第56話 ローズ・ハットン
ーーーゼブラとヴァンは、長い通路階段をコツコツと足音を響かせ、掛け登っていた。
通路階段にはレンガ造りの壁、灯されている青光の魔力水晶が輝き、通路を照らし、不気味な静寂を漂わせている……。
一方、下の中央広間では、ある意味、凄い戦いが繰り広げられ、言葉では表現しきれない。
「言っておくが、俺はお前を信用していないからな……」
ゼブラは警戒心を覗かせ、声をあげる。
「好きにするがいい……。傭兵の仲間と言うのは仕事が終わるまでが仲間であり、終われば赤の他人だ……」
ヴァンは物静かに語る。
自身はフリーの傭兵業を生業としており、様々な戦地を経験し、色々な輩と共にした。
しかし、時に仲間でも、敵前逃亡、裏切り、敵に寝返る、と言った光景もあり、苦労し、見てきた。
長年、フリーの傭兵業を経験している為、恨みを買われる事もあり、刺客に狙われる事もある。
「協力すると言って、簡単に信用なんて出来ないからな……。突然、隙の空いた所にグサリもあり得るからな……」
ゼブラは用心深い様子で前を向く。
「何度も言ったが、お前は殺す価値は無い」
「それは何故だ?」
ゼブラは尋ねる。
「貴様に教える筋合いはない」
と、ヴァンは冷静な様子で答える。
それから、二人に会話はない。そのまま掛け登り続けるのである……。
ーーー10分、20分と、通路階段を掛け登り、二人の前に、巨大な鉄扉が前に立ちはだかる。
扉の中からドス黒い殺気、高圧な雰囲気が漂い、嫌な予感しかしない……。
数分間、二人はドス黒い雰囲気が漂う扉の前で思わず足を止め、用心深い様子で伺う。
ギィッ………。
鉄扉は低い音を響かせ、自動的に開いた……。
ーーー2人は渇いた足音を響かせ、室内に入る。
広々とした円形広間、外の景色が一望に眺められる程の外庭テラス。
青銅造りの地面、広間の中央部には石造りの壇、白い魔力水晶がフワフワと浮遊している。
「まさか、ここまで乗り込んで来るとはな……」
「ーーーーーッ!!」
謎の声に、2人は思わず声の方に振り向く。
「水晶から眺めさせて貰ったぞ、義勇軍……」
パチパチと拍手し、外庭テラスから姿を現したのは魔界軍の指揮官ローズ・ハットン。
艶々のトゲトゲ黒髪、顔はグルグル巻きのターバン。身長は180センチ、がっしりした体躯。全身は漆黒の鎧を着用し、広背には厚手の黒マント。
「お前が魔界軍のアレか?」
ゼブラは剣を構える。
「そうだ。これから死に行く者に、せっかくだから教えてやる。私が魔界軍指揮官ローズ・ハットン、地下世界アストラルに長い戦争を引き起こした張本人だ……」
ローズ・ハットンは不敵に笑い、グルグル巻きのターバンをバサッと脱ぎ捨てる。
トゲトゲの黒髪、紫に光る鋭い瞳は、まるで何かに操られている姿に見えてしまう。
両頬はくぼみ、ボサボサの長髭……。全身から紫の光圧を漂わせ、魔力の高さを示している。
(コイツが元凶?)
ゼブラは睨む。
「銀髪の男、もしや貴様が例の侵入者か?」
ローズ・ハットンはヴァンに尋ねる。
「その様子だと、アイツらを送り込んできたのはお前だな?」
ヴァンは剣をスラリと抜く。
「魔界六人衆を送り込んだのは、この俺だ……。気分が良いから、もう1つ教えてやる。その中央に置いてある水晶、あれで魔界側と通信し、こちらに兵隊を呼んでいる。この意味、わかるかい?」
ローズ・ハットンは気分の良い笑みを浮かべる。
しゃべり方が人道外れ、まるで神経が最果てまでイカれた殺人者みたいだ。
雰囲気が、言葉では表しきれない程、怖い。
(何だよ、コイツ……)
ゼブラは少し臆し、表情を曇らせる。
「魔界の世界勢力と戦っているんだよ。強大な勢力を持つ我が軍に対し、そちらは少数世界の軍。今まで、我が軍は地下世界アストラルの制圧に力を入れていなかった。しかし、地下世界アストラルを中々、支配出来ない我が軍に痺れ切らした魔界軍は、こちらに増援を送って頂いた……。我が軍が少し力を加えると、この世界はあっと言う間にひれ伏した。脆いものだ、地下世界アストラルは……」
嘲笑うローズ・ハットン。
「ふざけるなっ!!、この世界で生きている人達を見下して何が面白い、お前はそれでも人間かっ!!。何故、そこまでして戦争するっ!!。何故、この世界の人々を苦しめるっ!!。答えろっ!!」
まるで、自分の事のように……。ゼブラは怒りの声をあげる。
人々は地下世界アストラルを守る為、何時、戦いになるか怖い状態に怯え、それでも明るく生きている……。その人々が、弱いだと……。
「クククククッ……」
不気味に笑い声を響かせるローズ・ハットン。
「何がおかしい?」
ゼブラは真剣な様子を浮かべ、応戦態勢。




