391.城門の儀式
週末、ナードハート城の城門を着飾った学生たちが徒歩で通っていった。
その日、お城の大広間でエドワード皇子主催のパーティーが開かれることは周知されていたが、門番は次々とやってくるその招待客たちに驚いていた。
一人ひとり呼び止めて、名前と素性を聞き、身元の証明になるものを出してもらって、誓約書を書いてもらう。
幸いなことに、全員読み書きできることが救いだった。
魔法学園の生徒たちなので、読み書きできることは当たり前だったが、この世界のほとんどの普通の平民は文字の読み書きは出来ない。
通常は、パーティーに訪れる客は馬車でやってくる。
徒歩でやってくることなど稀なのだ。
馬車でやってくる貴族たちは、分かりやすく馬車に家のエンブレムを付けている。
見慣れないエンブレムでなければ、簡単なやり取りで通すことが出来る。
大概は、招待客のリストが各門の責任者に渡っている。
そのリスト上に無かったり、あってもよく分からない客の場合、通常は門にいる査問官が門を通すかどうかの判断をする。
査問官は、主だった貴族の名前やいでたちを完全に記憶しているからだ。
だが、その日の客は査問官が知らない客ばかりだ。
何度も衛兵がお城と門の間を行ったり来たりして、門を通してよいかどうかの判断を仰ぐことになった。
門番の一人が、隣に立つ衛兵に聞く。
「今日のパーティーは、いったいどういうモノなんだ?」
「さあ、聞いておりませんね。
招待客に皇子様の魔法学園でのクラスメイトが含まれていることは、聞いております。
その所作から平民だとは思うのですが、みな上級貴族のいでたちで、徒歩でやってくるので、そのあまりの落差に驚きは隠せませんが……」
別の衛兵が、話に加わる。
「エドワード様って、第七皇子だろ?
先の戦争で、皇太子とも言えたタロー皇子が亡くなっているから、今は第六皇子なのか。
よほどのことが無い限り皇帝陛下にはなられないし、自分の領地もない。
恐らく皇帝陛下の後を誰かが継いだ後も、スペアとして城に住み続けることになるだろう。
皇帝陛下直系の皇子なんだが、かなり中途半端な立場なんだよな。
とにかくまあ、あの方の考えることは、よく分からんよ」
「おいおい、スペアって。
偉い人に聞かれたら、不敬罪で逮捕されるぞ。
まあ、ここにいる人間は、そんなことを咎めたりはしないがな」
「事実陳列罪で逮捕ってか?
俺たち門番は、お客様に失礼があってはいけないが、場内の方々に危害を加える可能性のある者を通すことも言語道断だ。
お城で開催されるパーティーに、こんな微妙な招待客をたくさん招かれたら、城の出入り口で困ったことになるってことくらい分からんのかね?
皇族は、ちゃんと皇族らしく、プロトコル(お約束事)は守って欲しいものだよな」
「「全くだな」」
城門のあちこちで、こんな会話と笑い声が何度も交わされた。
この世界線では、エドワードはあまり下の者に好かれていないようだ。
キャサリンが知っている夏休み前までの世界線では、エドワードは皇帝になりかねないほどの地位になっていて、城内には冗談でもエドワードの悪口を言う者などいなかった。
当然キャサリンの乗った馬車は、キャサリンの顔パスで門を通過した。
秋の夕闇の迫る並木道を走っていると、クララが並木道をアナと二人で歩いているのが見えた。
キャサリンは御者に頼んで、馬車を停めてもらう。
「クララさん。どうしたんですか?
馬車にも乗らずに、徒歩でパーティー会場に向かうなんて」
声をかけられたクララは申し訳なさそうに、ボソボソと話す。
「クラスのほとんどの人たちは馬車なんて持っていないから、私もみんなに合わせようと思って」
「それにしても、伯爵令嬢のあなたが馬車に乗らずに現れたら、門の人たちもさぞお困りだったんじゃないですか?」
「はい。困らせるつもりは無かったんですが、迷惑をかけてしまったようです」
「せっかく歩いてくるのなら、クラスの皆さんと一緒にいらっしゃれば良かったのに。
どうしてアナさんと二人きりなんですか?」
「はい。私は学校の寮から歩いてきたので、てっきり学校の皆さんも同じ門を通ってお城に向かうものと思っていました。
でも、途中にも門にも誰もいなくて。
仕方ないので、二人だけでお城に向かっているところでした」
「お城には、四つも門がありますからね。
ちゃんと前もって皆さんと打ち合わせしなかったんですか?」
「いいえ。やっぱりちょっと、貴族と平民の間には溝のようなものがあって、私の方からはちょっと……」
「でも、今日のドレスの件では、あなたに相談があったんでしょ?」
「はい。アグネスさん……、あ、あのメガネの方なんですけど、あの人がみんなを代表して私に相談に来てくださったんです。
私の方からは、なかなか話しかけられませんし。
相談は受けましたが、キャサリンさんのように皆さんの悩みを解決したわけでもありませんし」
キャサリンは、あきれてしまう。
この広い城郭の中で、当日行き当たりばったりで皆と会えると思っていたり、自分を頼って相談してくれた人たちに話しかけることも出来ないなんて。
キャサリンの知っているクララとは全然違う。
彼女の知っているクララは、どんな時でも抜け目なく動き、誰にでも遠慮なくカチこむタイプの女子だった。
「あ、あの。あなた、クララさんですよね?」
「えっ? クララですけど。
どういう意味でしょうか?」
すごく困った様子で、横でアナが不安そうだ。
「学校の寮からここまでだと、ずいぶん歩いてこられたと思います。
アナさんと一緒に乗っていきませんか?」
「えっ? でも……、申し訳ありませんし……」
クララが煮え切らない。
「じゃあ、提案はやめます。
乗っていってください。
お城の入り口でも、伯爵令嬢が長い距離を歩いてきたとなると、色々トラブルが起ころうことは明白ですわ。
私の馬車なら、後二人くらい乗っても大丈夫なくらい広いですから、乗ってください。
さあ、アナさんも」
「ありがとうございます。では、お邪魔します」
キャサリンの強引なすすめに負けて、クララとアナはキャサリンの馬車に乗り込んだ。
次回更新は、2月7日(火)の予定です。




