入試に向けて
セインエイツの街通りを放浪人とサーナは
セインエイツ学園入学試験の受付所を目指して並び歩く。
綺麗で店や人通りが多い街の様子に放浪人は田舎者の
ようにチラチラと通る店を確認していた。
「店と人が多いんだな。綺麗な建物は多いし」
「すごいでしょ。しかもここはまだ序の口よ
街の中心なんて買えないものがないっていうくらい
品揃えがいいのよ」
「食べ物には困りそうにないな」
「あんたそればっかりね」
言うと思ったとサーナは肩をすくめる。
すると放浪人がサーナの肩に違和感を覚えた。
「そういえばシショウはどこに行ったんだ
てっきり店の前で待ってると思ったが」
サーナの肩にシショウが戻ってこない。
しかし以前とは違いサーナは特に気にする様子もなかった。
「多分散歩に出てるのよ」
「散歩?」
「ええ。いつもセインエイツの周辺を探索してるみたいなの
多分夜にはわたしの寮に帰ってると思うわ」
「結構飼いならせたもんだな。俺にはなつかなかったのに」
「今や学園の有名鳥だからシショウ」
変な鳴き声?の鳥がいたらまぁ誰でも注目するだろう。
「ところで学園はどこにあるんだ」
放浪人が訪ねるとサーナは少し右の方向を指さした。
高いビルの隙間から大きな時計塔の姿
その横には真っ白で高く大きな建物
放浪人は目を細め建物を眺め感心する。
「立派なもんだ」
「でしょ。でしょ。外もすごいけど中もすごいのよ
広い施設で高度な魔法や魔術、武術の教育が受けられるの」
サーナは学園を見上げたながら笑う。
「わたしもこの学園に入ってから魔法のスキルが
かなり上がったのよ」
「なるほどそれで今や寒雷の…」
「…やめて」放浪人の脇をサーナがどつく。
「何故だお前がそういってんだぞ」
「うー。忘れてよ。その通り名せいで散々だったのよ」
ジャーバンドが数日間鳴りやまない日々。
その内学園に治安維持の人間が事情聴取に来るなど
数週間振り回された
「ということよ。だからその名は禁止」
サーナは口に指でバッテンする。
「フン。大変だったんだな」
「クールに返しといてニヤつくな」
なんやかんや仲のいい二人はこんな感じで
話しているうちにやがて小さな建物の前にたどり着いた。
「ここよ」サーナが立ち止まる。
「なんだ学園内じゃないのか?」
「昔は試験も受付も学園内だったらしいけど
無断で学園に入ってくる人間が多くなったみたいで
それ以降違う所で試験場所になったみたい」
「どこの世界もそういう人間はいるんだな」
放浪人は深くため息をつく
「マスター学園の試験についての情報を入手して
おきました」
ログが点滅する。
「あとで聞かせてくれ」
「わかりました。では受付に提出するデータを作成しておきます」
「たのむ」
放浪人は腕を上げログに頼み込むその様子に
「やっぱり。いいな。何も言わずサポートしてくれたり
話相手になってくれて」
サーナがやはり羨ましいという表情するも
それとは対照的に放浪人はウーンと
困惑の表情を浮かべる。
「確かに便利なんだが最近とやかくうるさくてな…」
最初の頃と違って少々言葉をはさむことが多くなったログ
「それはあんたがだらしないからでしょ
さっきも行き倒れそうになったし」
「サーナさんよくお分かりで実際そうなんです」
「やっぱり」
サーナとログの会話に放浪人は舌打ちし不機嫌そうに
受付所に入っていく。
中はそこそこ広く白く明るい照明が中心にぶら下がっていた。
手前には待合室が設置され中心には受付の
女性が丸テーブル越しに暇そうに座っている。
「ガラガラだな」放浪人は辺りを見渡すも人は受付の人間以外おらず
微かに見える二回の階段あたりで男が二人飲み物を飲みながら
談笑しているぐらいのものだ。
「いったでしょ。ほとんど推薦組か中等部からの飛び級
ぐらいなものだってそういう人はもうほとんど受付は
