392.馬車の中での仲直り
「あ、あの、馬車に乗せていただいてありがとうございます。
実は、履きなれないハイヒールを履いて長い距離を歩いたので、靴擦れが出来て痛かったんです」
そう言いながら、クララはハイヒールを脱ぐ。
アナが、サッとそこに軟膏のようなものを塗っている。
「そんな状態なら、サッサと乗ればよろしかったのに。
一度断られたら、必要ないのかと思って出発してしまったかもしれないのですよ」
キャサリンは、ため息をつく。
「す、すみません。でも、本当に助かりました。
ありがとうございます」
クララは、本当に申し訳なさそうにお礼を言う。
「まあ、そんなにかしこまることではございませんわ。
それよりも、当然ですが帰りも送って差し上げますわ。
そんな足で、徒歩で帰ることは見過ごせませんから」
「ほ、本当に良いんですか? ありがとうございます」
クララは少し緊張がほぐれたのか、わずかに笑顔になる。
「ちょっと落ち着きましたか?」
キャサリンは、クララを気遣う。
クララは、考えた末に堰を切ったように話し始める。
「はい。キャサリン様が本当は優しい方だと、知らなかった自分が情けないです」
「えっ、私が?」
「はい。私、実はキャサリン様は私のことが気に入らなくて、それで意地悪をされているのだと思い込んでいました。
でも、ここ数日の間、キャサリン様のクラスの皆さんへのお気遣いを見て気づいてしまいました。
キャサリン様は、私のためを思ってキツく当たってこられたのだと」
「あなたのためを思って?」
「はい。今日、徒歩でお城のパーティーに行こうと判断したことが典型的だと思います。
私は貴族としての心構えが、出来ておりませんでした。
きっと、この前まで平民だったから貴族としての常識なんて分かるはずもないと高をくくって、自分の状況に甘えていたんだと思います」
キャサリンは、夏休み前のキャサリンとクララの間の出来事を知らないので、本当に戸惑ってしまった。
「い、いや。そんな深刻に考えなくても……」
「いいえ。キャサリン様はいつも、どうすれば皆が幸せに暮らせるのかを第一に考えてくださっています。
それなのに、私はキャサリン様のその心遣いを意地悪だと思っていたなんて……
本当に情けなくて、自分で自分が許せなくなりそうです」
やはりゲームの中のように、キャサリンはクララをいじめていたのだろう。
だからそれは、意地悪だったのだから気にする必要は無いと言いたいが、それだと自分が意地悪な人間だと言っているようなものだ。
「クララさんは、悪くありませんわ。
夏休み前の私からは、きっと悪意を感じたんだと思うのよ。
でもね、夏休み前までの私は本当の私ではないのよ。
いや、夏休み前の私といっても、その、あの……
もおーっ、なんて説明したらいいのかしら」
キャサリンが取り乱しているのを見て、横からソフィアがとりなす。
「キャサリンお嬢様が、ずっと変わらずお優しい方であることは、このソフィアが証人となります。
多少の行き違いがあったにせよ、キャサリンお嬢様はお優しい方です。
ある程度距離を詰めて一定の時間ご一緒すれば、キャサリン様の心の本質が見えて、そのことが分かるのだと思います」
「そうですよね。今回長い時間一緒にいたことで、キャサリン様のことが理解できるようになったのですね」
クララが、すごく納得した顔になっている。
キャサリンは色々言いたいことはあったが、理解してもらうのは無理だろうと諦めた。
「ま、まあ、そういうことでも構いませんわ」
クララは、笑顔になってキャサリンに話しかける。
「ところで、夏休み明けすぐに私と仲良くしたいとおっしゃっていたように思うのですが」
「はい。確かに言いましたわ」
「私の方こそ、キャサリン様と仲良くさせていただきたいです。
よろしいでしょうか?」
「もちろんですわ」
キャサリンは、クララとの関係が修復されたことに、とてもうれしい気分になった。
これで身の破滅は避けられるかもしれない。
それ以前に、灰色の学校生活がまたバラ色に戻る予感がした。
城門からお城の車寄せまではそこそこの距離があるが、さすがにこれだけの話をしていれば到着する。
キャサリンとクララは、二人で並んでお城の車寄せから扉を通ってお城の中に入って行く。
お城の扉の所にも査問官が立っていて、ファルマイト公国のノーベル公爵家の馬車から降りてきたキャサリンとクララを止める者は誰一人いない。
クララは、感心する。
「やっぱり、キャサリン様はすごいです。
ちゃんと公爵家のエンブレムのついた馬車で到着すれば、誰の手を煩わせることもなく高貴な場所への出入りが出来るんですね。
本当に勉強になりました」
「ま、まあ、そうですわね」
クララの様子からして、お城の城門を通るのに苦労したのだろうことがよく分かった。
まあ、自分と一緒にいればその辺は大丈夫なのは間違いない。
ただ、キャサリンの知っているクララは、そんな難関は気にもせず突破するような強い子だった。
キャサリンは、本当に元に戻れるのだろうかと、少し心配になった。
「あっ、キャサリン様ー、クララ様ー」
扉の外から呼ぶ声の方を見ると、エリザベスだ。
「リズ。今着いたの?」
エリザベスの後ろに見慣れない馬車が停まっているのを見て、キャサリンが聞く。
キャサリンの視線が馬車の方を向いているのを感じ取ったエリザベスは、答える。
「そうだあ。馬車は借り物なんだよ。
ウッドフォード家のエンブレムは、貸してくださった家の紋の上に貼っているだ」
「じゃあ、一緒に会場まで行きますか?」
「行く行くー。ノーベル公爵家、ハイデルベルク伯爵家、ウッドフォード男爵家の3令嬢で揃って歩けば、何だかすごいトリオみたいな気がするだ」
「凄いトリオですわよ。ねえ、クララさん」
「えっ、私?
す、すごいのかな?」
クララは、何だか戸惑っているようだ。
キャサリンは、このトリオで一緒にいられることがとても嬉しい。
このまま、元に戻れたらと希望が湧いてきた。
次回更新は、2月9日(木)の予定です。




