第25話 地下世界のもう1つの現状
ーーーー〈町の表通り〉ーーーー
ゼブラとユリアは町の表通りを観光し、歩いていた。灰色の空、蒸し暑い空気、涼しい服装をした現地人、魔界人が縦横無尽に行き交い、平和だ。
魔界軍は何故、地下世界アストラルを支配したいのだろうか…。まったく、わからない。
一帯に建ち並ぶ建物、露店、タイル張りの地面。
明日、戦場に赴くのか…。と、歩いているゼブラに緊張感がピシッと、のしかかる。
「何の話をしていたのですか?」
ユリアは尋ねる。
ゼブラは不安な様子を浮かべ、口を開く…。
「明日、戦いが始まるんだってさ…。砦がマズイ事になっていて、いつ陥落するかどうか、わからないらしいんだ…」
「アナタも、そこに行くのですか?」
ゼブラの言葉に、ユリアは心配な様子。
「ああ」
ゼブラは頷く。
「怖いですか?」
「怖くない。何故なら俺の戦う理由は…」
「アナタの戦う理由?」
ユリアは興味深く、ゼブラに目を向ける。
ユリアに見つめられ、ゼブラは思わずドキッとし、恥ずかしながら口を開く。
「俺の戦う理由は君だ…。その理由の下、俺は魔界軍から地下世界アストラルを守り、そして戦争に終止符を打つ。それだけだ…」
ゼブラは恥ずかしい様子で、ユリアから目をそらし、不器用に答えた。
出来れば、戦う理由は口を出して言いたくはない。恥ずかしいからだ…。
二人は町の表通りを歩き続け、立ち並ぶ露店に目を配り、気晴らしに観光。
ーーーーー〈中央広場〉ーーーー
町の広場に戻ってくるゼブラとユリア。
「やめて下さいっ!!」
と、女性の叫び声が広場中に響き渡る。
声がした所は噴水広場。義勇軍の2人の男性兵士が、若い女性1人に対し、何かしようと、強引に手を引っ張っている。
女性の服装はワンピース、額部には宝石。女性は魔界人だ。
「そんなに嫌がる事は無いだろ?。俺らは日頃、命を賭けて戦場に赴いたりしているから、その分、欲求が溜まってるんだよ。だから慰めて欲しいの、わかる?…」
兵士はイヤらしい声で口を開く。
「いや、離して下さいっ!!」
魔界人の女性は必死に叫び、ジタバタと抵抗。
魔界人の女性の手は、兵士に力強く手首を掴まれ、逃げられない。
何故だろう、広場の人達は状況を見物するだけで、助けようとしない…。
「オイオイ。魔界人のお前が、この町で差別無く、暮らせているのは誰のおかげなんだ?。これはさ、ほんの、税収。お前も、俺達も気持ち良くなるんだよ。悪いことじゃないだろ?」
もう1人の兵士は言った。
「本当に、やめて下さい…」
女性はシクシクと、涙を流す。
女性の言葉に、兵士の表情が変わった…。
「何が。止めて下さい、だ?。そうやってリベリウスの人々が命乞いして、お前ら魔界人がゴミのように殺した…。調子に乗るなっ、この薄汚い人種がっ!!」
何かの気に触れたのか、兵士は表情を凄ませ、魔界人の女性に暴言を吐く。
見てはおけない…。と、状況に見かね、ゼブラとユリアは駆け寄る。
「いい加減にしろっ」
ゼブラは声をあげる。
「何だお前は?。これはな、俺達の問題だ。勝手に入って来たら困るんだよ、帰れよ…」
兵士は言った。
「そうはいけません。女性一人を二人がかりで脅し、みすみす見ておけません。この町では魔界人と、アストラル人は、一緒ではないのですか?。魔界人と差別し、私欲を強要するアナタ達の方が、よほど汚れていると思います…」
ユリアは怒りの様子。
女性の被害を、まるで自分の事のように、叱咤。
「うるさいっ!!」
と、兵士は逆上。
右の裏拳をユリアに向け、思いきり振り上げる。
「ーーーーッ!!」
振り上げられた兵士の右の裏拳は頬をカスり、ユリアは思わず地面に転んだ。
カスったユリアの左頬は赤い擦り傷が残る。
「テメェッ!!」
転んだユリアの姿に、ゼブラは激怒。
気持ちが反射的に動き、右の拳を兵士の顔面に叩き込む。
広場の人々は兵士を殴り倒したゼブラに目を移し、集まってる。
「大丈夫かっ!?」
ゼブラは心配な様子を浮かべ、ユリアの安否を尋ねる。力無く倒れた為、マズイ所に当たったのではないかと、余計に心配だ。
一方、地面にへたり込むユリアは、赤く擦れた左頬を撫でている。
殴り倒された兵士は噴き出す鼻血を押さえ、立ち上がる。