終わらせて試験に向けて修練してるわ」
後から入ってきたサーナが放浪人の背中越しにつぶやいた。
「受付を通った人は試験日まで希望があればこの中の施設を
自由に使えるの寝泊りできる部屋はあるしトレーニングルームや
演習部屋、図書室が借りられるの」
「受験者と思えない好待遇だな」
「そうね」サーナは頷いた。
「もちろん合格出来なかったら施設代金取られるけど」
「世の中そんなにあまくないか」
放浪人は腕のログを確認してそのまま受付に足を進める。
「ふわー……あっ」
ちょうどあくびをしていた受付の女性は放浪人に気づくと
慌てて背筋を伸ばした。
「あっえっとおはようございます。本日はどのようなご用でしょうか」
必死に笑顔を作ろうとする受付の女性。慣れていないのか
顔が引きつっているみたいで少し変になっている。
「セインエイツ学園の入試を受けたい」
放浪人は席に座りちょっと照れくさそうに頬をかく。
「入試ですか?はー残り半月で三人も来るなんて珍しい」
女性は珍しい者を見るような顔でジロジロと眺めた。
「あらカッコいい顔ね。というより貴方どっかで見たことあるような……
ごめんなさい!」
ハッと女性は正気に戻ると引き出しから書類を出し並べた。
「ゴホンそれでは手続きをさせてもらいます
始めに何か提出できる物はありますか?」
すると後ろにいるサーナが放浪人に腕についているログを指さした。
受付の女性はそれに気づくと
「ジャーバンドからの登録ですね」
自分の腕についているバンドを操作し画面を広げる
「それではデータを送ってください」
その言葉と同時にログが即座に反応してデータを送信しました
と表示する。そのあまりの早さに女性は少々驚くも
「確認します」送られたデータを確認。
すると女性の表情が曇る。
「ホウロウジン……これはお名前でしょうか」
こんな名前信じれないという顔。
まさにそうよくここまで誰も突っ込まなかったものだ!
しかし放浪人は顔色一つ変えず
「そうだが」と返した。
女性は怪訝そうに放浪人を見る。
しかし今までそう名乗ってきたのに慣れた放浪人は
特に動揺する様子もなくむしろ何か問題があるのかと
しかめっ面をする。
「えーとはい失礼しました。では手続き進めさせてもらいます」
女性は頭を下げて慌てた様子で書類作成を始めた。
「あんた。そういえば名前まだ思い出せないの」
サーナは放浪人に耳打ちする。
「別に放浪人じゃなくてもよかったかもな」
すっかり名前を変えるチャンスを失ってしまった放浪人は
ガクリとうなだれた。
「放浪人の本当の名前一体なんて名前なんだろちょっと楽しみ」
自分の本当の名前それが分かる日は来るのだろうか考える放浪人。
しかしいくら考えても答えは出ない気がする。
「えーと放浪人様。お名前を検索しましたが推薦状などが
無いようですが。フリーでのご参加ですか?」
女性がいくつかリストを表示し訪ねる声に
放浪人は肯定する返事を返した。
女性はチラチラと書類と放浪人の顔を交互に見たが
やがて諦めた。
「それでは登録完了しました。ジャーバンドに受験番号と
試験の日とスケジュールのデータを送りましたので
ご確認ください」
放浪人はログをチラリと眺める。
『オッケーです。マスター』文字が流れた。
「確認した」
「それではこれで手続きは完了となります。
今日から試験日まではここの施設は自由に使って構いません
寝泊りできる部屋は受験番号に記されている番号です」
女性は書類に手をかざすと光が一気に部屋全体を駆け抜けていった。
「わからない事や何かありましたら受付にお越しください」
「ああ。わかった」放浪人が首を縦に振り肯定したことを確認すると
女性は胸をなでおろし笑顔で
「それでは試験頑張ってください」と頭を下げるのであった。




