優しい別れと渦巻く暗闇
これで4章終了です。
「もう少し…ゆっくりしていけば」
エナルインが名残惜しそうに出ていく準備をしている
放浪人に話しかける。
「もともとは食料調達の為に寄っただけだ
むしろ長居しすぎた」
黙々と荷物を袋に入れ最後に革手袋を
手にしっかり着用しながら放浪人は応えた。
「もう!こっちはもっとゆっくりしてもいいのに」
ヌっと出てきた見覚えある巨体でムキムキ筋肉の女性…
すっかりもとに戻ったプルランが部屋をのぞきこんだ。
どうやら一時的に戻っただけで次の日は見事元通り
完全に抜け切れるにはまだ時間がかかるらしい。
「随分と世話になったな。傷の治療と
荷物入れ、数日分の食べ物と水。感謝してもしきれないな」
「フフ、何言ってるのわたしも久しぶりに熱くなれたし
それに少しの間元の体に戻れて私たちも感謝してるんだから」
プルランは放浪人に微笑みかける。
するとカラトもその後ろから顔を出した。
「そうだよ。それに君がここにきたから
エナルインに会えた。礼を言うのは僕らの方さ」
「そうね!二人とも大好き!」
プルランのあつい抱擁をエナルとカラトはサッと身を引きかわす。
「なんでかわすの二人とも」
「プルラン、力加減まだできてない」
「悪いけど僕も怪我はしたくない」
「うーんこの姿。気に入ってるんだけどな」
エナルとカラトの指摘に落ち込んだプルランを
横目に放浪人は外に出た。
外に出ると子供達は走り回り大人たちは
重そうな樽や野菜を持ち運んでいる。
「おう小僧!きいつけろよ」
「兄ちゃんまた遊びにきてね」
「今度はうちに飯でも食べにきなさいよ」
村人たちはそれぞれ放浪人に別れの挨拶を送る。
放浪人は挨拶を返しているうちに気が付けば
村の出口である木の前にたどりついた。
「この先を行けばゆっくり下る坂道がある
少し回り道になるが歩いて行けばセインエイツにつくよ」
「ありがとうございます。
新しくそのデータを更新させていただきます」
カラトはログに指示をすると地図の表示が切り替わる。
この間の大雨で行ける通常の道は未だに使えないらしい
来た道から少し遠回りの形になるが問題なく行ける道。
「色々話を聞かせてくれてありがとうログ。君のおかげで
だいぶ研究を進めることができるよ」
「いえいえ。こちらこそマスターへの支援感謝してます」
「放浪人もありがとう。またいつでもこの村に寄ってくれ」
カラトは放浪人に手を差し出す
「ああ。あんたには世話になったな
色々落ち着いたらまた挨拶に伺う」
放浪人も手を差し出しカラトと握手を交わした。
「放浪人ちゃんなら大丈夫だと信じてるけど気をつけてね」
プルランはそう言うと拳を突き出す
「また。勝負しましょ。わたし負けっぱなしは嫌いなの」
「いいだろう。その挑戦いつでも受ける」
プルランと放浪人は笑い拳をぶつけた。
プルランは懐かしさを感じた。
(放浪人ちゃんを見ていると後輩ちゃんを思い出すわ
あの子元気でやっているかしら)
かつて同じように競い合った後輩を思い出していた。
エナルは二人に別れを告げる放浪人を見て
少し切ない気持ちになった。
正直ついて行きたい気持ちもある
しかしエナルにとっては見知らぬ異世界
放浪人やこの村の住人みたいに自分を受け入れてくれるとは
限らない不安があった。それにカラトの言っていたこの木を
もっと調べれば自分の世界に帰れる可能性があるし
プルランとカラトのあったかい家がとても気に入っている。
(ホウロはセインエイツにいる…だからいつでも会える)
自分にそう言い聞かせた。
「じゃあなエナル。あまり迷惑かけるなよ」
放浪人はエナルを見てニヤリと笑いかける。
「わかってる。うち、子供じゃない」
「そうか。なら安心だな。
こっちでも何か扉についてわかったら教えるよ」
「また会いにくる?」
エナルは上目づかいで放浪人をみると
照れくさそうに頬をかいてエナルの頭
耳を寝かせるように頭を優しく撫でた。
「あのさ…助けてくれてありがと」
「気にするな」
放浪人はエナルの頭から手を放すと
荷物を持ち直し背を向け歩いていく。
「ホウロ…」
「エナちゃん大丈夫また会えるわよ」
プルランはエナルの肩に手を置いた。
「もう少し世間が獣人を認識し始めれば
セインエイツに行けるよ」
カラトもエナルの肩に手を置く。
(きっとすぐ会える)
エナルは消えゆく放浪人を眺め続けた。
丘を下ったある場所
ザガンが空中に浮いた丸い輪の前に立っていた。
輪の中は黒く歪みその先が見えない。
ザガンはゆらゆらと揺れる輪の中に足を踏み込んだ。
(次元魔法と転移魔法を使ってあの扉のように
この世界と異世界を繋げようとしたが……
だめだな。やはりなにか足りねえ)
中は太陽がないのに明るく雲が動かず風もない。
何もない平原がひたすら続く
(本物の扉を見つけることができれば
近いものを作れるんだがな)
ザガンは手に持っていたナイフを宙に振った。
すると先ほどのと同じように空中に切れ間ができた。
(この中で時空を開いてみても元の世界に戻るだけか)
空中で円になった空間に入るとザガンは
風がなびく元の世界に戻ってきた。
(仕方ねえ。この実験は本物の扉を見つけるまでお預けだな)
ザガンはニヤリ笑い。歩き出した。
放浪人は果たして無事セインエイツに
たどり着くことができるのか!
第四章 完! 五章に続く
5章もよろしくね




