず声を荒げて問い詰める。
「待ってくれ!!…どこから魔力の反応が出ているのか確かめなければ…」
ハリアスは必至で感覚を研ぎ澄まし魔力の反応を確かめる。
自分の魔力の反応がふわっともう一度感じたのは胸元のネックレスだった
(――女神様が助けてくれているのだろうか?!)
咄嗟に定期調査の時のネックレスの反応を思い出す。
あの時はもっと強い魔力だったが、ハリアスにはしっかりと感じ取れていた。もし今は魔神の阻害で魔力反応が弱かったとしても、魔法石から魔力を仕えているのであれば…
「――魔法石なら・・・リアに聖魔力が届けられるかもしれない!」
すぐにネックレスを握りしめ今度はネックレスへ魔力を注ぎ込む。
確かに先日魔力を注ぎなおした時よりも魔力が減っているのが感じられた。
(――リア…今も戦っているのか?―――リアっ!!)
心の中で名前を呼びつつも聖魔力をセシリアが使えるようにありったけの愛情をこめて聖魔力を注ぎ込む。
―――しゅうううぅぅぅぅ・・・
ハリアスが聖魔力を注ぎ始めると突然セシリアの身体を黒い靄が多い始めた。
「――闇か?!」
あっという間にセシリアは黒い靄で包み込みその姿は消えてしまう。
先ほどまで確かにハリアスの胸に抱かれていたセシリアの姿はもうどこにも見当たらなかった。
「――そ…そんな…」
「で…殿下!!娘はっ!!…娘はどこに消えたのですか!!」
愕然とする中公爵は混乱しハリアスと追及する。
「――わからない‥だが妨害されたような気がするんだ…
魔法石に聖魔力を入れようとしたら邪魔された。――やろうとしたことは間違いではないのかもしれない!」
「しかしっ…セシリアがいないのでは意味がないではないですか!!」
「―――魔神が我々に邪魔されたくないと思ったらセシリアをどこに連れて行くと思う?」
「!!!」
「戦闘準備をしてモラン山へ向かう!!公爵!至急召集をかけてくれ!!国王陛下へもこのことを伝えてほしい!
アイ嬢!リュシード!行けるな?!」
「「 はいっ!! 」」 「承知しました!」
すっと立ち上がるとハリアスは2人を連れて王宮の厩舎へと急ぐのだった。
***
セシリアが攫われてからすでに半刻は経とうとしていた。
馬にまたがり石碑に急いだ3人は異常なモラン山の様子に驚愕する。
数か月前に討伐したはずの魔獣が至るところに発現しているのだ。
「殿下!これは…魔神が原因なのでしょうか!!」
「――くそっ…そうとしか言えないだろう…」
苦虫を噛み潰したような表情でハリアスはリュシードに返事を返しつつも魔獣をかわしながら目標の場所を最優先にひたすら馬を走らせる。
アイもリュシードも聖魔法と魔道剣を使って魔獣をかわしてハリアスの後に続いていく。
どう考えてもここまでの魔獣の発生度合いからしても魔神の復活は目前のように感じられる。
(―――リア…リア…助けるっ!きっと助け出すからっ!!)
ハリアスの心はただただ自分の胸の中から消えてしまったセシリアだけを想い続けていた。
石碑に近づけば近づくほど闇の魔力はどんどん濃くなってゆく。3人に疲労を感じさせるほどの重苦しい闇の魔力にハリアスは舌打ちをする。
「――アイ嬢!石碑に着いたらすぐに空間浄化を石碑の周辺50m範囲にかけられるかい?!」
「――やりますっ!!」
ハリアスの問にアイは躊躇わず即答する。
「リュシードはアイ嬢を守ってくれ!!頼むぞ!!」
「承知しました!!」
「――行くぞっ!!セシリアを必ず助けるぞっ!!」
「「 はいっ! 」」
一気に坂を馬で駆け上がった石碑の前には宙に佇むセシリアの姿が3人の目に入るのだった。
馬からすぐに降りた3人はすぐに自分のすべきことに集中する。
アイはすぐに聖魔法で浄化を開始し、リュシードは追いかけてくる魔獣を次々と魔道剣で屠っていく。
その動きは神殿での魔力の比ではなかった。
セシリア同様に、アイは聖魔力のセンスを更に磨き、リュシードは魔道剣の威力を装備する魔法石で増幅させる術を身に着けていたのだから。
「――やるじゃないか!!このまま頼むぞ!!」
ハリアスは2人に身体強化魔法をかけると浮かんで佇むセシリアのネックレスを左手で握りしめ右腕で抱きしめると聖魔力を再び注ぎ始めるのだった。
(――リアっ――リアっ!!どうか気づいてくれ!!君は1人じゃない!!私たちを信じてくれっ!!!)
きっとセシリアが魔神に勝つには強い精神で立ち向かうしかない。
女神様の力を最大限に行使する為には信じて愛することを否定してはならない。
(――頼むっ!!気づいてくれっ!!)
必死で願い続けながら聖魔力を注ぎつつも闇の魔力はハリアスにプレッシャーをかけてゆく。
アイが必死で空間浄化をして居るにも拘わらず、魔神はセシリアに執着しハリアスにピンポイントで魔力のプレッシャーをかけているのだ。
「魔神!!――貴様には絶対に負けない!!私も!!リアも!!皆負けはしない!!!」
自分に言い聞かせるかのように叫ぶハリアスは無防備な自身を顧みずひたすらに魔力を注ぎ込む。
ハリアスにはわかるのだ。徐々にセシリアの魔力と自分の魔力が魔法石を通して絡み合い始めていることに。
きっと今諦めたらセシリアを救えなくなるだろうことは直感的に理解していた。
だからこそ自分のことなど考えている余裕などない。
全神経をセシリアに集中し、少しでも彼女が自分の魔力を使いやすいように愛情で包み込むように注ぐのだ。
「――大丈夫!…リア!…君なら絶対勝てるから!!」




