第55話 オカマムジカ、戦場に降臨。
龍老樹の塔が造られた訳、それは龍老樹から発生する強力な創造エネルギーの発生を抑え、地下世界アストラルのバランスを安定と外敵から守護する為である……。
当時、創設者のステファーム・アストラルは大変な苦労を要し、凶暴化した動物による襲撃や、気温、そして病に倒れる者達に悩まされた……。
それでも、ステファームは諦めなかった。リサ、愛する者との約束だからだ……。
人はどんな最悪な身分でも、己の行動、小さな積み重ねを歩めば、英雄になれる。
~アストラル生涯の記録~。
ーーー〈龍老樹の塔、中央広間〉ーーー
3人は龍老樹の塔の中に入る……。薄暗く、静寂な雰囲気が漂い、壁にはパキパキと燃える炎の松明が壁に掛けられ、上階に登る壁階段が続いている。
屋内は広域、地面には青銅造りのタイルが地面に張られ、広間の奥には祭壇が設置されている。
祭壇にはリサの銅像が置かれ、崇拝されている。 ユーギガノス時代の生々しい戦争記録を映した壁画が燃える炎の松明により、照らされている。
「ワシが小さい頃、地下世界アストラルの人達がこの塔に集まって、年を越しの感謝祭が開かれていたんだ。祖先からの習わしで、無事に年を越せた感謝の意味を込めて、祭歌を奏でた。人々は、塔を愛し、塔も人々を愛した……。しかし魔界軍により、壊され、祭りは遠い過去の出来事になった。およそ、何十年、ワシは戦いばかりで、忘れていた……」
ムジカは屋内の景色を眺め、遠い過去に黄昏る。
塔の広間で豪勢な食事、祭壇では音楽団による宴会が開かれ、地下の龍老樹に、感謝の祈りを捧げた……。
あの頃が一番、平和だった……。
(ムジカさん……)
ムジカの黄昏れた独り言に、ゼブラは何も言葉が浮かばない。
「すまない、少し昔に黄昏れてしまった。只今より攻略戦を開始する、お前達は臨戦態勢を整えておけ……」
ムジカは気を取り直し、皆に伝える。
「待ちたまえ……」
その時、地面に詠唱陣が光の輪になって描かれ、何者かが姿を現した……。
上半身は裸、腰にバスタオルを巻いた金髪の美青年の姿をし、ブルーの瞳、足にサンダル。
奴は魔界六人衆のセアル、スラリとした身長、姿形はまるで人間的である……。
「何者だ?」
ムジカは尋ねる。
「僕の名はセアル。魔界で一番、美しい魔族さ……」
セアルはセクシーな動きで片腕を伸ばし、クルクル回り、自己紹介。
また、面倒臭そうな奴が現れた……。ガープといい、マリーといい、魔族と言う奴は色々、特性が濃い者達ばかりである。
「美しさだと?……」
セアルの美しい……。と、言う言葉に火を点してしまったのか、ムジカはプルプルと肩を震わせる。
「どうしたのかね?」
セアルは不敵な微笑みを浮かべる。
「俺の前で美しさを語るとは、実に面白い奴だ……。受けて立ってやる、待っていろ……」
対抗意識を燃やし、ムジカは広間の片隅に移動する……。
軍服から化粧道具を取りだし、何やら準備に取りかかる。美には美を……、地下世界アストラルいちのう・つ・く・し・さ、を誇る蝶、どちらかと言えば爬虫類に変身するのだ。
広間の片隅から化粧の粉がフワフワと漂い、変身中である。
「何をしているんだ?、奴は……」
ヴァンは腕を組み、ゼブラに尋ねる。
「知らない方がいい……。後、離れていた方が、いいぞ……」
ゼブラは小さく警告。
塔の出入口の門の柱に移動し、身を隠す。
(どういう事だ?……)
身を隠すゼブラに、ヴァンは気にしない。
フワフワと化粧粉を撒き散らす変身中のムジカを、何が始まるのだろう……。と、面白そうに期待し、見学。
ーーーそして。
「ひゃっ、ほぉーーーいっ!!」
広間の片隅から産まれたように飛び出し、オカマムジカ、戦場に強烈なインパクトで降臨。
軍服コートをバサッと脱ぎ捨て、上半身は裸。
変わったのは顔、パッチリの瞳、付けまつ毛、厚化粧。印象的なふっくらし赤くちびる。ここにも、面倒臭い輩が1人。
「なっ……。何だ、コイツは……」
バケモンを見るような様子でヴァンは言葉を失い、ジリジリと後退。
「あら、いい男。ウチの店で働かない?」
クネクネした動きでヴァンに近づいてくるオカマムジカ……。
グイグイとインパクトの強い顔、ふっくらくちびるをヴァンに近づかせ、フリフリと腰を振る。
「ええいっ、寄るな鬱陶しいっ!!」
キツイ香水の匂いが鼻に突き刺さり、ヴァンはクールな様子で振り払う。
「あら、そんな事を言うと……。うらっ」
「ふわっ!!」
オカマムジカに股間を右手でグイッと握られ、ヴァンは思わず変な声をあげ、悶絶していた。
股間を握られているヴァンはガタガタと表情を震わせ、冷や汗を滴らせている。
ーーー人生で、股間を握られる事なんて無いし、体験した事の無い痛感が行き渡る……。
(敵ながら、御愁傷様……)
一方、出入口の柱に身を隠しているゼブラは、ヴァンに合掌。その場にいなかった事を、幸運に思ううのである……。
もし、ヴァンがいなかったら、ゼブラの股間が犠牲になっていただろう。
「ふぅ……。アナタの感触、覚えたわ、ふふふふ」
オカマムジカはヴァンの股間から手を離し、企みの笑みを浮かべ、握った右手を満足気にコキコキと動かす。
ーーーヴァンの方は苦悶の叫びを小声で響かせ、ジタバタと地面に転がっている。
「この勝負、受けて迎える。覚悟しろ人間よ、本当の美を教えてやる」
セアルは片手を掲げ、セクシーなポーズで布告。
「行くぞ、ヴァン……」
「ああっ……」
ゼブラに手を引っ張られ、ヴァンは立ち上がる。
掴まれた股間がまだ痛い、危うく潰されそうだった。それ位、強く握られた。
全く、地下世界アストラルに来てから、ロクな事がないな……。と、ヴァンは嘆く。
ーーーそして……、二人はコツコツと足音を高速に響かせ、階段を登る。
目的は、塔の頂上部に身を潜める敵の総司令を撃破し、制圧する。