「何しやがるっ!!」
兵士二人はゼブラに殴りかかり、喧嘩に発展。
広場中に、殴り合う3人の拳の音が響き渡り、エキサイトな状況だ。
お互い、気持ちは紅に灼熱し、人々の注目を、まったく気にしない…。
「何をしている、止めないかっ!!」
広場にムジカが駆けつけ、喧嘩に仲裁。
ーーーそして…。
兵士の二人は、ムジカに(しばらく謹慎してるんだ…)と、命令され、広場から立ち去る。
ゼブラの顔は、喧嘩の傷により、至る所に青痣。
しかし、慣れているので気にしない…。
「喧嘩の原因は何だ?」
ムジカは渋い様子でゼブラを睨む。
ゼブラは、ムジカに喧嘩の理由を話した…。
「そうか…」
納得し、頷くムジカ。
「アイツらの言っていたリベリウスって何だ?」
ゼブラは尋ねる。
兵士から聞いた言葉が、頭の中をグルグルと回り、思い浮かんで、気になっていた。
ムジカは腕を組み、広場を眺める…。
「リベリウスは、地下世界アストラルのもう1つの町であり、この戦争の発端となった町だ…。あの町は昔、魔界軍に侵略され、多くの人々が虐殺された。だからこの町にも、魔界人を嫌っている者もいるし、差別問題は色々ある…。解決しようと努力はしているが、必ず反対者は現れる。共存し合える町にしようとしても、難しいモノだ…」
(………………)
ムジカの重い説明に、ゼブラとユリアは黙る。
理由なく首を突っ込んだ為、よそ者である自分達が、何故か哀れな気持ちになる。
もし自分達が、地下世界アストラルの人間だったら、同じ様な事を言えたのだろうか…。
理由なく、大事な人を殺した人と、共存しろと言われたら、普通の人はムリと答えるだろう。
ーーー〈ムジカの酒場〉ーーー
ゼブラとユリアは、店内のカウンター席にて、腰を掛けていた。
明日、戦場のアロウン砦に赴く為、店は閉めている。だから客はいない…。
「痛っ…」
ゼブラは、ムジカから傷の手当てを受けていた。
「オスなんだから、ガマンなさい」
一方のムジカはオカマの姿。
消毒液を染み込ませたガーゼをピンセットで挟み、ゼブラの顔の傷にチョンチョンと押し当てる。
「手当てくらい、普通の姿でしてくれないか?」
ゼブラは呆れた様子で文句。
ユリアに手当てをしてもらった方が、嬉しい。
「何か言ったかしら?」
オカマのムジカは強烈に睨む。
反論すると面倒臭い為、ゼブラは黙る…。
そしてムジカは手当てを施し、絆創テープで巻いた湿布を、ゼブラの顔中に張り付ける。
一方のユリアは軽傷だった為、左頬に絆創膏を張っただけだ…。
しかし、最初はヒリヒリと痛かったが、時間が経つ事に、痛みは消えてなくなっていた…。自身の力をゼブラに知られたくない為、絆創膏は取らない。
ーーーー次の日。
風景は変わっていないが、時刻は未明。相変わらず蒸し暑い霧が漂い、ダルい。
ゼブラは基地の演習グラウンドに集合していた。
演習グラウンド一帯には数百名の兵士が一斉に整列し、ピリピリした緊張感を漂わせる。
皆、アロウン砦に赴く増援部隊である。日々の鍛錬により、兵士達の瞳は鋭く、強靭な気持ちを備えている。
戦いの恐怖は、兵士に志願した時に置いてきた者ばかりだ。皆から、恐怖は感じない…。
すると、ロベルト司令が最前の演説壇に立ち、整列する兵士達を眺める…。
「諸君、よく聞いてくれ。十数年の鉄壁を誇るアロウン砦の防衛ラインの戦況が、最悪な状況に入ったと、報告が入った…。戦況は過去最悪、このままではリベリウスの町のように、この町も魔界軍に侵略され、敗戦の戦況辿る事になる。地下世界アストラルにおける草や木、全ての物は我が祖先達が苦労を積み重ねてきた社会であり、栄光でもある。奴らに地下世界アストラルを渡してはならない。我らの目に浮かぶ未来は、奴らによる一方的虐殺か…。否、そんな未来は実現させてはならない。アストラル砦を、第2のリベリウスにしてはならない。この町に戦火を浴びせないように、戦おう。我らの祖先、ユーギガノスを胸にッ!!」
ロベルト司令は胸に右拳をドシッと押し当て、兵士達に向け、掲げる。
「ーーーーーッ!!」
全ての兵士達はロベルト司令の意義に応え、雄叫びを響きかせる。
雄叫びは地鳴りのように一帯に張りつめ、凄まじい迫力である…。




